おやじパンクス、恋をする。#116
最初はグッと目を閉じて痛みに耐えてるみてえだったから、ああ図星なんだな、結局そういう話なんだなと勝手に落ち込みかけたんだが、突然パッと目を開けて、俺らを見回した。
「何か咬み合わないなあと思ってたけど、そういうことか」
意味がわからなくて俺は涼介を見た。奴もわけわかんねえって顔で眉間にしわを寄せている。
「だから、あんたたちは大きな勘違いをしてる」
「おい倫ちゃん、説明しろよ。どういうことだよ」とカズ。
「別に嵯峨野は私のことなんてどうも思っていないわ。女になれなんて一言も言われたことはない」
「え?」驚く俺。
「あれ? そうなの?」カズも素っ頓狂な声を出す。
でも、と俺は答える。
「雄大はそう言ってたぜ。嵯峨野は会社を乗っ取るだけじゃなく、姉さんまで狙ってるって。会社も姉さんも峨野のものになっちまうって。なあ?」
「ああ、他でもねえこの店でな」
頷き合うオレとカズを見て、彼女は渋い顔になる。そして、今まで聞いた中でいちばん大きなため息を付いて、言った。
「まさにそこよ。私が悩んでるのは、あの子……雄大のことなの」
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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