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おやじパンクス、恋をする。#214

「マサさん、何してたんですか、まだ店ですか」

「ああ、そうだよ。お前は何してるんだよ」

 俺はなるべく平静を装って聞いた。雄大は笑うばかりで答えない。

「なあ、お前、無事なんだな? 自分の意志でこんなことしてるんだよな? どこにいるか教えろとは言わねえからよ、それだけでもはっきりしようや」

 雄大が自分から電話をかけてきて、焦る様子もなく笑っている時点で、こいつが誰かに拉致されたとか監禁されてるとかいう線(これはさっきまでの皆との話し合いの中で出てきたものだ)は俺の中でほぼナシと判断された。

 こいつはやっぱり自分の意思で消えたんだ。

 だからこそ、居場所を聞いても無駄な気がした。それをペロッとこぼしてしまうくらいなら最初から消えたりしねえだろう。

「マサさん、姉さんのこと、好きっすか」

 だけど雄大はまたとんちんかんなことを言う。

 一方で、確かに会話は成り立ってねえが、それこそ雄大がわざわざ俺に電話をかけてきた理由のような気もして、「ああ、そうだな、好きだよ」と、普段の俺なら絶対に言わねえけど、素直に認めた。

「姉さん、意外と弱っちいところあるから、マサさんちゃんと見ててあげてくださいよ」

 雄大の声から、舐めたような明るさが消えて、深刻ってほとではないにしろ、少なくとも真面目な口調になった。

 心配するくらいならまず顔見せろや、と怒鳴りたかったが、我慢した。部屋を片付けられなくて悩んでいる女に、んなこと悩む前に手動かせや、と言うようなもんだ。それができねえからこうなってんだよと、逆ギレされるのがオチだ。

 実際、他人が納得できようができまいが、雄大には、こうするしかなかった理由がきっとあるわけでさ。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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