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キューバ建築の魅力はホテルにあり!

こんにちは、ロンロ・ボナペティと申します。

普段は建築デザインを中心に、書籍の編集をしております。
ノートでは日常で目にする町並みや建築を題材に、「建築ってこんなにおもしろいよ」「建築のことがわかると町歩きが楽しくなるよ」ということをお話しできればと思います。
前回のポストで、キューバの建築は職人さんが楽しみながら時間をかけてつくっているからかわいい、というお話をしました。
もう少し掘り下げられそうな気もしますが、表層的な話になってしまったので今回は空間的特性とからめたお話をしたいと思います。

◆ハバナではホテル巡りが面白い
キューバの首都、ハバナは旧市街全体が世界遺産に登録されています。
建築好き、旅行好きの皆さんであれば、そんな価値のある建築なら、余すところなく体験したい! と思うことでしょう。(私だけ?)
ところが、そううまくはいかないのがハバナの建築。
当然すべての建物が観光客向けにオープンにされている訳ではなく、ほとんどが地元の住民が住む住宅やオフィスとして生活の中で使われています。
一部の建物は商店やレストランとして活用されていますが、地元民向けのちょっと入るのを躊躇するようなたたずまいであったり、レストランで食事ができる回数も限られているし、中に入れる建物はそう多くはありません。
そんな私の欲求不満を満たしてくれたのが、町中に点在するホテル建築でした。
その理由としては、
・ホテルの多くがショップやカフェなど副次的な施設を併設しており、お金を払わずとも自由に出入りができる
・さすが観光業に力を入れているキューバだけあって、ホテル建築の質が高い
といったふたつが挙げられます。
そしてこれらのホテル建築には、キューバの気候ならではの空間的特徴も見受けられました。
それではさっそく見ていきましょう。

◆中庭を囲むロの字形平面
まずは旧国会議事堂の斜向いに位置するホテル・サラトガ。
ハバナ観光はここが起点になると言っても過言ではない、アクセス抜群のホテルです。
トップに載せた写真が外観です。2つの緑が鮮やかで美しいですね。
華麗な装飾を嫌らしく感じさせない、キューバでも随一のセンスの良い建物でした。

エントランスの奥にはレセプションがあり、大きな壁画が旅人を迎え入れてくれます。
2階へ続く階段を上っていくと・・・

バーカウンターが。宿泊客でなくとも自由に往来できる理由がおわかりいただけると思います。
インテリアも格調高くデザインされていますね。
さてこのバーですが、屋根が架かっていて雨は落ちてこないものの、自然光が当たり外気も通り抜ける、半外部空間のようになっています。
暑い日中に冷たいモヒートでも片手に涼めばさぞかし気持ちが良さそうですが、それだけでない恩恵を建物全体にもたらしているんですね。

◆風の循環を生む装置
ホテルの客室は、バーを囲むようにロの字形に配置され、バーの上部は4〜5層の吹き抜けになっています。
中央の中庭部分に直射日光が当たると、図のように温められた空気が上昇気流を生み、建物の上部へと流れていきます。


すると建物中央の気圧が低くなり、自ずとそれを取り囲む客室内部の空気も気圧の低い方へ流れ、さらに外の空気が客室へ流れ込んでいく、という仕組みです。
京都の町家を縦に積んだようなイメージですね。
こうして中庭が建物全体の空調の役割を担い、客室を快適に保っているのですね。
1年中日差しが強いキューバならではの工夫です。
ちなみに、日中温められた中庭の壁面は、夜間に蓄熱した熱を少しずつ放出し、今度は寒さから守ってくれます。
それではサラトガ以外の例も見ていきましょう。

こちらはホテル・ビジャヌエバ
2階が葉巻屋さんから中庭を見下ろしたところ。
屋根がなく太陽光が直接当たるので、植栽で日陰がつくられていますね。
それにしても、こんな南国の植物が西洋建築の中でモリモリ生い茂っている様子を見れるのは、植民地ならではかも知れません。

こちらも旧市街中央に位置するホテル。
パティオを取り囲むように並ぶ客室には、窓が一切ないんだとか。
修道僧の生活を疑似体験できるという趣向だそうです。

かなり小さく坪庭のような雰囲気ですが、こちらも同様のつくりです。
照明を押さえることで中庭部分の明るさが際立ち、神聖な空気が生まれています。

こちらは新市街に近いホテル・リブレ。
ひときわ大きな中庭が開放的な空間をつくり出しています。

そしてもうひとつ、ホテルではありませんがラム酒博物館の中庭。
きれいに塗り分けられた壁面と、ごつごつした粗い肌の柱の対比が美しい。
柱に取り付けられた植物やベンチもかわいらしく、キューバらしさ満載の建築です。

いかがでしたでしょうか。
どんな建築物にも、設計者の意図が現れており、なぜこのようなデザインになっているのか? を考えていくとさまざまな発見があります。
特に旅行など見ず知らずの土地に行く際には、その土地の文化や歴史、気候などと深く根付いたその土地ならではの建築のルールが町全体に行き渡っているのを発見することもあるので、ぜひ注目してみてください。


次回は、キューバのホテル番外編として、国賓級のゲストも多数宿泊するナショナル・デ・クーバの建築をレポートしたいと思います。

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