おやじパンクス、恋をする。#063
「どういうことだよ、てめえは何を知ってんだよ」
「つうか、こんな偶然あるんだなあ。世間は狭いっていうけど、マジなんだな」
「いや、勝手に納得すんなよ。訳分かんねえよ。説明しろよ」
「うーん、つってもさあ、どっから話せばいいのか」
「いや、だから、どっからでもいいから言えよ。なあ」
俺が食い下がると、カズは顔をしかめて、うーん、と唸った。
「いや、うーん、でもなあ」
「何だよ、頼むよ、教えてくれよ」
「うーん、しゃあねえな。つまり倫ちゃんは、親父の知り合いのオッサンの、娘みたいなもんだ」
「倫ちゃん? いや、なんだよそれ。おやっさんの知り合いの……」
「だから、親父の知り合いのオッサンの、娘みたいなもんだって」
「変わってねえ。それじゃ分かんねえから聞いてんだよ」
俺がほとんど噛み付くような勢いで言うと、カズはうーん、と天井を見上げるようにして、また頬を掻いた。そんなに痒いなら髭剃れよ、もう。
「なあ、頼むよ。俺、今回は何かいつもと違えんだよ。それはさっき言っただろ? おやっさんの知り合いの娘? 何なんだそれ」
「いや、娘じゃなくて、だからさっきお前も言ってたじゃねえか。本当の親は別にいて、だけど、事情があって彼女を育てられないから、別の人間がその世話をしてたってさ。その別の人間っていうのが、多分だけど、俺の親父の知り合いなんだよ」
「誰なんだよ、やっぱ金貸しなのか? どんな立場の奴なんだよ」
俺が聞くと、カズは少しだけ辺りを伺うようにキョロキョロし、肩を小さく丸めながら俺の方に顔を付き出して、小声で言った。
「俺の親父のダチだぜ。だいたい想像つくだろ?」
ああ、なるほど。あのヤクザなおやっさんのダチとくりゃ、そりゃあなかなかの人間だろう。
「えーと、つまり」
俺もカズの方に顔を付き出して、俺たちはまるで、テーブル越しにキスしようとするホモカップルみてえな感じに近づいた。
「……カタギじゃねえってこと?」小声で聞く俺。
何しろここは家族連れから爺さん婆さんまでが集まる明るい銭湯、そしてカズは、その銭湯を継ぐことになってる次期社長だ。物騒な話はできるだけしない方がいい。ただでさえこんな風貌なんだから。
「いや、ヤクザ者ではないけど、梶さんっていって、そっちの世界でもそこそこ名の知られた人だ。もう七十過ぎてるはずだからあれだけど、若い頃は結構な無茶してたはずだぜ。問屋町に自社ビル建てて、まだ社長やってるはず」
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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