生きること、学ぶこと


(問い)グローバル人材教育に英語は必須ではない?



「グローバル人材育成教育学会」2代目会長の勝又美智雄と面談する。
 
 2004年に秋田に開学した国際教養大学の設立者の一人であり、日本経済新聞ロサンゼルス支局長以来、ビジネス・教育を通じた経験から、「グローバル人材の定義」を考えてきた。アメリカ、アジア、中東、ヨーロッパなど 20ヵ国以上を取材して回り、現地で活躍する日本人を間近に見て、その人たちに共通するものは何かを考えてきた結果、そこで得た確信が次の言葉となる。
 
グローバル人材教育に英語は必須ではない。
 
 グローバル人材を次のとおり定義する。(『最強の英語学習法』(IBC 出版、2017 年))
 
① 異文化への好奇心を強く持ち、異文化摩擦・衝突ができる
② 自分の文化(家族・生まれ故郷・地域社会・国)をよく理解し、誇りに思う
③ 論理的思考力・批判的判断力を養い、自分の考えを的確に表現し、主張できる
④ 他人(他人種・他文化)を蔑視・差別しないで、共感できる想像力を持つ
⑤ 民主主義の理念(自由・平等・公正・寛容)を実行できる
⑥ 高い正義感と倫理観を持ち、職業として選んだ仕事で「一流」を目指す
⑦ 既成事実・既得権益に安住せず「ゼロから挑戦する・創造する」姿勢を育む
 
 グローバル人材とは、自分の文化を知り、異文化への好奇心を持ち・交流し、民主主義の理念を持ち、ゼロから挑戦できる「世界中のどこに行っても現地の人たちから信頼され、尊敬される人物」とする。
 
 そのためには、英語力よりも母語(日本語)をきちんと使えることが重要である。大きな間違いは、グローバル人材の要素と英語力が堪能であることとを同心円で二重にかぶさると考えることである。グローバル人材には英語が不可欠である、あるいは英語力を高めることがグローバル人材になる最短の近道であると信じている。しかし実はこの二つは同心円では決してなく、それぞれの中心点が別にあって、その一部が重なる。その重なる部分はざっと2割ぐらい、多く見ても3割以下だと私は思う。
つまり、グローバル人材と言われるほど海外で活躍する人も、その7~8割は実は「私自身英語は苦手だが、ビジネスをする上では英語力はそんなに問題にはならない」「英語力はせいぜい中学3年レベル、良くて高1レベル程度あれば良い。それ以上のことは、現地でビジネスをしていく上で専門用語を覚えていけば済む」という人が圧倒的に多い。また、「英語力が高い人」とみなされている人が即海外で活躍できるかと言えば、事実は全くそうではない。英語ができるからグローバル人材になれるという説は、幻想に過ぎない、というのが勝又先生の結論である。
 
 英語は、あくまでもコミュニケーションの道具として必要なものであるという、BYU渡部和一先生の主張と重なる。BYUの言語教育にエレノア・ジョーデンの言語学を導入したのは、英語教師自身が異文化理解や異文化コミュニケーションを基本として持たなければならないとの思いからである。
 
国際教養大学での学びとは?
 
 国際教養大学で全ての授業を英語で行うのは、英語力を伸ばすのが目的ではない。したがって、学ぶカリキュラムがレベル高いものをやらないと全く意味がない。
 
 教材はアメリカの高校・短大レベルを用いて、大量の英文を理解しながら批判的に速読できるようになる。例えば、リンカーンのa few appropriate remarks の270語をネイティブに近い3分で読むようになる。 最頻出単語2000を、駆使して論を張れる。授業は毎日5時間で、自習5−7時間は行う。 EAPの後、基礎教育(一般教養)を行う。
4年間の授業で異文化コミュニケーション力の鍛錬にともなって英語力も上がる。「ノート言える」コミュニケーションが身に付く。レトリカルシンキングである。日本語で理解する80%を英語で説明できる。
 
 勝又先生が強調されたことがある。その一つは、文系だけでなく理数系の学びの必要性である。教養大では、能力別編成で英語集中コースを終了したあと、最初に必修科目として取るべきものに数学と物理・化学科目が基本科目としてある。理数系の科目をしっかりと学ぶことで論理的思考力を高めることができる。これは必修なので、この数学、物理・化学で合格点を取らなければ永久に卒業できないことになる。集合論や変数を使って数式化していくことができないため、グローバル・ビジネスで統計学のイロハが分からなくなってしまう。
 
「英語力がある、イコール理数系はダメ」という図式は全く通用しない。
 
 数学の教師、物理・化学の教師が時々英語を混ぜながら、あるいはアメリカの高校生レベルの教科書、副教材を使いながら日本語に対応させつつ説明していくような、そういう授業が大学レベルで行われるのは極めて望ましいことではないかと考えている。
 
これからは女性の時代である。
 
 もう一つは、女性が活躍する時代への応援である。世界で活躍する女性は、組織にしがみつく姿勢は希薄である。自分のプロとしての仕事を身に着けながら、機会があればそれを生かして他の企業、あるいは独立して自ら起業家となって自由に動きまわりたいという願望が強いと思われる。現に日本人でもかなりの人が実は 20 代から 50 代ぐらいの女性であり、その人たちは日本の企業社会の組織の中で生活し続けることに飽き足らず、あっさり日本を飛び出して東南アジアなりアメリカなりに行って、そこで苦労しながら生活の基礎を築いて現地に定着する、ということに成功している人たちだ。これからグローバル人材になって育っていく人たちの過半数は、こうした軽快なフットワークで動く女性たちになるのではないか?
 
ps
「グローバル人材育成教育学会」初代会長の小野博先生(医学博士)との映像会談も行なっているので、どのようにしてグロ―バル人材育成を構想するのかについても紹介していきたい。

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