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ナスDになりたいから。僕は、週末山へ行く。

人の強さについて、考えることがある。
結婚して、家族ができてからはなおさら。


久しぶりに会った街の先輩は、いつもよりシャープに見えた。

これは、「うっす!久しぶりっすね!」ってな具合にスタートした、先輩との飲み会での出来事だ。

先輩は、ウェブプロデューサーという肩書きよろしく、インターネットの世界で、でっかい仕事をバンバン打ちまくる傍、酒もタバコもほどほどに嗜むし音楽においては全方位網羅的に明るく、読書家でもある。ちなみに、長らく住んできたシティからは離れ、神戸の王子公園というタウンで暮らしている。そして、月間300キロ走る人(しかも山を)でもある。

仕事でもでっかい山を預けてくれるし、街場での立ち振る舞いも伝授してくれる。いわば僕にとっての指標となる存在で、よく二人で杯を交わさせてもらっている。

定期的に開催されるその会では、僕が、先輩にインタビューする形式で進むのが決まり。この日も「実は坊主にしまして」「サピエンス全史がいかに素晴らしいか」「お子さんは?」といったパーソナルな話から、「アフターコロナの地価」……と、今ドキなトークで盛り上がっていた。

杯を重ね、酔いも回ってきた頃、「先輩はなんで、走るんですか?」と、アホみたいな問いかけをしてみた。

「強くなりたいから」

コンマ2秒で、アンサーが帰ってきた。てっきり、「健康なカラダを手に入れたいから」とか「走っていると、爽快感があるから」というアンサーが帰ってくると踏んでいたせいか「なるほど」という言葉しか返せなかった。

すると続けて、「ロマンはまだ若いから感じることはないかもしれないけど、大事なことは強さなんだよ。強さっていうのは、腕っ節とか仕事ができるとかそういうことじゃなくて、生きる力だから」と、先輩。

グッときた。先輩はこんな具合に、いつも格好いい発言をする。「走る=速さ。そして、自身の成長が楽しいんだと思っていました。強さ、生きる力とは?」と、問いかける。

すこし間をおいて、「もちろん、それも走る目的としては正解なんだよね。実際に始めた頃よりキロ単位のタイムが上がると嬉しいし。40歳を超えると仕事ができるようになったっていう成長体験も減るから、なおさらね」

「ですよね」と、返す。

すると続けて「ロマンは格闘技をやっていたからわかると思うけど、強盗が入ってきたときとか、人に絡まれたときに戦うことで身を守れるのも一つの強さ。だけど、そんなときに家族おぶって長い距離を走り、逃げ切れるのも強さだよね。強さを軸としたランには、生きる力の根があるんだよね。山を走るとそういう強さが手に入る」



すっと、腑に落ちた。仕事ができる人は格好いいし、お金を稼ぐことも大切だ。でも、所詮今ある暮らしが便利になったり、豊かになるだけだ。

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天使のようなパートナーとキュートな愛猫3匹というゴキゲンなファミリーを守るために強くなろう。そう決心した。


じっくりと間をあけて「僕にとって、ナスDが強さの象徴なんですよね。ああ、なれるなら家族を守っていけそうだし、走りたいかもしれません。こんど、山に連れて行ってください」と、答えた。


「わかった。来週、山に行こう。水だけ持ってきてくれればいい。走らなくてもいい、ただ歩いて山を登ろう。それが強さへの第一歩やから」と、笑う先輩。

ほどなくして、終電の時刻に。先輩はいつも通り颯爽と駆けて闇に消え、ゴキゲンな夜会はお開きと相成った。

てなわけで、僕が急に山の魅力を語り出したり、走ることに魅せられ、健康的な体型になったとしても心配しないでください。

「ナスDになりたいから。僕は、週末山へ行く。 」

ただ、それだけなので。











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