白井聡対話集_Fotor

本当の「独立」を勝ち取るために〜『白井聡対話集』

◆白井聡著『白井聡対話集 ポスト「戦後」の進路を問う』
出版社:かもがわ出版
発売時期:2018年1月

今も参照されることの多い『永続敗戦論』刊行直後に白井聡が行なった対話の記録を収めた本です。対話の相手は、孫崎享、水野和夫、中島岳志、中村文則、信田さよ子、佐藤優、岡野八代、栗原康、内田樹、島田雅彦、馬奈木厳太郎、猿田佐世……と多彩な顔ぶれ。

いずれも読み応え充分の対話がなされていますが、すべてに言及すると長くなりそうですので、以下、とくに印象に残った対話について紹介します。

みずから保守思想を宣言している中島岳志との対論では、グローバリズムによる世界の市場化に対して中島が国民国家の役割を強調しているのはやはり重要だと思います。「市場を中心とした経済活動で、非市場的価値をもった最大のプレイヤーが国家。富の再分配をしたり、取引に関税をかけたり、規制をかけたり、極めて非市場的行為を行なうわけですから」とは言われてみれば当たり前の話ですが、現実政治では資本と国民国家が露骨に一体化しているだけに、そうした建前を一蹴することはできないでしょう。また昨今の国民国家解体(弱体)論に馴致されてきた頭をリセットするにも格好の契機となる発言ではないでしょうか。

信田さよ子との対談では、臨床心理学の見地から現在の反知性主義を批判的に検討しています。昨今、臨床現場では米国仕込みの認知行動療法が定着しつつあるのだとか。それは「誰がやっても同じ効果を生むように構成されてカウンセリングの品質管理の徹底に貢献」したらしい。けれども信田は「日本のような均質性を重んじ同調圧力の強い社会でそれをやってどうなるんだろう」と疑義を差し挟みます。認知行動療法と反知性主義を結びつける信田の議論は賛否両論ありそうですが、凡百の反知性主義批判とは一味違うものであることは確かでしょう。

沖縄の問題を語りあった佐藤優との対論もなかなか熱い。いま琉球王朝時代の記憶が折に触れて表面化するのは「廃藩置県の失敗」を意味しているという佐藤の発言は刺激的です。そうした歴史的経緯を踏まえて琉球独立の問題がかなり真面目に論じられているのは、対談当時(2015年4月)のホットな政治状況をダイレクトに反映したものでしょう。ただ、その後の中央政権による暴政の加速化を知っている現在の読者からすれば楽観的にすぎると言うのは結果論になるでしょうか。

岡野八代との対談では、白井が社会学者・吉見俊哉の戦後日本論を参照して永続敗戦論を展開しているのが目を引きます。つまり天皇を中心とした戦前の国体は、戦後、天皇の代わりに米国に入れ替わったにすぎない、という認識です。もちろんそこに岡野のフェミニズム的な視点が加わるので、より多角的な戦後論になっています。

福島原発事故をめぐる「福島生業訴訟」の弁護団事務局長を務めている馬奈木厳太郎との対談にも学ぶところが多くありました。馬奈木の訴訟方針に関する発言を受けて「原賠法の目的は、原子力事故が起きた際には、四の五の言わずに賠償金を払うことで原発推進政策を維持するという点にあります」と白井が確認している点は何より重要でしょう。二人の対論をとおして国民が政治のあり方を変えていくために必要なことは何か、多くの示唆が浮かびあがってきます。

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