おやじパンクス、恋をする。#139
俺は言った。
「梶さんから、キミとの関係を聞いた。たぶん、全部、包み隠さず」
彼女は何も言わず、黙ってた。おおかた予想はしてたんだろう。その沈黙に驚きのニュアンスは感じられなかった。
それに俺は別に、彼女の反応を気にしてはいなかった。
「で、さ」俺は言った。
「うん」
そのとき、彼女のその声に、少しだけ水気がこもった感じがした。それまでの、どこか乾いた感じじゃなくて、何ていうか、耳元で囁かれているような、いや電話だからって意味じゃなくて、それくらい近い距離に彼女を感じた。
俺はその瞬間に、彼女がどんな寂しさを感じて生きてきたのか、少しだけわかった気がした。そんな「うん」だったんだよ。
「もうわかってると思うんだけど」
「うん」
「なんつうのか、さ」
「うん」
「まあ簡単に言えば」
「うん」
「キミが好きだ」
「……うん」
「俺、キミが好きだ」
「うん」
長くは話さなかった。
それから俺らは、おやすみと言い合って、電話を切った。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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