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石井隆「死んでもいい」

国立映画アーカイブで、石井隆「死んでもいい」

人妻の土屋名美(大竹しのぶ)は、山梨の地方都市で歳の離れた夫(室田日出男)と不動産屋。採用した若者(永瀬正敏)に物件で無理やり犯され、これを機会に夫に関係を疑われた。名美と若者と夫の三角関係は、東京でのホテルの情痴事件で最悪の結末。一人寂しく宙を眺める名美の姿に世紀末を感じる、破滅美学の恋愛ドラマ。

土屋名美を大竹しのぶが一世一代の好演してると思う。犯罪再現ドラマのようでいて、あり得ない様なフィクションドラマに圧倒的な説得力を与える妖艶な魅力。でも、本作に村木哲郎は登場しない。村木不在のドラマに設定していること自体で、石井監督にとって、これは「天使のはらわた」ではなく、別の物語を紡いだのだと思う。

石井隆のエロ劇画では、村木は冴えないモテない金ない、三無い男なのに、高嶺の花であるお嬢様の美女・名美を魂を救ってくれる天使と思い片恋する。暴力的に名美を奪い、名美の心と身体を傷つけ、彼女は堕天使になり、悲しい片恋は片恋のまま終わる。そんな80年代の石井美学が大きく転換を遂げた分岐点のような作品だと思う。

土屋名美に片恋する男は、二人とも村木ではない。方や若くてイケメンで、方や優しくて金持っている。名美にとって、ひょっとしたら過ぎたる男かも知れないのに、名美自身もロマンポルノ時代とは比べものにならない位にイイ女に描かれる。見た目の美しさにハートがヤラれる、凄くオシャレな男と女の恋愛ドラマ、でもここに私が大好きな石井隆の破滅の美学は無い。

破滅の美学で終わる作品ではあるが、好き嫌いがはっきり分かれると思う。相米慎二に影響を受けたのか?執拗な長回しと、これは石井隆の世界の原点であるザンザン降りの雨。ロマンポルノではジャンル要請と尺の問題、更には自身がメガホンを取れなかったもどかしさから解放され、存分に石井隆自身が撮りたかった世界観を描き切った分「やり切った」感と同時にやりきれない思いも同居する。

「死んでもいい」というタイトルを様々な解釈をすることができる。優しい夫と無軌道な若者に同時に熱愛される人妻の大竹しのぶが「死んでもいい」と思ったか、大竹しのぶを旦那から奪い取りたい永瀬正敏が「死んでもいい」と思ったか、暴力的な若者から愛する妻を守りたい室田日出男が「死んでもいい」と思ったか。

でも、私は思うんですよね、エロ劇画作家からスタートし、ロマンポルノのホン書いてステップアップした石井監督が、ロマンポルノに続いてついに一般映画を任されて2時間弱も自分が描きたいとおりの「画」を描き切ってもう「死んでもいい」と思ったんじゃないか?だから、観る人の性向によって本作は合う、合わないがはっきり出ると思います。

まず、永瀬の「出会って3秒で名美をレイプ!」そのAVも真っ青な一直線な感じがエロ素晴らしいけど、さすがに大竹しのぶだと肌の露出が少ない。情痴ドラマとして、理不尽に名美が犯され続けるシチュエーションが本筋になってるのに、ベッドに押し倒された時に乳首丸見えのワンカットだけじゃ不満(←エロ目線杉w)

石井監督はカメラのフレームを固定して、心に刺さるような感情を揺り動かす名演技で魅せる室井日出男、脂が乗り切って熟女のエロスムンムンの大竹しのぶ、若さと勢いのままにスクリーン一杯に暴れまくる永瀬正敏、ほぼこの3人だけに登場人物を固定して、2時間弱の物語を勢いで乗り切ってるように思える。

フレームを固定して長回し、というと、溝口健二が思い出されるが、その演出技法は全く違う。溝口演出は、次々と演者がフレームの中に入って来て、持ち場をこなしてバトンタッチしていく、舞台演劇を映写化したような感じだが、石井隆は演者たった一人、多くて二人、場合によってはフレームに人物を入れずに演出する。

これ、劇場で観てると、モワーンとして眠気に誘うこと、必死な演出ではあります。決して眠り込んでしまう訳ではなく(←当たり前だw)観客に悪夢、あるいは淫らな夢を見させてるんですよね。シチュエーションとして雨が降っていることも、安川午朗の美しい劇伴や印象的な、ちあきなおみ「黄昏のビギン」が紡ぎ出す抒情的な情景。

物語に関しては、土屋名美ラブ!、いや、大竹しのぶラブ!で、室田おじさんと永瀬にいちゃんが彼女の取り合いをする、正確には夫の室田はしのぶのことが大好きで、永瀬は人妻のしのぶを何とかして奪い取りたい、それだけ、ただそれだけの話、それが考えられないようなバッドエンドに終わることで、私の人生観としてはどうにも受け入れられない話ではある。

物語を横に置けば、画は抜群に美しく、石井監督自身が「ここまで描けた」とパーフェクトな手ごたえに酔ったのではないかと思われるほどに、鳥肌がたつほど素晴らしい。断片的なエピソードの全ては画をパーフェクトに美しく官能的に劇的に感傷的に、全ての言葉が同時に当てはまるようなビシッと決まった画のためにある。

これは不倫の物語だから、画がビシッと決まるのは、全て不倫しているシチュエーションである。山梨で生まれ育った永瀬が故郷に仕事を探そうと流れつき、偶々入った不動産屋で、取り敢えず住むところから、と思っていたのに、奥で事務する人妻のしのぶの余りの妖艶さに惹かれ「ここで働かせてください」

しのぶの夫、不動産屋の社長室田はどこまでも好人物で、職場にホステスを連れ込んでパンティを覗いたりするスケベではあるが、歳が娘ほど離れた妻のしのぶのことを本気で愛し、大事にしていた。でも、しのぶに裏切られ、絶望の中で死ぬ。しのぶは室田を裏切りたくて裏切った訳じゃない。雨のせいだ。

しのぶはある雨の日、モデルルームのロッキンチェアで客を待っている間にウトウトして居眠りしてしまう。そこに永瀬が現れて、しのぶをベッドに押し倒し、強姦するように関係を持ってしまう。その瞬間、しのぶの乳首がはっきりと映し出され、ここからどんだけしのぶのエロ痴態が楽しめるのだろうか、ワクワクと期待すると肩透かし喰います(笑)

モデルルームだからサラの真っ白なシーツが、濃厚なFUCKで汗か愛液か?ぐっしょりと濡れて、その場に偶々やって来た(←タイミング良すぎw)室田は、隠れて難を逃れたしのぶの姿は視認せず、ハダカの永瀬だけを発見し「お前、若いのはいいけど、仕事中はいい加減にしとけよ」息子のように暖かい眼差しで永瀬を見る室田は、まだその時点では彼を疑っていなかった。

室田の不動産屋の社員旅行で、温泉で大宴会が始まる。永瀬はどんちゃん騒ぎに馴染めず、露天風呂に入った。急に室田社長が飛び込んできて「おい、しのぶはどこだ!」(←またしてもタイミング良すぎw)酔いに任せて一発やろうとゲスな室田は、露天風呂の片隅でセクシーな上半身を露にしたしのぶを見つけた。室田は永瀬に「お前、何いっしょに入ってるんだ」激高した。

永瀬は「俺が風呂に入っていて何が悪いんだよう!」と逆ギレ、室田と掴み合いの喧嘩になる。永瀬の白いケツが映し出されるのは、まあ私はあまり興奮しなかったかな(爆)室田と永瀬の取っ組み合いを背景に、じっと露天風呂でひっそりと佇む、悲しい秘湯のウサギちゃんしのぶの姿が、愛らしくて抱きしめたくなる(*'ω'*)

しのぶは布地ビジネスに興味があって、室田社長の出資を得て店を持つ。天井から反物を下げて、その色合いを客に見てもらう個性的な店づくり。機械で風を送ると反物ははためいて、その色合いは一層鮮やかになるのであった。そこに、永瀬が現れる「奥さん、好きだ!」社員旅行の一件で、永瀬のしのぶに対する思慕の情に火が付いた。

反物がひらひらと送風ではためく中、室田が「しのぶ、店の調子はどうだい?」様子を見にやって来た(←またまたタイミングが良すぎw)最初は室田の目に入らなかった永瀬の姿が、反物が風ではためいた瞬間、目に入った。室田はしのぶと永瀬の浮気を確信した。その日は、永瀬はしのぶと会話しに来ただけだったのに、この一件で永瀬は不動産屋をクビになった。

上京して鉄工所で働いている永瀬に、しのぶが山梨から突然、上京してくる。永瀬は「お、おくさん( ゚Д゚)」びっくりした表情でしのぶを見た。あの日、終わったはずの恋なのに、ここでちあきなおみ「黄昏のビギン」が流れ始める。鉄工所の仕事を終えて、夕方の黄昏の中、鉄橋を渡り、貯木場に行く永瀬としのぶ。二人は近況を語り合い、そのまま屋形船に乗って飲食した。

永瀬はやっぱり、妖艶なしのぶの魅力が忘れられない。「次の雨の日、俺は旦那を殺す。なあに、ホテルに誘い込んで、俺が旦那を殺して、その後にしのぶと二人で強盗にあったことにすれば、バレることはないさ」(←かなりハードルの高い完全犯罪だと思うんですけどw)永瀬はしのぶと別れ、室田を撃つチャンスを待った。

しのぶが帰宅すると、「なあ、お前の誕生日だろ、上京してホテルのスイートルームでロマンチックな夜を過ごそうや」しのぶは「( ゚Д゚)は?あんた、何言ってんの?」最初は室田が馴染みのホステスと一晩過ごすから見逃してくれよう(^^;くらいにしか思ってなかった。でも室田ははっきりと言う「お前と一緒に過ごしたいんだ」

しのぶは思わず、室田に抱き着いた「あなた、私のこと愛してくれているのね」すっかり永瀬のことなんか忘れた。そして上京、一流ホテルのスイートルームにチェックインすると、室田は「先に風呂に入って来る」その間隙をついて、永瀬が部屋に入って来た。外は雨だった。永瀬はスパナを手に持っていて、しのぶは「やめて」と懇願する。

永瀬はシャワールームに忍び込んで、カーテン越しに室田のスキを狙った。でも、室田は喧嘩が強く、永瀬の方がのされて血まみれになった。これで永瀬のしのぶに対する猛烈な片恋も終わり?と思った瞬間、大地震が発生し、室田がよろけたスキを突いて、永瀬は室田にとどめを刺した。血だらけで床に倒れている、室田の死体。

でも、永瀬も室田に殴られた衝撃でフラフラのまま、室田の遺体の脇に横たわった。しのぶは「あなた、あなた」かがみこんで叫ぶ。シュミーズの胸元から乳首が見えそうで見えない。エロ的には最後まで蛇の生殺し状態(-_-)しのぶは自分を愛してくれた二人の男が、ザンザンとシャワーのお湯を浴びながら倒れている姿をはっきりと目に焼き付けた。

パトカーのサイレンが鳴り響く。室田を殺した永瀬は逮捕され、しのぶは私を心から愛してくれたことを目の前で実感したばかりの初老の夫と若い愛人を同時に失った。ベッドで寂しく天井を見つめる彼女の目は宙を彷徨い、焦点が付かない。彼女にとって、今がまさに世紀末であった・・・

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