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城定秀夫「銀平町シネマブルース」

横浜ムービルで、城定秀夫「銀平町シネマブルース」 脚本はいまおかしんじ。

ホームレスの男(小出恵介)がふとしたきっかけで銀平町スカラ座の支配人(吹越満)に拾われてバイト生活を通して愉快な仲間たちに支えられ映画作りの再開を決意。彼が失った二人の大事な人、離婚した妻(さとうほなみ)と自殺した助監督(平井亜門)を完成させた映画の中に取り戻し、降臨した映画の神様が未来へと背中を押した、人生応援歌的な秀作。

当たり前だけど映画って今より過去しか撮れない。でも撮った映画の中には未来への自分を後押ししてくれる何かがある。生きてる人も死んじゃった人も均しく映画の中に存在して、今この時点を生きてる自分のことを勇気づけてくれる。だから、私は好き好んで映画を観るんだなあ。

いまおか監督の特徴として死者の魂を蘇らせる、でもオカルトじゃなくてコミカルの方で終いには誰が生きてるか死んでるか分からなくなっちゃう、ああ、俺って生きてるんだなあ、って実感させてくれるのがいまおか作品の良い所、そんな彼が城定監督にホンを提供した。

本作の城定さんは、ベタだけど笑って泣けるユーモアとペーソスに徹していて、ブラック城定さんやシニカル城定さんは一切出てきません。序盤で丁寧に種を撒き続けて後半でキレイに伏線回収する、そんな職人技も、メジャーに進出してから初めてちゃんと見せたと思う。

最近の映画って観てる方もなんか勘違いしちゃってるかも知れないけど、元々は王道の娯楽作品であるべきですから!映画を観ることによって何か衝撃を受けたり知識を得たりするのは本来ならばプラスアルファの部分で、まずは劇場で喜怒哀楽を共有して楽しむものだ。

「ALWAYS 三丁目の夕日」もそうだけど、ベタで泣ける、観終わった後に優しい気持ちになって劇場を後に出来る、そんな映画がもっとあっていいと思うんですよ。作家性という点では城定さんもいまおかさんも本作では割り切って捨てた面もあると思うけど、いいと思うの。

城定さんのきめ細かい演出が堪能できるのは、総勢何人の出演者が登場するのかな?一人一人ちゃんとキャラ付けがされていてみんな魅力的。いまおかさんの発案によるキャラが大半なんだろうけど劇中映画「はらわた工場の夜」の麻木貴仁ゾンビ社長は城定さんの発案だなw

麻木貴仁社長がゾンビになってOLのさとうほなみに襲い掛かる場面。ほなみは劇中の役名がご丁寧にも一果(字は違うけど一花と読みが一緒)ゾンビ麻木が一果に「好きです!」思い切って告白して「社長、キモいです」あっさりフラれる場面は「花と沼かよ!」と思ったw

映画を観終わった人に聞いてみたい「あなたはどこで映画の神が降臨しましたか?」私の場合、主人公の小出がこれまでためらっていた助監督で自殺した後輩(平井亜門)を見舞い、一人暮らしの母親(片岡礼子)を訪ねる場面から。ここから鳥肌が立つほど神が降りて来たw

片岡礼子は美貌だけでなく背負っているのが一人息子の亜門を亡くした一人暮らしの未亡人という設定なので、もうスクリーンに彼女の姿が映っただけで泣いちゃう。スカラ座での上映会で小出幻の映画の上映後メイキングで平井亜門が登場して母親の礼子の号泣に私も号泣。

思えば本作の助監督は伊藤一平が勤めてるけど彼は城定監督とのコンビが凄く長いよね。一度は映画の道を諦めて転職したと聞いたけど、小出の口から出る「いつか映画で飯が食えるようになってやる!」その夢が現状の映画界なんだよね。好きなだけじゃ食っていけない、どうしようも無い。

城定さんもいまおかさんも成人映画で数多くの傑作を撮っていて、それを下積みというのかよく分からないけれど、映画で飯が食える、一般館でロードショーとしてかかる、が目安とすれば、小出恵介演じる若手映画監督の思い描く夢ある未来こそが城定秀夫、いまおかしんじなのかな。

ピンク映画的には森羅万象、隆西凌(二人とも吹越支配人の麻雀仲間)麻木貴仁(ゾンビ社長)山本宗介(一果のゾンビ恋人)スタッフに林魏堂や谷口恒平の名前もあったな。ある意味、ピンク映画が支えている映画で、ピンク映画の過去の傑作と繋がっている感じがした。

川越スカラ座が劇場内からロビー、周辺の街並みに至るまでキレイに保存されたという所にも重要な価値があるんじゃないか。佐藤寿保監督「華魂 幻影」には今は亡き飯田橋くらら劇場の姿が見事に収められてる。いや、川越スカラ座にはこれからもずっと経営し続けて欲しい。

小出にとって二人の女、離婚した元妻のさとうほなみと、自殺した平井助監督の母親の片岡礼子は、方や許さざる存在で、方や精一杯に贖罪しないといけない存在かもしれないけど、過去を清算する映画を完成することで一つの地平線上に乗る。そのことに観客はホッとする。

観始めてすぐに、銀平町スカラ座60周年記念上映があって、そこで小出監督の作品がかかって、感動の嵐で大団円になるって誰でも容易に想像がつくのよね。で、その通りになる(笑)別に奇をてらったものなんて何もない。良質な娯楽作品というのは本来そういうもの。

相変わらずイイ味出してるのが中島歩で、スクリーンに映った途端に笑い取るの反則だろwイケメンのくせに河童の着ぐるみ着せられ銀平町の宣伝する姿にマジ笑ったwしかも顔を絶対に映してくれよ、と言わんばかりに着ぐるみとってキメポーズして名前名乗ってるしw

浅田美代子、渡辺裕之、藤田朋子、地味に豪華なんだよね、脇を固める面子。映写技師の渡辺と吹越の別れた妻の朋子はフツーにイイ役なんだけど、ホームレスを集めて貧困ビジネスで臓器売らせたり携帯をガンガン契約させる鬼女の美代子にはアイドル時代の面影はないw

宇野祥平は本作でマジに日本アカデミー大賞助演男優賞狙えるんじゃないか?辛酸舐めまくりホームレスが実は「カサブランカ」のイングリッドバーグマンを女神と崇める映画オタで、イイ映画観たら手を合わせて映画の神様に向かって拝む。大体オチは想像できるんだけどw

本作は映画の神様を描いた作品だから、宇野祥平は神様では無いけど、ずっとスクリーンに向かって祈り続けた修行僧みたいな趣があって、小出が別れた妻ほなみが途中まで出演したゾンビ映画を撮り上げ助監督の平井がメイキングに降臨、至福の瞬間に宇野はどうなった?

はい、宇野さんは合掌した姿のまま、スカラ座の椅子で絶命しました(笑←笑うとこじゃないってw)でも、宇野さんが演じると、死んだのになんだか悲壮感ないんだよな「よお!」ってすぐに生き返って来そうな感じがして。彼は生ける魂と死んだ魂の交感者として常に映画の首座にどっかりと居座る。

冒頭、宇野と小出が二人で川を眺めて世間話していて、宇野が「この映画、面白いんだぜ」チラシを50円でもいいから買わせようとするwそしてスキを見てバッグを盗んでダッシュ!ところが貧困ビジネスの胴元・浅田美代子宅に行ってみれば宇野がいるではないかw

テント生活だった宇野は携帯を買いまくるビジネスと引き換えにボロアパートを手に入れ、小出の方は知り合った銀平町スカラ座の吹越支配人に映画館を住処に提供してもらうがちゃんと金は1日千円も取られたw小出が映画監督をしていたという事実を知って驚く吹越。

吹越支配人って、実はスゲエイイ人で、金に困りながらの町内会の人たちの「映画館を閉めないで」の要望に応えて何とかスカラ座を守って来た。小出が撮ったというゾンビ映画には別れた妻ほなみがヒロインとして出演。周囲から勝手に「奥さんが死んで自暴自棄になった小出は家出」みたいなストーリーを描かれたが、ある日ほなみがスカラ座にやって来てみんなびっくり!

さっぱりした性格のほなみは小出との間にできた娘も連れていたが新恋人がいるという。そしてスカラ座の支配人、従業員一同で会議を行い「スカラ座創立60周年記念映画」を作ることに決定。吹越が気に入っていた女性監督の「監督残酷物語」(主演・守屋文雄w)は既に出来上がっていたが、小出は追撮して映画「はらわた工場の夜」として完成させた。

ほなみは映画の完成を目途に娘と一緒にスカラ座を後にし、娘にハグされ感極まった小出の姿に私も感極まる。映写技師の渡辺は「映画、出来たか?」映画に出て来たチークダンスを小出と踊ってみせた。スカラ座ではロードショーで「カサブランカ」を上映中。

実は映画大好きな宇野はイングリッドバーグマンの余りの美しさに、上映後に合掌してスクリーンの神様に祈りを捧げていた。でも携帯をガンガン契約させた件、元弁護士だった吹越が怒りにまかせて浅田美代子事務所に怒鳴り込み、宇野は自由になったが再びホームレス。でも宇野にとって生活保護を受けてがんじがらめの生活よりホームレスの方がずっと気持ち良かった。

小出はこれまでわだかまりがあった自殺した助監督の平井の実家を訪れ、線香を上げた後、独り取り残された母親礼子の歓待を受けた。そして感動のスカラ座60周年記念上映当日、まず「監督残酷物語」が上映され、監督の熱い思いと裏腹に守屋文雄監督のコミカルな場面にドッカンドッカン大ウケで焦る小出(笑)

しかし小出の演出の腕は確かなもので、ゾンビ版「花と沼」は大成功であった。そしてメイキング。メ、メイキング?小出は全然知らなかった。生前、助監督の平井がそんなカメラを回していたなんて。元気におどけ、喋る平井の姿を見て余りの感動に涙ぐむ礼子。

上映会が終わり、様子を見に来た元妻ほなみと娘も、丁重にお礼を頂いた礼子も帰って行き、小出は吹越支配人に「お話があります」そして、客席を片付けようと中に入ると、座席で合掌している宇野の姿「もう閉館だよ」身体に触れるとバタッと倒れた。彼は死んでいた。

小出はバッグを手に新天地へと向かう。いつか映写技師の渡辺が教えてくれたチークダンスを踊ってみた。過去は過去、生きてる人も、死んでる人も、みんな集まって清算した。もう俺は、未来しか見えない。

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