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ワタクシは宇宙人だ

ここでの暮らし方もだいぶ分かってきた。

私は遠い銀河の果てから来た宇宙人なのであるが、23年という月日をこの地球という星で過ごしてきた。

ここには太陽と月というものがあって、そのせいで明るくなったり暗くなったりする。太陽が出ている時間が昼で、月が出ている時間が夜だ。
でもまだ空が明るいのに、月が見えることもある。夕方の青とオレンジのグラデーションがかった空に、うっすら浮かんでいるそれを見ると少し得した気分になる。

今は夏だ。
夏は昼間が長い。以前は、暑くてすぐに汗をかくから、あまり好きではなかった。しかし、最近はそうでもない。夏はみんなどこか浮かれている。
薄着で街を歩く若い女や、サングラスをかけてきどっている若い兄ちゃん、プールバッグを抱えて自転車を漕ぐガキ共、どいつもこいつも「暑い暑い」と文句を言いながら、内心はどこか嬉しそうである。
この時期の川や海は、人でごった返している。「暑いから水で冷やす」という、いかにも動物的な行動を、みんな季節を言い訳にして解放している。とても楽しそうだ。

街で上手に生きるコツも色々学んだ。
信号は赤くなってから大体3秒後に切り替わる。百貨店の前を通るとちょっと涼しい。
エスカレーターは片側に立って、急いでいる人ために開けておかなければならない。でも本当は危ないので、エスカレーターで歩いてはいけない。そういう複雑なこともある。
コンビニのコーヒーはセブンイレブンのやつが美味い。でも高くて量が少ない。
その点、ファミマは量が多くて、味もそんなに変わらないから最高だ。氷がくっついて塊になっている事があるので、コーヒーを注ぐ前に崩しておくのがポイントだ。
電車では迷惑にならない程度の声量で話すべきだ。でも何故か電話は禁止されている。会話はOKで、電話は問答無用で迷惑行為とされているのには納得がいっていない。

出来るようになった事も増えた。
食事の前には「いただきます」と唱えて、箸を使って食べる。箸の使い方をマスターするのには本当に苦労したが、あの時頑張っていて良かった。大人になっても箸が綺麗に使えない人は、あのときサボった人なんだなと思う。
大皿から取り分ける時は、こぼさないように皿を持っていく。肘はつかない。口を閉じて咀嚼する。そして最後は「ごちそうさま」と唱える。
自転車に乗れるようになって、世界が非常に広がった。「もうどこだって行ける!」という気分になって、思いつくままに突き進み、迷子になったこともある。
今や、車とバイクに乗れるようになった私は、文字通りどんな所にでも行けるようになった。駐車券を取りやすい位置に幅寄せすることもできるし、駐車を一発で成功させることだってできる。

だがまだ出来ないことも沢山ある。
友だちを作るのは難しい。誰となればいいのかとか、向こうはどう思っているのかとか、関係を築くにあたって考えなければいけないことが多すぎる。小さい頃はなんとなく誰かと一緒にいて、意識もせず友だちになれていた。元々違うところから来たこともあって、気が合う奴らは本当に少ない。色んなことを知って、色んなことを考えられるようになったが、それがいい事ばかりではないということも最近学んだ。

理由もなくムシャクシャするときがある。
そういうときには、それを解消する方法を知っておくことが大切だ。私は散歩をしたり、サウナに行ったり、そんなことで気持ちを落ち着けることが多い。でも、そんなことでは誤魔化せない気持ちもある。そういうときは、もういっその事ドーンと落ち込んでもいいような気がする。そもそも理由が見当たらないのだから、理屈でどうこうなる問題では無い。心がそれを求めている可能性だってある。ニンゲンは考えることが出来る生き物だが、感覚で自分を乗りこなすことも大事だ。

風が吹くと木が揺れて、その下の影も揺れる。誰もいない部屋にも音はなっている。瞼を閉じると暗くなり、よく目をこらすとモザイク状の視界が広がっている。空中にはホコリが舞っていて、夕方洗濯物を畳んでいる時にキラキラ光りだす。水中はものすごく静かで、心臓の音がうるさい。

かなりこの世界のことが分かってきた。
でもまだまだ知らないことが山程ある。
いつかすべてを分かりたいと思う。

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