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松本壮史「サマーフィルムにのって」

2022年3月大森キネカ名画座で、松本壮史「サマーフィルムにのって」 脚本は三浦直之との共同。

時代劇大好き女子高生(伊藤万理華)が、名画座で時代劇観て号泣するイケメン(金子大地)に一目惚れ「私の映画の主役になって!」友人の天文部オタク(河合優実)剣道部キャプテン(祷キララ)を巻き込んで、映研の恋愛ドラマと袂を分かち、時代劇映画製作に奔走するが最後は恋愛譚?キラキラ映画愛溢れる青春映画の快作。

時代劇って、映画って、自分にとってどんな位置づけなのかな?により、観た感想が劇的に違うと思う。映画内に世代差を表すような登場人物が一切出てこない、高校生しか登場しないから、そのキャラに自分の過去、現在、あるいは未来を重ね合わせられるか?だと思う。

私たちアラフィフは常に文化の良くも悪くもマジョリティにいたような気がして、他の世代の人の趣味趣向が気にならないことが多いと思う。私にとっての時代劇、子供の頃にテレビで観た水戸黄門や遠山の金さん、父親が映画館で観たエノケンの思い出話、そんなアラフィフ世代の記憶。

でもね、女子高生の万理華ちゃんにとって座頭市の思い出を語る人はお爺ちゃんなんですよ!だから、間違いなく私より世代は一回り、いや、二回りは違う。更に、リアルな高校生が観たら「時代劇?何よそれw」って言う位、もう実感が無いと思う、大衆風俗文化としてはね。

私自身が既にお爺ちゃんになったと認めたくはないんだけど(笑)どうしてもこの映画で描かれている、過去、現在、未来の時間軸の中で自分が既に過去に入りつつあることを実感せざるを得ない。そういう意味で観ていて自分には痛い映画ではあるけど、青春に戻って楽しむだけでいいんだ。

映画レビューで「世代を超えて楽しめる映画」と紹介してた人がいるけど、ウソだろ(笑)全く逆で、どの世代から見るとどう見えるか違いがあるから映画は面白いので、「永遠の青春」を描いたとしても時代劇とかラブコメとか具体的なテーマを入れると時間軸は出来る。

時代劇大好き万理華ちゃんにとって一番迷惑なのは、知った風なシネフィル爺が出て来て「時代劇ってのはさあ」滔々と語り始めたら、もう鬼嫌われしますから、ヤメとけよ(笑)万理華ちゃんが時代劇を映画を「好き!」っていう感情が大事なのであって、知識など関係ない。

私は普通に、この作品は青春娯楽映画として楽しく観られるけど、右から左へスッと抜けて行く爽快感で、ズーンと重く来るものは特に無いけど、ある世代には凄く刺さっているのかも知れない。その世代は恐らくアラサー位だと想像するんだけど、もっと若ければいいなあ。

この作品を観ながら白鳥信一「高校エロトピア 赤い制服」という原悦子主演のロマンポルノを思い出した。無名の頃の大友克洋がホンを書いて映研が真面目に青春テーマに学校の日常風景を撮ることに反発して近所のおばちゃんに交渉してブルーフィルム作る悪ガキの話。

「高校エロトピア 赤い制服」では真面目な卒業制作とブルーフィルムが文化祭の上映会で入れ違いになり大混乱する話だったけど、この作品は別にブルーフィルム撮る訳じゃありませんからw時代劇を映画大好き女子高生が部からはみ出して自主制作、大人しい話なんです。

テーマ自体が大友克洋が若い頃に尖って書いた「フツーの映画なんてつまんねえ」レジスタンスとしてのブルーフィルムだったのに対して、本作はラブコメが主流派なのに対して時代劇好きな女子を主人公演じてくれるイケメンとのラブコメに落とし込んでいく、そこまででいいのか?そこまでだからいいいのか?でもイマドキの世界観。

ヒロインを演じる伊藤万理華ちゃんは乃木坂46の出身らしいが、私はもう最近のアイドルはさっぱり分からず、金子大地についても知識は怪しいんだけど、河合優実ちゃんと祈キララちゃんについては、良く知っている。今でも映画をメインに活動する俳優さんはきちんと、正当に、もっともっと評価して欲しいと思う。

さて、物語については、私のようなアラフィフ世代には「時をかける少女」を想起せざるを得ない。タイムリープしてきたイケメンにヒロインの女子高生が恋をする。現在と未来と言う時空の壁をものともせず、この純愛は成就するのだろうか?という観点では既視感バリバリだけど、決してパクッてるとかじゃなくて、映画をテーマに時間軸を設定して世代間を超えた映画愛を描こうとするとこういう設定になるの、必定だと思うのです。

私自身がホンを書いてみても120%、こうするに違いないと思うし、とにかく登場人物の一人一人に物語がある、青春群像的な描き方はまことに素晴らしい。映画研究部に所属する万理華ちゃんは、時代劇撮りたいけど却下されてしまい、明らかに映画と無縁そうな友人知人たちと、自分だけの卒業制作に走ることになる。

世はラブコメ全盛期で、「大好きだとしかいえないよー」みたいな、リア充どもが調子に乗りやがって、ケッと思わせる映画なんてほっといて、主役は誰にしようかしら?でも座頭市とか三船さんみたいな人、いる訳ないと思って万理華が川越スカラ座で時代劇映画特集観てると、不慣れな手つきでポップコーンとジュースを持ち、夢中で時代劇に見入り、終わった後も号泣してる青年。

彼、良く見れば凄いイケメンじゃない?万理華はすかさず「彼だわ!」(←彼だわ、じゃねーよw)万理華は彼こそ私が温めていた企画「武士の青春」の主人公にピッタリ、金子大地青年を強引に口説き落として出演してもらうが、彼はタイムリープしてやって来た、時をかける少女で言うところの深町君的存在。

「武士の青春」には共演者やスタッフとしてダディ・ボーイ君(要は見た目がおっさん)デコチャリ君(自家発電で照明できるw)野球オタクコンビ、それに天文部の優実ちゃんと剣道部のキララちゃん。特にキララちゃんは剣道の達人でリア充にしか見えんのだがwホントはラブコメに憧れていた。一方、天文部の優実ちゃんは金子が未来人と見破り片想いするが万理華に譲る。

色々すったもんだあって(←端折りすぎw)キララが映研のトラブルを機会にラブコメに出演できたり、良かったねエピソードも交えつつwクライマックスシーンの撮影で、どうしても金子青年の「これでお別れだ」の殺陣と台詞が上手く撮れない。

そうこうして文化祭当日、映研の譲歩で「大好きだとしか言えないよー」と併映させてくれることになった「武士の青春」高校生たち、最初は寝てたんだけど、熱意は人の心を動かすもの、「結構、面白いんじゃね?」でも、途中で上映を止めてしまう万理華「クライマックスが違う」悩んだ彼女の結論「私が自分で殺陣して金子君の所まで行くの。時代劇って恋愛ドラマと一緒だって気付いたの」

万理華が撮ったこのフィルム、実は彼女の映画監督デビュー作として後世に知れ渡ることになるが、後に大監督となる彼女のフィルモグラフィの中で唯一、観ることができない。その謎を探しに未来からやって来たのが深町君、いや、金子君であった。映画は近い未来、消えてなくなるかもしれない、でも映像に記録されたものはずっと残り、後世に伝えることが出来る。

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