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源ちゃんゼミの白熱教室!〜『読んじゃいなよ!』

◆高橋源一郎編『読んじゃいなよ! ──明治学院大学国際学部高橋源一郎ゼミで岩波新書をよむ』
出版社:岩波書店
発売時期:2016年11月

明治学院大学の高橋源一郎ゼミで行なわれた「特別(白熱?)教室」の講義記録です。一冊の本を徹底して読み、その上で著者に教室に来てもらって質疑応答するという形式で、哲学者の鷲田清一、憲法学者の長谷部恭男、詩人の伊藤比呂美の三人が登場します。

『哲学の使い方』の著者、鷲田の哲学教室は私には少し退屈でした。が、社会運動に関して述べている以下のくだりは鷲田の創見とはいえませんが、真理の一面を突いていると思われます。

僕は基本的にこう考えているんです。自分たちがこう変えたいと思う社会の形とか、あるいは運動の形とかいうのは、それをどうしようってみんなで相談するその集団の中で先に実現されていなかったら、あるいは目指されていなかったら絶対に実現されないということです。(p84)

民主主義が民主主義を鍛えるという言い回しがあります。鷲田の発言はそれにも通底するもので、理想的なスローガンを掲げる集団がその内部においては守旧的な運営をしているというのでは話にならないでしょう。

『憲法とは何か』をもとにした長谷部の憲法教室の内容には少なからぬ違和感が残りました。「良識」をキーワードの一つにしているのですが、その概念の抽象性もさることながら論理的にもかなり怪しい展開です。官僚機構や司法に対する認識が甘すぎるのもどうかと思うし、学生との質疑応答もぴりっとしません。日本政府の情報管理の杜撰さに関する学生の質問に「一〇〇パーセントいつも完璧だという話ではないです」「日本の役人っていうのは、そんなに悪いことをいつも考えている人たちの集団ではないです」などと凡庸な一般論で対応しているのには拍子抜けしました。失礼ながらこんな講義で学生たちは本当に納得できたのでしょうか。

なかで、『女の一生』をベースに伊藤がトークを繰り広げる人生相談教室には詩人らしい自由奔放さが横溢していていちばん楽しめました。学生たちに媚びることなく「だいたい、あなた方は何も考えていないし、教養もないし、そんな人たちが、我々が一所懸命作ったものを分かるわけがないの、初めから」と言い切っているのは痛快。

最近は新書でもオムニバス形式の講義録が増えてきましたが、心から推賞できそうな良書にお目にかかれることは滅多にないというのが率直なところです。

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