『職業遍歴』#20-2 健康食品を販売している会社を2カ月で辞めた話
筆者が過去に経験した「履歴書には書けない仕事(バイト含む)」を振り返るシリーズ第20弾。今回は健康食品を販売する会社の会員誌の編集をしていたころのお話です。
20. 会員誌の編集
健康食品を販売する会社で紹介予定派遣として会員誌の編集をすることになった経緯をこちらに書きました。↓
私はその会員誌の編集長として、企画、取材、執筆、写真撮影、編集、校正、入稿、すべてを一人でやっていました。正直派遣社員には荷が重かったです。
企画もひとりで考えればいいわけではなく、社長やほかの協力会社の人たちと話し合いながら進めないといけません。こちらが提案をしたり、逆に向こうから企画を振られたり。向こうから振ってくれればまだラクですが、なにもない場合は一から相談しないといけません。こうやってわからないことをよく知らない人たちとコミュニケーションをとりながら進めていかないといけないのもストレスでした。
前任者からの引き継ぎは3日だけでした。そして4日目から、私はこのすべてをひとりでやらないといけないことになりました。どう考えてもこの内容を3日で引き継ぐのは無理がありました。
会社で仕事をするのだけで一杯いっぱいになっているときに、急に社長から振られて広島や京都に出張取材に行きました。京都は一泊、広島は日帰りでした。また、群馬の赤城山で会員さんの集会があり、そのレポートをするため一眼レフやビデオカメラや三脚を抱えて取材に行きました。しんどかったです。
健康食品の会社ですから、会員さんはご高齢の方ばかりです。この健康食品を飲み始めたおかげで病気がよくなった、みたいな話を取材します。もちろん薬事法の関係で「治った」とは書けませんが。やっぱり、ご高齢の方の病気の話とか、旦那さんが亡くなってしまったとか、そういう話ばかりずっと聞き続けないといけないのはこちらも精神がやられます。以前、演劇誌でやっていたような、楽しい夢のある話の取材とは全然違います。
そういえば、前任者は胃腸炎にかかって辞めたとのことでした。やはりストレスだったのだと思います。
ただでさえ慣れない仕事であれこれストレスのかかる内容だったのに、私は自ら新たなストレスを抱え込んでしまいました。会員誌のデザインを変えることを提案したのです。
自分に編集権があるから、デザインを変えたりすることもできるわけです。もちろん見積を社長に提出し、ゴーをもらってからデザイナーに発注をかけました。
そのデザイナーさんはとてもお忙しい方でしたが、引き受けてくださり、とても素晴らしいデザイン案を出してくださいました。その案を受け取ったときは本当にうれしく、お願いしてよかった、と思いました。
私はほかにも、カメラマンを外部にお願いするよう提案したりもしました。自分で撮影をやりたくなかったからです。これも社長からOKをもらい、知り合いのカメラマンさんに声をかけ、安めのギャラでお願いしてしまいました。
こうして新しくなにかをやる、というのは大変なことです。デザイナーさんにもカメラマンさんにも、媒体の説明や企画の意図などをしっかり話し、何度も打ち合わせをしました。このようにカメラマンさんやデザイナーさんを巻き込んでしまった以上、いいものを作り出さないといけないというプレッシャーがありました。
そして私が編集長となってからできあがった第一号は、とてもカッコいいものになりました。それまでのものとは段違いのカッコよさでした。自分の力でこんなカッコいいものを作れたことに、私は満足しました。やってやったぜ!みたいな感じでした。
そして満足すると、もうこの仕事はいいかな、と思ってしまいました。ただでさえ大変な仕事なのに、新しいことをあれこれやってすっかり疲れてしまったのです。これをずっと続けるのは嫌だな、正社員になる前に、まだ派遣のうちに辞めてしまおうと思いました。
ちょうどそのころ、京都でその会社が毎年やっているイベントが行われることになり、その取材に行くことになりました。カメラマンをどうするかやレポート内容をどうするかなどいろいろやることがありました。私はもう面倒になってしまい、このイベントの前に辞めることにしました。
契約途中だったので、派遣会社の営業には怒られました。「私たちにとって派遣先さんはクライアント。そのクライアントに迷惑をかけることになるんですよ」みたいなことを言われました。話しているとき、営業さんの腕がぷるぷる震えているのに気づきました。つまりこの人は、今すごく怒っているんだ、と思いました。
しかし、派遣会社にとってはクライアントでも、私にとってはクライアントではありませんから、そんなことを言われても響きませんでした。私はただ派遣されている期間だけ派遣会社に雇われているというだけで、派遣会社の正社員でもなんでもありません。契約が終われば雇用関係も終わります。クライアント?だから何?という感じでした。
以前、短期の仕事をトライアル期間で辞めようとしたとき、派遣会社の営業さんに熱心に説得されて結局契約を更新したという話を書きました。↓
このときの営業さんは、クライアントのことよりも、私のことを気遣ってくれていました。私の仕事の状況をきちんと聞いてくれ、大変なことをわかってくれ、その上で「もうちょっとだけ頑張ってみたほうが、文月さんにとっても得になりますよ」と言ってくれたのです。
ところが今回の営業は私の大変な状況などわかってくれず、ただただ「クライアントに迷惑がかかる」ことばかり気にしていました。北風と太陽じゃないですが、上からきついことばかり言われても、こちらの気持ちは動きません。営業に怒られようがなんだろうが、私の辞める意思は変わりませんでした。
結局私はその会社をたった2カ月で辞めました。私の作ったやたらとカッコいいリニューアル誌だけがあとに残りました。今それがどうなっているのかはわかりません。
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