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第五十四話 真夜中の珍客

まだ揺れている。
僕は直ぐ様起き上がり、枕元に携帯しておいたマグライト(懐中電灯)を手にする。

他の何人かも目を覚ましてるけど、まだ誰も動けない。
 
取り敢えず僕は警戒はしながらも、先ずは一番に外の様子を確認しに出る。

すると下には何か大きな得体の知れない黒い物体が動いている。
で、デカい。

その体高は遥かに僕の背丈を越えている。
 
その大きさに一瞬怯み、ライトを当てるのを迷うが、やはりその存在を確認しておきたいのでライトを照らす。

すると、その黒い物体は僕に気づいたのか、反転して森の中へと逃げ込む。
バキバキと木々が折れる音。
その後ろ姿にライトを当てる。
 
おや?あの尻尾は…。
 
「象だ!!」
僕は一人叫ぶ。
 
遅れて、浅野さんやオージー達も起きてくる。
 
例のオージー、ルーカスが眠い目をこすりながら、
 
「どうした?」と聞く。
 
「象だよ、象!象が来てたんだ!」
 
「何だよお前、ドラッグやってんだろ。。?」
(おい、寝ぼけるのも大概にしとけ)
 
「何言ってんだ!?ほら、あれだ!見ろよ!あそこの茂みの中に入っていく!あれだよ、あれ!」
 
「どこ?どこに居るんですか?」
また浅野さんは、いつもと同じ台詞を繰り返す…。
 
もう、茂みが揺れているだけで、その姿は確認出来ず、誰も気づかない…。
 
僕は更にライトを茂みの奥の方に当てようと階段付近まで行く。が、焦ってライトを下に落としてしまう。
 
「マジか!!」
この真っ暗なジャングルの中にライトを落とす。他には誰もライトがない。
茂みの奥に微かに光る、僕のマグライト。
 
みんなの顔を見回す。
 
「行ってこい」
そういう顔で見ている。
 
「いや、真夜中のジャングルだよ?しかも今、象が来ていたばかりなのに、降りるのは危険でしょ??無理でしょ??!」
 
「いや、ライトはお前の一つしかないぜ?どうするんだよ?」
 
「大丈夫ですよ」
人事だと思って、浅野さんも軽く言う。
 
「……。」
 仕方ない。
 
「浅野さん、ちゃんと上で見て下さいよ?ルーカスも!何か来たら直ぐ知らせて!」
 
「分った」と、皆で頷く。
頼りねー…。
 
僕は一気に階段を下に降り、藪の中、ライトを取りに行く。斜面になっているので、かなり下の方まで転がっていってしまったようだ。
真っ暗で何も見えない。向こうにぼんやりとライトの明かりが見えるだけ。
ここで何かに襲われたら、それこそ終わりだ。
僕は大袈裟に大きな声で話しながら、真っ暗なジャングルの中を歩く。
 
そしてようやく斜面の下まで到達。ライトを手にする。

これで一安心だ。
 
上を見ると、みんな話し込んでいる。僕の事など気にしてない。
やっぱり、宛に出来なかった。
 そしてまた一気にジャンプして、階段を駆け上がる。
 とんだジャングルでの一夜でした。
 
次の日の朝、僕らは荷物をまとめる。
ジャングル生活も、今日で終わりだ。
 
歯を磨きながら僕はブンブンから下まで降りようとする。
するとジャングルの湿気のせいでしょうか。
ハシゴ状の階段に足を掛けると、ツルッと滑り、僕はそのまま滑り落ちる。
 
ドドドドドド。。!!ドスン!!
 
歯ブラシを口にくわえたままの状態。
一気に目も覚める。海亀以来、階段から落ちるの二度目だ。
 
上でルーカスの彼女がビックリして見ている。(よりによって、あいつに見られた!)
すかさず、みんなに言いに行く。
 
「みんな来て!ほら、あんた(ルーカス)の友達がここから下まで一気に滑り落ちたのよ!!ここから下まで!」
上で大笑いしている。
 
笑い事じゃない。
三階くらいの高さの階段から滑り落ちた痛さといったら。。
 
しかも、何だこれ?
下の三段(一段の幅が広い)が無いじゃないか!??
どうなってるんだ!?(怒)
 
昨晩降りた時は上りも下りも飛び降り、飛び乗ったので下の三段程度は気づかなかったけど、よく見ると下三段が踏み抜かれている。
しかも真っ二つに。そしてその上には「あの」象の足跡が。
 
(ん?もしや)
 
僕は痛がりながら、ブンブンの真下へと行く。(這いつくばり)
 
(やはり!)
 
実は、昨晩、動物をおびき寄せようと、カビの生えてきたパンをブンブンの下へと置いておいたのだ。
それがやはり見事にない。
 
(そうか。昨日の象は、これを食べにきたんだ。そしてこのブンブンの柱(小屋の四隅の足)にぶつかった事で、昨晩の揺れが起こったんだ!それで更に食べ物を得ようと、上に登ろうとしたのか。二度目の音は階段を踏み抜いた音か。。)
 
この原因を作ったのは……、僕らか!!
この事は皆には黙っておこう。
 
「ルーカス、浅野さん!ほら!降りてきて!象の足跡!階段を踏み抜いてるよ!これで分ったでしょう!?本当に象は来ていたんだよ!」
二人とも真剣に見ている。
 
「マジかよ。本当だったのか。俺はてっきり、お前がキマッてると思ってたぜ笑」
 
「やめてくれよ、ルーカス。お前と一緒にしないでくれ。」
 
そして僕らは、再び荷物まとめに取り掛かる。
一足先に荷物をまとめたルーカス達が、出発することに。
 
「俺は今まで南米からアフリカまで旅してきたけど、お前みたいに面白いやつと出会ったのは初めてだ。」
彼が僕に言う。
 
「いや、君ほどじゃないよ。」

 
「これからもお互い、楽しい旅を続けよう!また会おう!」
 
そう言って、僕らは固い握手をして、ルーカス一行と別れた。
 
さあ、僕らも戻ろう。
宿でチビとアリスが待っている_。

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