おやじパンクス、恋をする。#175
気付けばその心配は、ふえるワカメちゃんよろしく膨らんで、下手したら彼女から梶さんの訃報を聞いた時よりも大きな動悸を持ってきた。
あいつ、そうだよ、あのバカ、大丈夫か。
「マサ?」
……だけど俺は、ここで雄大の話題を出すのが嫌だった。
今彼女は元気に話してる、そのことから、雄大も大丈夫なんだ、あいつはいろんなことをちゃんと乗り越えたんだと、思いたかった。
「ねえ、どうしたの」
彼女から呼ばれて、「あ、ああ」とかろうじて返事をする。
「大丈夫?」
「ちょっとボーっとしちまった」
「そっか……」
彼女にはどう伝わったんだろう、俺はそれ以上は続けずに、言った。
「葬儀には顔出すからよ、あいつらも、都合つけて行くつってた」
彼女はまた「そっか」と言ったが、今度は嬉しそうだった。
「じゃあ、しばらくはバタバタするけど、ごめんね」
「謝ることなんてねえよ」
「うん、じゃあね」
「ああ、じゃあな」
電話を切って、店を開けた。「さて、頑張りますか」よく分からない独り言が出た。
雄大の話題を避けたことに対しては意外と罪の意識はなく、だけどおかしなもんで、天井の隅っこから梶さんに見られているような、あの全部の感情をひっくるめたような表情で、じっと見られているような気がして落ち着かなかった。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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