おやじパンクス、恋をする。#102
「はあ?」
何を言い出すのか、俺は分からなくて彼女を見た。そして彼女もこっちを見ているのに気付いて、思わず目を逸らした。
「下校中に、声かけたでしょ。私から、ねえ、覚えてる?」
俺の頭の中には、最新のパソコンも真っ青なくらいのスピードで、あの時の情景がフラッシュバックした。逆光に霞んだ彼女の顔、「ねえ」という彼女の声。そう、彼女はあのとき、俺にこう言った。
「友達になってくれないかな、だろ。覚えてるよ」
だが彼女は意外な反応をした。
「違うよ。私はそんなこと言ってない」
「え、嘘だろ。言ったよ」驚く俺。
「言ってない。微妙に違ってる」
「なんだよそれ。じゃあ、なんなんだよ」
「思ってていいかな、だよ」
「はあ?」
「友達と思ってていいかな。もしよかったら、友達と思ってていいかなって言ったんだ」
「……」
俺が思わず口をつぐむと、彼女はそれを慰めるみたいに微笑んで、ビールをちょっとだけ飲んだ。
「悪いこと言ったかなって思ったんだ。あの後、レストランで見るマサは、明らかに居心地が悪そうだったから」
「……なんだよそれ、別にそんなことねえよ」
話が思わぬ方向に進みだした感じがして、俺はうろたえた。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。