おやじパンクス、恋をする。#050
そして俺はハッとして、再びiPhoneのロックを外して、溜まっていた着信やらメールやらの差出人を確認していった。
このフライヤーの他に、彼女からの連絡があったのかもしれねえと思ったからだ。
だけど、見事に期待は外れた。
着信はボン、そして昨日は仕事で参加してなかったカズ、あとは酒屋。メールはどうでもいいauからの案内と、涼介。
それならと思って連絡帳を上から順番に見ていったが、彼女のものらしい登録は増えていなかった。
そらそうだ。
確かに記憶は曖昧だが、連絡先を交換していたらそれを忘れたりはしないはずだ。そんな記憶がないということは多分、そういうことなんだ。
フライヤーに書かれたメッセージにも、連絡先は書かれていない。
要するに俺は、俺たちは、互いの電話番号やメールアドレスを交換することなく別れたっていうことだ。あるいはそうしようと思ったのかもしれねえが、俺は酔っ払い過ぎて潰れっちまった。クソ、なんてこった。俺のバカ。
いや。
もしかしたらそうじゃなかったのかもしれない。
彼女はもともと、俺と連絡先を交換するつもりがなかったのかもしれない。
たまたま再会して勢いで付き合ってはみたものの、所詮はパッと盛り上がっただけ、線香花火みてえに、ちょっと燃えてすぐに消えちまう一時の感情だと、彼女は思ったのかもしれねえ。
まあ、無理もねえ。俺に俺の三十年があったみてえに、彼女には彼女の三十年があるわけだから。
そう言えば、彼女にはパトロンがいるんだよな。あのバカの「父親みたいな」存在。彼女を長年面倒見てきた奴。
彼女は結局、そのへんの事情について何も言わなかったんだと思う。俺も多分、聞かないままだった。
三十年。長い時間だ。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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