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【ショート ショート】 もと天使 

親友のカイは、とにかく変わった奴だ。
いつも不思議な話ばかりをするし、わからないことは先人たち(あらゆる自然のこと)に聞けばいいといっている。天体や風や精霊、そして動物たち。
時々、誰かと話してるふうだけど、そういうことなのか?
はたから見ればたぶん異様にうつるだろう。
あくまでも自己申告だから、真偽のほどは不明だが、
まんざら嘘って訳でもなさそうだし、カイの話には、納得させられることが多いのだ。

「何かを手に入れる時は、何かを捨てなければっていうだろう?だけど、便利さの代わりに自然を犠牲にしてきた、人間の罪は重いよ」

カイは、海を見ながら独り言のようにつぶやいた。親友とはいったものの、彼がそう思ってくれているのかは分からない。っていうか、カイとはいつから友達だったっけ。彼のことはまだ、知らないことだらけだ。

カイは年中、半袖と短パンですごしている。
冬でも寒くはないのだそうだ。
服はもちろん、お金にしろ人間関係にしろ
基本、こだわりがない。

とにかく時代に逆行していて、SNSはもちろん
ゲームや流行の諸々、そして恋愛にも全く興味がないみたいだ。僕も同じようなものだけど。
カイは異常なほど記憶力が良くて、頭も良いけれど、
大学受験はしないらしい。

「そんなことより、地球がヤバイんだ」

学校の勉強よりも、地球の未来の方が気になるらしく、カイによると、もう地球には猶予がないのだという。
もしかして、何かの宗教に入ったのか? いや、違うな。
それなら予言者?…でもなさそうだし…
先人たち(自然)? に聞いたのだろうか。
まあこれが一番しっくりくる。
とにかく、常人とはかけ離れているから誰も近づこうとしない。僕以外は。
カイは、まるで人間じゃないみたいだ。

「えっ、人間離れしてる?僕が?」

「いや、別に変だって意味じゃないよ。ただ何ていうかさ、まっすぐで純粋な子供…って感じ?うまくいえないけど…」

「ああ、だって僕はまだ、人間に慣れてないからね。
人間初心者なんだ。前は天使だったんだけど、地球の未来が気になってさ、その救済ともう一つは人間に興味があって、ここにいるって訳。言わなかったっけ?僕みたいな奴、他にも沢山いるよ」

まるで何でもないことのように、淡々と話すカイは悪戯っぽく笑った。だけど、不思議と驚きはなかった。
天使…。もはや地球には、もと天使たちが沢山いるってことか。

「君もそうだよ。… お・な・か・ま」

「…?」

「もう言ってもいいか。君も天使だったじゃないか。
生まれる時に記憶は消されるから、覚えてないと思うけど。僕はうまいこと逃れたんだ。全部覚えていたかったから…」

カイの言葉を聞いてから、少しずつ前の世の記憶が甦ってきた。

「思い出したかい?」

そうか、確かに僕は天使だった。
一番仲良しだったカイと、興味深い地球と人間についてよく話していた気がする。
そうだ! 二人で神さまにお願いしたんだった。
人間になってみたいと。

ああ、僕たち人間になったんだね。
僕の気持ちを察してか、カイは静かにうなずいた。

「さあ、行こうか」

人間が犯した罪は消えない。
未熟だからと許される時期は、とうに過ぎた。
僕たちは今、立ち上がらなければ。
地球に遣わされた、もと天使の使命をまっとうするために。


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