おやじパンクス、恋をする。#108
アルコールで痺れた脳みそに、ちょっとだけクリアな液体が注入される。緊張っていうより、アドレナリンが動き出す感覚。
「さあ、お姫様」俺はにやりと笑って言う。
「冒険のパーティは揃いました。ご命令を」
横目でボンを見ると、あんときと同じ、ちょっと照れたみたいな顔で笑っている。俺も何か照れちまった。つうか、なんだろう、ほとんど事情を知らねえらしいタカ以外が、みんな何か照れたような顔をしてやがる。
照れてるけど、どこか誇らしげな感じっていうかさ、ほら、映画とかであるじゃねえか。絶望の中にあるヒロインのもとに志高き仲間が集まって、俺達がいるから大丈夫だ、俺達が守ってやると、自信ありげな笑顔で互いの顔を見合わせるような場面がさ。
今思えば、彼女を落とすという俺の不埒な目的のために、こいつらがどこまで協力してくれるのかは分からなかったんだが、俺は何か奮い立つような気持ちになっていた。
四十代のくたびれかけたおっさんどもだが、こいつらとなら、地獄の底でだってそこそこ戦える気がする。
わけわかんねえって感じのタカを除いて、皆が恥ずかしいドヤ顔で彼女を見つめた。まあ、自己満足、自己陶酔って言われたら、返す言葉もない。
「なんでこんなことになってんだろうね」
彼女はオレたちの顔を、呆れたような、それでもちょっと嬉しそうな顔で見回して、まるで子供たちに昔話を聞かせるような優しい声で、話し始めた。
梶さんが病気を理由に前線から退いたこと。それによって会社の業績は傾いて、一時は倒産するかもというようなところまでいったこと。その解決のため、嵯峨野という男を外部から招いて業績改善に努めたこと。そして、嵯峨野の強引なビジネスで会社は成果をあげ、少なくとも梶商事は立ち直ったということ。
「そこだけ聞きゃ、めでたしめだたしって話にも思えるけどな」
ボンが言って、タカが頷く。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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