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佐藤寿保「名前のない女たち」

新宿ケイズシネマで、佐藤寿保「名前のない女たち」 原作は中村淳彦。 脚本は西田直子。

母親(渡辺真起子)の虐待を受ける地味眼鏡っ子OL(安井紀絵)が渋谷でスカウトされAVデビューしてアニメオタク系アイドルになり、元ヤンキーのAV嬢(佐久間麻由)とガール・ミーツ・ガール。でも多幸感は圧倒的現実に潰され性春ってホロ苦い、戦う女同士の友情に心動かされるセミドキュメンタリーの力作。

本作の公開は2010年だからAV新法が出来るずっと前のお話で、スカウトマンに「違う自分になってみたいと思わない?」口車に乗って脱いでAV出ちゃった女の子がズブズブと抜けられなくなっていく蟻地獄のような世界は確かに実在してたんだと思う。で、要らなくなったら使い捨て。

寿保ワールドが終盤にぶち込まれるまでは紀絵と麻由の女同士の美しい友情におじさん何度も瞳がウルウルしちゃって、なんかスゲエいい映画観たなあ、とか思っちゃったの。でも不安な点は一つだけ、寿保ワールドの代名詞である血とエロと暴力が全然、出て来ないのよね。

だから錯覚しちゃったの。寿保監督って凄く引き出しが多い人で、エンタメ系のガーリーな青春映画もサクッと撮れる監督なんだなあ、と素直に感心したんだけど、その時の俺の感情、返してくださいよ(笑)この作品に関しては血と暴力とエロは果たして必要だったのか?

一粒で二度美味しいとも言える。起承転結の転までは原作に基づいた名も無い企画系AV嬢のエピソードを元に逆境を懸命に生きる二人の少女の想いが通じハッピーエンドを予感させ、結で一気に血と暴力とエロの寿保ワールドに堕とすので私としては二つの映画を同時に観た感じw

でもね、寿保ワールドがどんなものか分からない人にとっては、せっかく中盤まで性格から何から対照的な二人のAV嬢がお互いを分かり合い幸せを掴みかけた話をここまで卓袱台引っくり返さなくても良いのに・・・と思うのは当然のことだと思うし、読後感は余り良くないのよ。

ヒロインの地味眼鏡OLを演じる安井紀絵は、本作にオーディションで選ばれた新人で、なんかアブナイ感じが出ててイイ。セーラー服に青髪のカツラ被って魔法の杖を振りまわす脱げる魔女っ娘メグちゃんみたいな感じだけど(笑)ぽっちゃりしていて現実のAV嬢っぽくは無い。

紀絵ちゃんが素人っぽい演技で逆にAV嬢のリアルを映し出すのの対照的に、ガール・ミーツ・ガールする元ヤンキーAV嬢の佐久間麻由はレディースの総長張ってた売り文句も納得いくほどのド迫力キャラで、紀絵も麻由も名前のないAV嬢として世間を必死で抗って生きていく。

でもね、ダブルヒロインより更に魅力的なキャラがいるのが本作の特徴で、元人気AV女優から凌辱系に堕ちて自殺する木口亜矢の美貌は売れっ子じゃなきゃおかしいだろ!紀絵が勤めてる会社の要領の良い小悪魔OLの鎌田奈津美もイイ!でもこの二人、脱いでないんだよね。

紀絵は渋谷でスカウトマンに声を掛けられ「違う自分になってみない?」魔法の言葉で桜沢ルルという芸名をもらって、セーラー服に青髪のカツラに魔法の杖を装備して戦闘モードのアニメオタクアイドルになる。で、彼女に熱狂的なファンができるんだけど、スゲエデブでキモオタなのw

桜沢ルルの熱狂的ファンになって、ライバルAV嬢の顔を斬ったり、職場まで押しかけて身元ばらしたり、ホントにヤべえ奴を熱演する草野イ二のキモさと言ったら、男から見てもダメだろ、これ(笑)AVアイドルって二次元なのかな?バーチャルで恋愛成就しようという熱量w

ルルが凌辱ものAVの撮影時に、汁男優なのかな?ブリーフ履いて待ち構える男たちの中にキモオタ草野の顔を見つけた時点で戦慄(笑)そのままAV撮影現場の男優5人刺殺事件でスクリーンが真っ赤に染まるんだけど、血だるまになったキモオタ草野に感情移入できないのが難点なのかなw

暴力に関しては、元レディース総長の麻由はスカウトマンの新井浩文と同棲していてとんでもないダメンズなのよね、彼(笑)で、殴りたいけど金属バットで枕殴って我慢するんだけど、新井がヤクザの女に手を出して二人揃ってヤクザにボコボコにされる暴力シーンは残酷すぎ。

エロに関しても、AVの撮影現場とは言え上手く処理してそんなにえげつない場面は登場して来なかったんだけど、紀絵がプロダクション社長の鳥肌実にアナル解禁を宣言してたばかりに最後の最期で凌辱ものでアナルを犯され泣きわめく紀絵の現実はあまりにエロ悲しすぎる。

ということで(ということで、じゃねーよw)ヒューマニストの私としてはいくら寿保ワールド好きと言っても本作に関しては紀絵と麻由が仲違いを解消して本当の意味で分かり合ってユートピアに向かう瞬間、ここで映画を畳んでしまった方が良かったんじゃ?と思うよ。

ただね、オーラスは凄い。主題歌に戸川純「バージンブルース」で締めですからね(笑)♪ジンジンジンジン血がジンジン♪あなたもバージン わたしもバージン バージンブルース♪ AV女優に限らない。女って哀しいよね。生理があるし、血を流すし。男と違って女であることが面倒くさい。でも、考え方を変えれば女だから楽しめることだってある。

渋谷の街頭でスカウトマンの新井にAV嬢の仕事を紹介された紀絵。地味眼鏡っ子で母親(渡辺真起子)に虐待される彼女は芸名である桜沢ルルになり切ってアニメオタク系AVアイドルを演じることで、過酷すぎる現実から逃避を図るのよね。それを苦々しく見てるのが麻由。

最初はレイプされかかると逃げちゃって怒られた紀絵だったけど、ルルと自分を同一化することでアイドルの道が開け、やがて企画ものじゃなく単体でデビューの話まで転がり込んで来る。でもね、心の中に闇を抱える紀絵にとって理解してくれそうな人は麻由しかいなかった。

元ヤンの麻由をスタッフやAV嬢は怖がるんだけどルルになって天真爛漫な紀絵は懐に飛び込み、タメ口聞けるほど仲良くなる。でもね、麻由には頭痛の種があった。ヒモのように寄生する新井。彼は紀絵を言葉巧みにAVの世界に誘い込んだ捨て猫を拾わずにいられない男であった。

ルルが主演のAV撮影現場に、元売れっ子AV嬢の亜矢が来て待たされて脇役はイヤだとダダこねて最後は凌辱ものに堕ちて撮影中に飛び降り自殺しちゃうんだけど、AV嬢って消耗品。旬の期間は凄く短くてアッという間に賞味期限は切れてポイ捨て。ちやほやされるルルだって一緒。

ルルが事務所の意向で凌辱ものに出演させられそうになり元ヤンの麻由が「てめえ、AV女優ってモノじゃねえんだよ!」カッコよく啖呵切るけど当のルルは「凌辱ものだって望まれたら私は出る!」なんか明後日に前向きでさすがの麻由も呆れちゃうんだよね、一度は。

でもね、帰宅して母親の真起子が若いツバメ(河合龍之介)連れ込んでいて邪険にされ紀絵は麻由のマンションを訪ね胸に飛び込んでワーンと泣く。口喧嘩すると本気で殴りかかり、麻由も「パンチはこうやってするんだ」紀絵に教えて二人の仲は急接近してくんだよね。

でもね、ルルを巡る怪しい影。取材記者の中村淳彦がインタビューでハイテンションの紀絵に呆れ返り「フツーに話せないの?」に「AV嬢だからって舐めるんじゃないわよ!」彼女が単体ものに抜擢された理由、それはライバルが通り魔に顔を斬られたから。犯人は密かにインタビューを聞くキモデブ草野であった。

草野はAVの撮影現場に花束を差し入れ「会社なんて辞めてルルに専念してください」気持ち悪くて花束をゴミ箱に捨てたが、ついに草野は紀絵が勤める会社にまで押し寄せて来た。ここで発覚する、ルルがAV嬢だったという事実。会社を辞め、帰宅したルルには一大決心が。

紀絵の脳内に去来する、少女時代の屈辱。母親真起子の別れた父親がプレゼントしてくれたドレスを着飾って口紅を引いていると、鬼の形相の真起子がドレスを無理やり脱がせ、ハサミでズタズタに切り裂くとんでもないネグレクトに、紀絵は真起子に逆らうことを忘れた。

でも今、少女時代の屈辱を胸に愛人の河合とFUCK中の真起子のベッドに押しかけ「私はAV嬢の桜沢ルルです」宣言、あんたなんかサイテーよ!私はあんたのような女にはならない!私が初めて生理になった時、汚いもの見る目で見てたでしょ!気が付くと無我夢中で首を絞めていた。河合に止められるがそのまま家出。

職場も辞めた紀絵にとって、もうルルしかない!紀絵が麻由のマンションを訪れると前借した金を持って同棲相手の新井はとんずら。麻由はお腹に新井の子供がいるという。「ねえ、どこか誰も知らない遠い場所に行こうよ!」紀絵の提案に最初は渋っていた麻由「新井のことなんて忘れた」一緒に南国の島へ脱出の約束だ!

紀絵が缶ビールシャカシャカ、麻由に喜びのビールかけ。麻由もかけ返し、いつしか二人は全裸、ヘアヌード晒してビールかけしながらキャイキャイはしゃぎ合う。明日、船に乗って女二人仲良く、こんなクソみたいな東京を脱出だ!おニューのビキニで海水浴する紀絵と麻由。

南の島を夢見て( ゚Д゚)と目が覚めた二人。でも当日になって新井から麻由に電話。「ヤクザに追われてる」埠頭で待つ紀絵に「やっぱり行けない」荒井を囲むヤクザに漢気立ち向かい殴られ倒れお腹を蹴られ流産してしまう麻由。彼女にはやはり幸せは訪れることはなかった。

紀絵はゴムボートに乗って水路を下る。橋の上から眺めている麻由。紀絵はルルとして凌辱ものAVに出演を決めた。そして当日、お面を被ってレイプする男たちの背後の汁男優の中に、ルルに恋焦がれる狂気のキモオタデブ草野が鋭利なドライバーを手に待ち受けていた。

草野はルルを凌辱する男優5人をドライバーでめった刺し。何事もなかったかのようにそそくさと現場を離れる監督(笑)草野はルルに愛を語るが、「私は紀絵なの。ルルを演じているだけなの。っていうか、あなたは本当は誰なのよ?」核心を突く質問に言葉が詰んだキモデブ草野。

草野が逮捕されたニュースを新聞記事で読みながら常連客に電話してる淫蕩な真起子は何も変わっていない。紀絵はルルの格好をしたままゴムボートに再び乗るが、川の水は干上がって動かない。紀絵は猛ダッシュして海に出た。渋谷では新井が懲りずに奈津美をAV嬢にスカウトすべく口説いていた。

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