おやじパンクス、恋をする。#040
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
「なんじゃそら」涼介が首を傾げ、そして、バカの顔を下から覗き込むようにする。バカは中途半端な愛想笑いを浮かべてその視線から逃げようとする。
いや、でもそうだよ。なんじゃそら、だよ。
私の古い知り合いってのも分かんねえし、息子みたいたもんってのも分かんねえし、そいつが何で彼女とキスして乳をまさぐって、挙句ビンタされてんのかも分かんねえ。要するに何一つ分かんねえ。「このバカが彼女の男説」を彼女自身がキッパリと否定したことで、疑問は余計に大きくなっていた。
「それ、あんたがガキの頃からここで一人暮らししてんのと、関係あんの?」とボンがボソリと言って、なんつうかその意外な内容に、彼女だけじゃなくそこにいた皆がボンの方を見た。
ボンは短くなったタバコを最後にひと吸いすると、「灰皿、ある?」と彼女じゃなくてバカに聞いた。バカは「あ、はい」と素直に応じて、キッチンの方から灰皿ではなくコーヒーの空き缶を持って戻ってきた。「ありがと」とボンはそれを受け取る。
「おいボン、どういうことだよ」と涼介が聞く。「なんでここでガキの頃の話なんだよ」
「さあな。何となくそんな気がしただけだよ」
「そんな気って、なんだよ」
「だから」とボンは言って、耳に挟んでた新しいタバコに火をつける。
「こいつから彼女がずっと一人暮らしだったって話を聞いて、考えてたんだよ。ほら、俺らもさっき話し合っただろ? 離婚説とか、病気説とか、あとなんだっけ、ああ、海外勤務説とか。でも全部、シックリこねえんだ。で、俺は、彼女の両親以外の人間が関わってんじゃねえのかなと思ったわけさ。その第三者のせいで、彼女は両親と一緒に暮らすことができなかった」
「第三者って、誰だよ」タカが聞く。
「わかんねえけど……俺が考えたのは、例えば彼女の親がデカい借金とかしてて、そのカタに彼女が取られてたか、逆に、そうならないように彼女を隔離したか、みたいな話さ。そういう、良くない筋の人間が絡んでるのかもしれねえなと思ったんだ。まあ、これは彼からの連想でもあるんだけど」
そう言ってボンはバカを見た。その肩に入った貧相な龍の彫り物。言われてみれば確かに、そういうこともあるかもしれねえ。
「ああ、それなら意外とよくある話かもな」涼介も同意する。
「実際、どうなんだ?」と俺は彼女に聞いた。
彼女はふう、とあからさまな溜息をつくと、壁から体を起こした。
「まあ、事情はもう少し複雑だけど、大筋は合ってるわ。びっくりね」
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