【完結】おやじパンクス、恋をする。#250
まあいずにれにせよ、雄大はもう一度ゼロに戻った。
親に捨てられて、ギラギラした赤ん坊のような状態で梶さんに会ったところが一度目のゼロ。そして今回が二度目だ。あいつはまた、厳しい社会の荒波に立ち向かって行くことになる。
だけど、と俺は思う。
一度目と二度目で大きく違うところがひとつある。
あいつはもう、一人じゃないってことだ。
彼女が、それに俺たちがいる。
「まあでも、なかなかおもしろい日々だったな」
カズが言って、俺も同意した。
「ああ、そうだな。なかなかおもしろかった」
「おやじパンクスの恋も成就したしな」
「うるせえバカ。恋とか言うな」
「そういや、こっから全部始まったんだよな」
カズが振り返って、俺もその視線の先を追った。向かい側のマンション、赤いカーテンのかかった部屋。その住人である彼女が、当たり前のように自分の隣に座ってんのが不思議に思えた。
「そうだマサ、ボンちゃんがガーゼシャツ届いたって言ってたよ」
「はあ? またトータル行ったのかよ」
「うん、あそこ居心地良くて」
「ダメだよ倫ちゃん、あんな社会不適合者ばっかの店行っちゃ」
それもなんだ、俺だけじゃなく、俺の周りの変態バカどもと、もうずっと昔から友達だったみたいに馴染んでやがる。
もうずっと昔から友達?
いや、実際のところはそうだったのかもしれない。
俺たちはあの日、生臭えドブ川の傍のあの道路で、友達になったんだから。
ずいぶんと間があいちまったが、俺たちはあのときからずっと、こうなることを待っていたのかもしれない。
その時おばちゃんが料理を運んできて、テーブルに皿を置いていった。うまそうなにおい。俺の前には紛うことなきマカロニグラタンが用意された。
カズと笑いながら話してる彼女を横目に、フォークを掴むと、俺はその尖った先端を、念願のマカロニグラタンにぶっ刺した。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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