おやじパンクス、恋をする。#143
ほら、とキーホルダーにつけた栓抜きを渡してやる。彼女の白い手がそれを受け取る。
俺らはしばらく無言で、バーで飲むには薄い、けどこういう天気のいい公園にはこの上なくピッタリなメキシコ産のビールを、飲んだ。
「梶パパと話してきた」
やがて彼女は言った。
「そうか」俺は頷いた。
急に、隣にいる彼女が発するエタニティの香りが、強くなった気がした。
「マサのこと、褒めてた。なかなか骨のありそうな奴だって」
「そりゃ嬉しいな」俺は素直にそう思った。
「謝られた」
彼女は、何となく気まずそうに、どこか怒ったような口調で言った。
「謝られたって、何を?」
「だから、何ていうか、これまでのいろんなこと。謝ることなんてないのに」
「あー、まあ、それは梶さん的にケジメっつうか」
「死ぬ前でよかったって、しみじみ言うのよ」
「うん、そうだろうな」
「ううん、そうじゃなくて」
「何がだよ、っていうか何だよ」
「だから、マサはあれでしょ、死ぬ前に謝れてよかったって、そういうことだと思ったんでしょ」
「だからそういうことだろうよ」
「だから違うよ。そうじゃなくて、間に合ったっていうか。だから、何ていうか」
「何だよ、もじもじしやがって。ババアのくせに」
「バカ」
彼女はそして立ち上がった。コロナを勢い良くラッパ飲みして、おっさんみてえなうめき声を立てると、俺を見下ろした。
「梶パパは、マサならいいって。安心して死ねるって」
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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