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今村昌平「神々の深き欲望」

北千住シネマブルースタジオで、今村昌平「神々の深き欲望」 脚本は長谷部慶次との共同。

沖縄の青い海に浮かぶ孤島クラゲ島を舞台に、一見すると神話的に見える、近親相姦と密漁で禁忌を破る根吉(三国連太郎)を中心とした、村人たちから獣扱いされつつも神の使いでもある太(ふとり)家の滅亡を、製糖会社の技師として開発に訪れた男(北村和夫)の視点を絡めて描いた大河スペクタクルロマンの傑作。

若い頃に初見した時は、沖縄の時代遅れな土俗的な話と思い込んでしまいスミマセンでした。これ、神話のように見えるけど全然、神話じゃない。日本のあちらこちらで今も起きている会社組織や家族関係の崩壊、誰でも身に覚えがあると思う。だから北村和夫視点でしか私には観られないよw

本作は1968年の公開で、今村監督にとって初めてのオールカラー作品とのことだが、まあ力の入ってること!当時の沖縄の美しい情景をカラーフィルムに焼き付けただけでも環境映画として既に価値を持ってる上、展開されるドラマもかなり入念なロケハンがあってこそ成り立ってるのだろう。

1962年にレヴィストロースが発表した「野生の思考」その前に遡り「悲しき熱帯」を想起してしまった。西欧的価値観と対峙する未開社会における人間関係から構築された秩序から成り立つ構造主義を改めて考えさせられる作品。影の主役・北村和夫の立場はとってもフィールドワークなのだ。

商業映画というものは学究のためにある訳ではないので、太家というクラゲ島の原始的な家族を中心とした島の因習と東京から乗り込んだ開発者の衝突、でも実は一枚岩ではない島民たちの思惑、のようなドラマ性を孕みつつも、どうにも人間関係の成り立ち自体に目が行く。

太家の面々はそりゃもう凄いものでw祖父の山盛が嵐寛寿郎、父親の根吉が三国連太郎、母親のウマが松井康子、長男の亀太郎が河原崎長一郎で長女のトリ子が沖山秀子と言う、濃すぎる個性のぶつかり合い(笑)この中でキーマンとなるのが断然、ウマこと松井康子で、彼女が禁忌の発端。

誰が何と言ってもこの物語の根源は三国連太郎と松井康子が実の兄妹にも関わらず近親相姦してしまった、これに尽きる。その罰として三国は干上がった田んぼを元に戻すために岩を落とす穴掘りの刑を科せられ、康子の方は身の安全を図ると称され村長(加藤嘉)の妾となった。

村長の加藤は康子を「囲った」即ち愛人でしかないのだがw村人たちはそれをムラの安定のためと歓迎し、太家を「ケモノ」と別称で呼びながらもムラ社会の安定をもたらす土俗信仰の拠り所とする。一見すると矛盾したものが混然となってムラ社会の調和を図っているのである。

ロマンポルノ的にはですね、ハダカやそれに近い露出はふんだんにあるのに興奮できねえwあるとすれば(←すればってなんだよw)スケベオヤジの殿山泰司が秀子にシュミーズをプレゼントする場面と、加藤村長が康子に「お前、三国に会っただろ!」乳揉みながら責める場面w

殿山は最初から下心丸出しでw本土で買った最新流行のシュミーズを秀子にプレゼント。っていうか目の前でパンティを脱がせ「履いてみろ!」履かせながら一発ヤラせろ感をギラギラ感じさせる脂ぎった禿オヤジの殿山が堪んない!けど、兄の河原崎に追い返されちゃう(笑)

康子が近親相姦の罪を犯した相手の兄・三国とこっそり会っていた情報を仕入れた加藤村長の折檻がヒデエ。元々、技師の北村を性的接待させようと派遣して拒まれたらリンチ、三国と会っただろ!とおっぱいをギュウギュウ揉みながら「吐け、さあ吐くんだ!」みたいな拷問w

北村和夫は極めて閉鎖的なムラ社会のクラゲ島に放り込まれた生贄のようなものなんだがw自らを技術屋と呼んで憚らない彼の容姿は測量技師のようでいて文化人類学者がフィールドワークしてるようにも見えてしまう。でも最初は東京の会社の価値観を村人に押し付けるのみ。

この作品は175分もの長編なので、90分で「休憩」が入る。劇場側が観客に配慮して設定したのではなく、予め本編の中に「休憩」テロップが織り込まれている。私の場合、前半はスカッと爽やかに見終えて休憩できたのに、後半に入ると一転して凄く重くて辛い気持ちになった。

北村視点から見た前半の90分間は、東京の会社組織を代表してクラゲ島にやって来た彼が現地の土俗信仰に水源開発を悉く妨害され、それがシャーマニズムの権化とも言える砂浜でのノロ(巫女)の祈りの儀式に強制参加させられ、彼は( ゚Д゚)とあることに気が付いたのだ。

クラゲ島に来てからずっと暗い顔をしていた北村が、砂浜を駆けまわり「スカッと爽やか、コカ・コーラ!」と叫ぶ時点で、観客である私の心もこれまで鬱積して来たものが重すぎる程に重い分、スカッとしたのだ。で、後半は「なぜ彼はスカッとしたの?」謎解きに入りますw

文化人類学を齧ったことがある人なら常識と思うが、コカ・コーラとマクドナルドは西欧的価値観を古くから因習が残る未開社会に持ち込み崩壊させる象徴のような飲食物で(笑)腹黒い北村は気が付くんだよね「空港作って観光地化して、そこでコカ・コーラ売ればいいじゃん!」

価格が暴落して村人にサトウキビ収穫代金の支払いも滞る製糖の商売なんかより、観光地化だよ、観光地化!でもその前に、狂女で後腐れが無さそうな沖山秀子抱いていいですか?村人たちは秀子に婿が来た、世継ぎが産めると大絶賛するけど、ホントはそんなこと考えてる訳ないw

北村は秀子を抱くだけ抱いて「また必ず帰って来るから!」すっかりクラゲ島の誘惑に染まったフリしてヒデエ奴(笑)北村が一旦、東京本社に戻って退場した後、もう一つの本編(←っていうか本来はこっちがメインだろw)三国と康子の許されぬ純愛の物語にシフトします。

三国と康子の物語は、文化人類学なんて全然関係無くて、日本神話のイザナギの尊とイザナミの尊による国作りの話だ(笑)イザナギとイザナミは兄妹だったけど過ちを犯して子供ができて国造りの第一歩となった。果たして三国と康子はクラゲ島で新しい国作りができるのか?

傷痍軍人で両足を失った浜村純が子供たちを集めて、歌を歌うことでイザナギとイザナミの神話を解説してる。クラゲ島の若者たちは♬よばい~よばい~♬と唱和してクラゲ島が男女の性交についてハードルの極めて低い島であることを表し、未開社会における独特の秩序と安定なのだw

ところで本作にはコミカルな要素もふんだんにあり、一癖も二癖もある村長の加藤嘉は北村の製糖工場を島の発展に利用しつつ、シャーマニズムが色濃く残るクラゲ島独特の因習も安定のために利用できることはしようとする、こいつホンモノのワルですぜ!北村は彼の正体にどこで気づいたか?

三国は表向きは足枷つけられて奴隷のように扱われ、20年間もひたすら穴掘ってる体になってるけど、加藤村長はそんなのデタラメと分かり切ってる。三国は密漁もするし、康子ともこっそり会ってるし、やりたいことしてるけど村人たちにそのことは言わず刑に服してるとだけ。

前半は、技師の北村が会長の娘婿と言う親の威を借るバカ息子テイストを発散しつつクラゲ島で完全アウェー状態の逆襲を思い立ってエンドだから、三国と康子は二人とも穴掘り奴隷と性奴隷のようにしか描かれず、息子の河原崎は加藤村長の命でずっと北村の腰ぎんちゃくを続ける。

後半に入って、技師の北村の変節よりも劇的に描かれるのが加藤嘉村長を中心とした実はクラゲ島はタテ社会で北村相手に取り込み演技をしてましたとさ(笑)三国には北村の水源開発を妨害させ、それを知ってる河原崎に「まあまあ」慰めさせる、そういう役割だったのだ(笑)

モノ言わぬ北村の前任の小松方正は、クラゲ島の女性と結婚して現地化してしまったが、会長の娘婿はそうはいかない。早速、観光開発の子会社に部長待遇で栄転させ、さっさと内地に引き揚げさせる。その後、会長からこんこんと加藤嘉村長との悪だくみを教授されたに違いないw

三国と康子のここだけ神話的な時の止まったような物語が動くのは、台風が来たせいで20年間動かなかった岩が動いちゃって穴を塞いで、三国やること無くなっちゃいました!彼は空港の滑走路を作るため立ち退きを要求される。元々公有地だけど立退料払ってやるは、村長さんスゲエ暴論w

三国には夢があった。加藤嘉会長の指示通りに北村を妨害したし、穴も埋まったしw後は別れ別れにされた康子を戻してもらって兄妹仲良く暮らすことが彼の人生最大の希望となったが、どこまでも腹黒い加藤村長そんなの許さねえ、折檻だ!とばかり正常位で康子をガンガン犯すw

加藤村長が可愛い妹の康子を正常位で折檻してる現場を覗き見てしまった三国の手には石。でも彼の目の前で腹上死する加藤嘉www加藤の妻が「二人で逃げなさい」と逃げ道を作ったかと思えば「三国が夫を殺した」言いふらし、村の若者総出でボートで捜索隊が結成された!

三国の夢は、ことがここに至ってチェンジ!西の神の島に行って、田んぼを耕して鳥や牛を育てて・・・それはつまり、イザナギとイザナミとなって西の島に国作りすることであった。でも村の若い衆はそれを許さねえ。マスクを被って身元が分からないようにしてボートに乗り込んだ。

息子の河原崎が半年かけてエンジン直した漁船を勝手に使って密漁していた三国(←こいつも随分ワルよのうw)康子を乗せて大海に漕ぎ出すと、若い衆がボート2隻で必死の追跡。覆面河原崎が棍棒で三国を殴り倒し、サメが泳いでる海にドボンさせ、何食わぬ顔で去ったw

海の中に沈みサメの餌になる三国の死体を見ながら「好きだった・・・」呟く康子。その漁船を陸から眺める狂女の秀子。嵐寛寿郎は死に、三国は殺され、河原崎は北村のツテで上京した。そして5年後、北村の目論んだ観光開発が成功、すっかり常夏のビーチ化したクラゲ島にようこそ!

クラゲ島にあったサトウキビ運搬汽車は改造され観光列車。何食わぬ顔で乗り込む北村は鬼畜だが、運転士は東京からUターンした河原崎だ!彼が北村夫妻と会長夫人を乗せて汽車を運転していると線路の上に動物のように走る影。秀子、秀子じゃねーか!これは蜃気楼だったのか?

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