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おやじパンクス、恋をする。#026

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

 窓が少しだけ開いていて、笑い声はそこから漏れてきているらしい。だが窓にはスモークが貼られていて社内の様子はわからない。

 俺たちはなんつうか、まともじゃない人間同士の“におい”っていやいいのか、妙に引きつけられるもんを感じてさ、窓の向こうで爆笑している顔の見えない「そいつ」に注目した。

 車は古いセダンで、車高が低く改造してある。うーん、俺らが若かった頃のセンスだぜありゃ。

 んでそいつ、事もあろうにこの狭っまい二車線道路で、∪ターンかまそうとしやがった。小せえ車じゃねえし、一気に回るのは無理だろと思ったが、全く躊躇しないでそいつは車を回転させて、ほとんどギリギリ、こっち側のガードレールにピッタリ寄り添う感じで方向転換を成功させた。

 すげえドライビングテクニックだなと思う前に、こんなギリギリな∪ターンを躊躇なくできるその精神構造を疑ったね。だってマジで煙草の箱一個入らねえくらいギリギリなんだぜ。頭がおかしいとしか思えねえ。

 それでまた、その停車位置がさ、要するに俺らの目の前なわけだよ。俺らに文句言うために∪ターンしたんじゃねえかってくらいの目の前で、ああほら、涼介がもうビキビキなっちゃてんじゃねえかよ。

 余計な揉め事はゴメンだぜとか思いながらも、俺は俺である意味では失恋したばっかの状態だったわけで、車の中から聞こえるアホな爆笑に、目の前を塞ぐその不快な黒い鉄の塊に、イライラしてきた。

 ボンはボンで、自分の座ってるガードレールギリギリに寄せてきたその車を、妙にうつろな感じのアブねえ表情で見つめているし、パッと見いちばん危なそうに見えるタカだけが、何だかオロオロしているような感じだった。

 やがて運転席がバタンと開いて、中から、おいおいこんな分かりやすいチンピラがいるかよって格好をした小太りの兄ちゃんが出てきた。

 歳は多分、二十代後半か、三十ちょいくらいか。紺色のスーツに襟の高い白シャツ、頭は坊主で、金色のネックレスと時計をして、ティアドロップのサングラスをかけている。

 携帯電話を耳に当て、「だからー、女集めねえとヤベエんだって、はあ? 店ぇ? いやだから店はこっちでやっから、女だっつってんだろこのバカ」と、ジャイアンの独演会のごときボリュームでお話していらっしゃる。

 そいつはガードレールを乗り越えて、俺らの方をチラッと見たが、とにかく「女を集めろ」ってことを携帯に向かって連呼しながら――どうしたと思う?

 当然のように、さっき俺らが降りてきたばかりの階段を、登って行ったんだよ。

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LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ

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