おやじパンクス、恋をする。#186
「失礼しました、自分は寺坂と言います。この度はご愁傷様で……」
……いいかい、最初に自分の名を名乗るのは当然の礼儀だ。相手の名を呼ぶ前に、自分の名を言うんだぜ。なにしろ、それを間違えただけでぶん殴られた経験が俺には三度ある。
佐島さんは無言で俺の言葉を聞いた。
ここで「いやいやご丁寧に、こちらこそすみません」と咄嗟に反応しないところが、やっぱり普通のサラリーマンとは違ってる。佐島さんは男として、俺の話を最後まできちんと聞こうとしてくれている。
「自分らも生前梶さんにお世話になりまして、今回の話を聞いて、焼香だけでもと……」
「ちょっと、マサ? 何言って……」横から彼女が口を挟む。うるせえ黙ってろ。俺は彼女を無視し、続ける。
「後ろのあいつの件も、いろいろ誤解があってそうなったんで、本人も反省してますし」
「ああ?誰が反省なんか……」と後ろで聞こえかけたが、途中でボゴッという音とともに、止んだ。多分、タカの鉄槌が打ち込まれたんだろう。
「梶さんにお礼言わせて頂いて、すぐ帰りますんで、どうにか矛収めてもらって、はい」
俺はその体勢のまま、視線は佐島さんから離さず、頭を下げた。変な感じだけど、これも鉄則。視線は常に相手だ。何しろ、佐島さんがいきなりブチ切れて襲いかかってくるかもしれねえ。相手の出方が分からないうちは、相手から目を逸したらダメだ。
さあ、どう出る佐島さん。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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