おやじパンクス、恋をする。#209
「何か、心当たりはありませんか。あいつが頼りそうな人とか、行きそうな場所とか」
さあねえ、と佐島さんは言って首を傾げた。
「プライベートまでは分からんねえ。ただでさえ協調性のない子だから。今までも時々あったんですよ、無断欠勤ちゅうかね。まあ、お父さんが亡くなったわけだから、多少心は揺れとるんでしょうけどもね、今までは社長の息子ってことで許されてきたけれども……」
「……葬式の時とか、何か言ってませんでしたか。何でもいいんですけど」
「あなたあの子の友達みたいだから言うけれど、ちょっと不安定だったね。そもそもの話、今の会社の体制になかなか馴染めなくてね」
「はあ、そうですか」
「私たちとしても、困っててね。彼は彼で、うちの社員の一人なわけだから」
結局佐島さんはそういった曖昧なことしか言わず、今から急ぎの用事があるのだと言って、舐めた表情で俺を見つめた。要するに、忙しいから今すぐ出て行けってことだ。
確かにこれ以上の長居は無用だった。佐島さんの言ってることが嘘なのか本当なのかは分からねえが、いずれにせよこれ以上の情報は得られねえと俺は判断した。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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