平成史_Fotor

自民党政権から野村萬斎まで語り倒す〜『平成史』

◆佐藤優、片山杜秀著『平成史』
出版社:小学館
発売時期:2018年4月

平成時代を振り返る。元外交官・佐藤優と思想史研究者・片山杜秀の対談集です。ふだんの二人の博覧強記ぶりには敬意を表するに吝かではないけれど、本書に関してはいささか期待ハズレでした。全体をとおして辛口の議論が繰り出されるのですが、右も左もひっくるめて──安倍政権からSEALDsまで──高みからあれもダメこれもダメと全方位的にぶった斬っていくのはこの手の対論にお決まりの仕草とはいえ、批判のしかたがやや粗雑で違和感をおぼえる場面が少なくありませんでした。

時代の混迷の原因の一つを個人と国家をつなぐ中間団体(におけるローカルルール)の解体という切り口で繰り返し語るのは異論はないものの、誰もが指摘していることで何を今さら感が拭えませんし、社会学全般への批判も大雑把。また少子化の問題に関連して、片山がピエール・ショーニューを引いて現代人のマインドを批判しているのも国民生活の厳しさを見ない空疎な観念論という気がします。

その一方で、橋下維新や安倍首相の政治をポストモダン的と規定してみたり、平成を代表する文化人として片山が野村萬斎を挙げてみたり、斬新な視点を提示している風ではありますが、私には奇を衒った印象の方が強く残りました。

同種の対論としては田中康夫と浅田彰の憂国呆談シリーズが想起されますが、政治から現代思想、カルチャーシーンまで世界の動きを手際よく交通整理していく浅田のスタイリッシュな語りに比べると、本書の対話はダサい感じがします。

面白味があるとすれば、佐藤の外交官時代のエピソードや永田町の下世話な楽屋話でしょうか。歴代自民党総理総裁の権謀術数、マルコフ連鎖理論を研究した鳩山由紀夫の危機管理術などは話が具体的なだけに居酒屋での話のネタにはなりそうです。

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