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おやじパンクス、恋をする。#036

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

 俺はその、粉を吹いたみてえな妙な質感の扉を、激しくぶっ叩いた。やがてインターホンがある事に気付いて、その奇形の乳首みてえな変な形のボタンを連打した。

 なんつうか、最近のインターホンみてえに、そのボタンを押すことで録音されたチャイムが鳴るっていう感じじゃなくて、その乳首みてえなのが本物のチャイムに直接繋がってるみてえな、やけに手触りのある鳴り方だった

 チャイムの音の隙間から、話し声が聞こえていた。女と男の言い争い。

 彼女とあのバカがどういう関係にしろ、二人が同じ部屋にいて、俺はその部屋にいないという事が、我慢ならなかった。それをハッキリと告げている目の前の金属扉が憎らしかった。

 俺はインターホンを連打しつつ、反対の手でノックを再開した。サッカーのゴールに熱狂するサポーターみてえな体勢、俺は両腕を振り上げて、左手でインターホンを、右手で扉を、激しく打ち付けた。

 やがてカッコン、と音を立てて鍵が開けられた。

 俺はその瞬間を逃さず、ノブを引っ掴んで思い切り手前に引いた。だが、扉は開かなかった。ガシャーン、と激しい音を立てて途中で止まりやがったんだ。

 何だクソと思って見ればあれだ、ドアチェーン。俺は一回も使ったことねえけど、扉が全開しねえように引っ掛けとく金属製の鎖。なんだこの野郎って俺はさらにムカついて、ドアと壁との間にできた十センチくらいの隙間にブーツのつま先を突っ込んだ。

 「な、なんだよ、おい、なんなんだよコイツ」中からあのバカの声が聞こえた。

 さっき下で聞いた声。クレイジーなUターンかましたあげく、女を用意しろとか偉そうにがなってたあの声だ。

 俺はゆっくりと、朝日が地平線から昇るみてえな感じで、自分の顔をその隙間に登場させた。横から横に登る、オレンジ色のモヒカンフレアをまとった太陽だ。すぐ傍に、目を見開いたあのバカの顔があった。

「あのう」

 俺は努めて冷静に、だが、自分のできるもっとも残酷な目つきを意識して、言った。

 「な、なんだよ」と頬をピクピクさせるバカ。

 いきなり登場したこの俺、狂ったように扉をぶん殴り、インターホンを連打する俺も、オレンジ色のモヒカン頭をした俺に、怯えているようだ。無理もねえ。俺だって突然こんな野郎が現れたら嫌だ。

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LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ

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