【エピローグ】おやじパンクス、恋をする。#245
俺とタカ、そして涼介が梶商事の社員共にボコボコにされている間、カズとボンが何をしてたかが明らかになったのは、事件から実に一ヶ月が過ぎたころのことだ。
つうか、聞いてみりゃなんつうか、俺タカ涼介の働きなんてあってもなくても同じだったっつうか、こうして前と同じ生活に戻れたのはほとんど、カズとボンのおかげだった。
俺が雄大らしき男を見つけてそいつを追いかけていった時点で、ボンはある程度の予測を立てたらしく、カズにおやっさんへのヘルプを頼むよう言った後、自分は嵯峨野とコンタクトした。
ボンつうのはあんな胡散臭い風貌のくせに人の懐に入るのがうまい。自分の店にたまってるバンドのグルーピーたち合計十数人のメルアドと引き換えに嵯峨野との「ビジネスパートナーシップ」をその場で構築し(って言われてもよく分からねえけど)、しっかり信頼関係を築いた後で、「実は」つって仲間がこれから揉め事を起こすかもしれねえって話をしたんだと。
ボンは、警察沙汰になりゃこのパーティ自体がめちゃくちゃにされちまうだろうこと、今日手に入れたネットワークもおじゃんかもしれねえってこと、そして、嵯峨野のビジネスにおける微妙なグレーゾーンについてちくちく言い、少なくとも運営側から警察に連絡するのをやめるよう嵯峨野を納得させた。
「警察沙汰にしたくないのは、俺らも嵯峨野も同じだったんだな。だから嵯峨野はボンの話に乗って、佐島さんから警察に電話しろと言われた時、警察じゃなくてボンの携帯にかけたわけよ。ボンは打ち合わせ通り警察のものまねをして、民事不介入がどうたらこうたら言って、佐島さんを突っぱねちまったってわけ」
「へええええ、なんかすげえな! 映画みてえじゃねえか」
カズの説明に素直に俺が感心していると、おばちゃんが近づいてきて、注文を聞いた。
「俺、マカロニグラタン」
俺が言うと、おばちゃんはニヤリと笑って、伝票に文字を書き込んだ。なんか、客から問い合わせがあったって話をしたら、シェフがメニューに加えてくれたんだそうだ。
昼飯はもう食ってきたというカズがフライドポテトとビールを頼んだ時、後ろのほうでカランカランと扉の開く音がした。
「あ、来た来た」
カズが立ち上がって手を振る。振り返って見れば、彼女が手を振り返しながら近づいてくるところだった。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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