おやじパンクス、恋をする。#184
「いや、そいつらが……舐めた口ききまして……」
ゴリラのおっさんはさっきまでの雰囲気どこへやら、怒られる子どものように気まずそうに目を逸らし、中途半端に俺らの方を指差した。彼女は振り返らず、小さくため息をつくと、「大切な日なんだから」とたしなめるように言った。
「あなたたちは今日、梶パパの為に集まってくれた人たちに、感謝する側の人間でしょう? 私たちがお客様をお迎えするの。佐島さんはもう皆のまとめ役なんだから、しっかりしてよ」
ゴリラのおっさん――佐島さんと言うらしい――は、「けど、お嬢」と、控えめながら言い訳を始めた。
お嬢。
いや、お嬢って。
心の中で突っ込んだが、佐島さん以下梶商事の面々は、その呼び名には何の違和感も抱かないようだった。
「俺ら……社長の葬式をそいつらが邪魔にしに来たんじゃないかと思って……まあ、過去のあれこれのなかで、逆恨みしてる奴らもいるんじゃないかと」
言い訳のようにブツブツ言っていた佐島さんだが、ハッと思い出したように顔を上げ、声のトーンを上げる。
「それに! そうだ、そいつ、お嬢の向こうにいるあの髪の長い野郎は、こないだの会合で問題起こした男じゃねえですか。……ほら、クラブつうんですか、ディスコみたいな……」
佐島さんの言葉に、そうだそうだと言わんばかりに後ろの面々が頷いて、けれど「お嬢」には弱いんだろう、先生に当てられるのを嫌がる生徒みてえに、誰も視線を上げやしねえ。
それを見て俺はなんつうか、後継が育たなかったという話に妙な納得をしてしまった。こいつら、威勢はいいけど……なんか頼りない。
「この人たちは、私が呼んだの」
彼女があっさりと言って、佐島さんは意味がわからないのか、険しい顔付きのまま固まった。
「何ですって?」
「だから、彼らをこの場に呼んだのは私。もちろん問題を起こすためにじゃなく、パパを見送ってもらうためにね」
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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