見出し画像

おやじパンクス、恋をする。#057

 「俺様がおごってやる」カズはそう言って、俺に割り込んで早々に瓶ビールと餃子とバンバンジーのボタンを押した。

 入浴チケットを正規の値段で云々って話をさっきしたが、飯をおごらせるのはいいのかって? 

 ああ、いいんだよ。それとこれとは全然話が別だ。やつはここの店員としてじゃなく、カズっつうダチとしておごるって言ってんだ。何を遠慮することがある? ラッキーラッキー。なんせ将来を約束されたボンボンだ、万年貧乏の俺に一回や二回、いやいや千回くらいおごったってバチは当たらねえよ。

 まあ、カズが持ってるそのコインはスタッフの賄い用らしいトークンだと聞いた気がするし、だとするなら結局は銭湯の経費として落ちるわけだから何ていうか俺の理屈も矛盾してるけどな。

 まあ、細けえことはいいんだよ。なんせ、昨日のあのレストランのチキンソテー以来、まともに何も食ってねえ。俺は、腹が減っているのだ。

 そんなわけで俺は、カズのくれたコインを使って野菜炒めとザーサイと豆腐サラダの食券をゲットした。

 俺とカズは足湯ゾーンの横にある小上がり的な席で、遅い朝飯、いや、早い昼飯かな、とにかく飯を食った。

 常連らしい爺さん婆さん、中にはそれなりにピチピチした姉ちゃんなんかが、革ジャン羽織って餃子をビールで流し込んでるカズにニコニコ声をかけていく。カズはカズでいちいちそれに応じて、楽しそうにわっはっはと笑う。俺たちと遊んでる時と似てはいるが、やっぱりどこか俺の知らない顔のようにも思える。

 誰といてもどこにいても同じ、裏表がなく嘘をつかない、それが俺が仲間たちに対して抱いている信頼の芯になるもので、同時にそれは暗黙のルールでもある。

 さっきも言ったが俺たちは自分の心をさらけ出すという露出狂的なスタンスを率先して取ることで、ある意味では他の奴らが隠し事をするのを監視しているのかもしれねえ。

 ほら、むかし社会の授業で習ったじゃねえか、「五人組」とかいうやつ。

 町人が五人一組にさせられて、その中の誰かがやった悪事は連帯責任。だから自然と自分以外の四人の動向を監視するようになるし、また、自分が何かしでかしちまえば他の四人に迷惑がかかるってんで、その抑止力にもなるっていう、よく言や合理的、悪くいやこれほど鬼畜な制度もねえわけだけど、俺たちもそれと同じなんだろうか。

 ある日誰かが突然「まとも」になろうとしたら、他の四人がものすごい勢いでそれを阻止するんじゃねえのか? 勝手は許さねえ、自分だけいい子になるつもりかよ、抜け駆けするんじゃねえってさ。

続きを読む
LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?