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おやじパンクス、恋をする。#099

 何でなんだろうな。自分でも分からねえ。

 タオルに包まってゴシゴシとやっている彼女を見ながら、俺はただ、何でだろう、俺は何でこんな落ち着いてんだろうと考えてた。

 彼女が来る気がしていただなんて言うつもりはねえ。

 突然現れた彼女を見て全く心が動かなかったつうわけじゃねえんだ。

 むしろ俺は、彼女は絶対に来ないと思ってた。どれだけ辛くても、いや、辛ければ辛いほど、彼女は俺に会いになんてこねえだろうと思ってたんだ。

 けど、来た。

 こっそり彼女の写真を見てたその時に、絶対に来るはずがない彼女が現れた。普通驚くだろ。予想外のことが起きたら人間は驚くもんだ。

 だけど、俺は大して驚かなかった。

 俺の中にあったのは、驚きではなく、あるいは怯えでもなく、何て言えばいいんだろうな、ある種の「寂しさ」みたいなもんだった。

「マサ」

 彼女が言った。

「なんだよ」

 俺は頭をかきながら、カウンターの中に入った。よく分かんねえけど、濡れそぼった彼女の、いろんな意味で無防備な感じの彼女のそばに立ってんのが、しんどかったからだ。

「ずぶ濡れになっちゃってさ」

「見りゃ分かる」

 カウンターの中から俺が言うと、彼女はクスクス笑いながら俺の目の前の席についた。バスタオルを乱暴に丸めると、俺の方にポンと投げてよこした。グラスから飛び出したバースプーンの先端に一瞬引っかかって、中の水が激しく揺れた。

「おい、気をつけろよ」

 俺は思わず言ってグラスの根本を持った。

 グラスは倒れなかったが、彼女はむしろそのことが残念だとでも言うような、ふざけたしかめっ面をして、それから楽しそうに笑った。

 よく見れば彼女、けっこうな酔っぱらいだった。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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