おやじパンクス、恋をする。#028
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
「誰かって、誰だよ」とタカ。
「それは分からねえけど、涼介の姿を見て驚くってことは、思ってたのと違う人間だったってことだろ」
「それによ」と涼介が続ける。「彼女、なんかよく分かんねえこと言ってたんだよな、あんたあいつの仲間なのかとか、何とか」
「仲間って、なんだよ」
「分かんねえけど、なんだっけな、タダノ? サガノ? なんかそんな感じの名前だ。サガノの仲間か、あいつの仲間なのかって聞かれて、違うって言ったんだよ、そんな奴知らねえし」
そういえば、俺らが彼女の部屋に着いた時、涼介が「違うっつってんだろ」と怒鳴っていたのを覚えている。あれはそういう会話の中で発せられたものらしい。
「だから多分、そのサガノって奴が来ることになってたんじゃねえの?」
俺はピンときて、すぐ傍に止められた、忌々しい黒塗りに視線を戻した。この車に乗ってきたあのバカ、さっき階段を登ってったあのバカがサガノなんじゃねえのかと思ったからだ。
俺の頭の中では、あいつが彼女の部屋で、無理やり彼女を組み敷いている映像が流れ出した。クソ、何考えてやがる。全部勘違いかもしれねえってのに。
俺は随分と、忌々しげな表情をしていたんだろうな、「確かめに行くか?」って、ボンがニヤニヤしながら言いやがった。
「そんなに気になるんならよ、行きゃいいじゃねえか。勘違いなら勘違いで、それでいいわけだしよ」
「そうだぜ。何を躊躇してんだ」涼介も同意する。
……ああ、確かにそうだ。それが確実な方法だよ。
つうか、そんなことは奴らに言われるまでもなく、あのバカがこのマンションの階段を登り始めた段階で考えてたことだった。
後ろからついて行って、あのバカが彼女の部屋以外、つまり、五階の一番左奥の部屋以外のどっかに入っていったことを確かめれば、それで終了。簡単なことじゃねえか。
だけど、俺はそれができなかった。
あのバカにビビってるとかそういう話じゃねえ。つまり俺は、どっちかっつうとネガティブな性格で、物事を悪い方悪い方に考える癖がある。何事に対しても疑り深えし、石橋を叩きすぎてぶっ壊しちまうくらいに慎重なチキン野郎なんだよ。
こいつらとつるむようになってからはだいぶマシになったが――分かるだろ、こいつらといると小せえことが気にならなくなってくるんだ、代わりにでっけえトラブルとかがガンガン舞い込んでくるんだけど――、それでもやっぱ三つ子の魂百まで、だ。
俺が考えてたのは要するに、あのバカが彼女の「男」だったらどうすんだという事だった。
正義のヒーロー気取って突撃したら、恋人同士がイチャこいてただけでしただなんて、恥ずかし過ぎて涙が出らあ。
なんてこと考えながら黙っていたら、タカが俺の考えを読んだみてえにズバリなことを言いやがった。
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