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伊丹十三「お葬式」

国立映画アーカイブで、伊丹十三「お葬式」

妻(宮本信子)の父親を亡くし急遽、お葬式をすることになった俳優(山崎努)が、告別式から火葬場まで死を見送る三日間のドタバタを、死者である妻の父親目線からシニカルかつユーモラスに描いた、でも観終わった後にほっこり優しい気持ちになれる感動で泣ける群像喜劇の大傑作。

私が20代の若い頃に観て以来、30年以上ぶりに観る「お葬式」は新たな大発見があった。これ、ヒキのカメラで第三者目線でお葬式のドタバタを撮ってる訳じゃない。死んだはずの信子の父親が魂はまだ残っていてじっと家族の有様を見つめてるんだよね。俺が亡き後、どう始末を付けるのかって。

30年経っても相変わらずどスケベな私にとって最も印象に残るのはやっぱり高瀬春奈(笑)お葬式手伝いに来たという割にラリってるようなメンヘラ喪服女は想像通りの山崎の愛人でw林の中に連れ込んでイチャイチャするシーンがエロい!喪服の女ってやっぱりそそるんだよなあ(*'▽')

春奈を一刻も早くお葬式から遠ざけたい山崎にとって、春奈とキスしてカッコよく送り出そうとしたもののダダこねて帰ってくれず、でも喪服の下にスカイブルーのどエロい下着履いてて思わず欲情して一発ヤッちゃう山崎の気持ち、男だったら誰でも分かるよ。お葬式ならではの醍醐味w

亡くなった信子の父親目線でこの作品を観ることになろうとは、もう私も齢をとったものだなトホホとも思いつつ、この目線で見ると死んだ俺のことを誰が一番悲しがってくれてるの?となるんだけど妻の菅井きんは喪主を淡々とこなしていてどこかクールw隣人の方が悲しんでくれてる。

山崎にとってこれは人生で初めてのお葬式の実行役だから、ということで色々手探りで準備を進めるんだけど、彼が一番気が重いのは告別式が終わった後の最後の挨拶。でもね、マニュアルとかどうでもいい、喪主の菅井きんが気丈に亡き夫への愛を語って、全部持っていっちゃいますからw

トボけた役の財津一郎、笠智衆、江戸屋猫八、大滝秀治。これだけ喜劇役者を投入すれば面白くない訳がないだろw財津は山崎&信子のマネジャーで葬儀実行委員長、笠は生臭坊主、猫八は怪しい葬儀屋、そして大滝はヒール役かと思えばそうでもない信子の亡き父の弟で成功した実業家。

伊丹十三が監督デビュー作にも関わらず自分でホン書いて葬儀にまつわるドタバタは自らの実体験で、ロケも自宅豪邸で敢行。要はホームで戦ってるんだよね。無理せず自分の手が届く範囲に絞って映画を撮ってる感じがヒシヒシと伝わる。肩ひじ張って背伸びや無理をしてないのがイイ。

隠し味として生と性を山崎と春奈の不倫関係で、生と死を亡くなった父親と同じ世代の老人とギャーギャー走り回ってる子供の対比で、夫婦愛を亡くなった夫に愛を語る母親を見てギュッと山崎の手を握りしめる信子で。あらゆる角度から撒いた伏線を順序よくキレイに回収していく匠の技。

映画の建付けとしては1日目に信子の父親が死ぬ。遺体を棺桶に入れて自宅に運び込む所まで。2日目が本作のボリュームの大半でお葬式の準備からお通夜までを群像喜劇のように描いておいて、3日目の告別式で全てが画に描いたようにサラーと流れ溶けだしていくカタルシスに酔う映画。

物凄く有名な映画だからいちいち物語を追いかけるようなことはせず、印象に残った場面だけど書き記したい。まず、信子の父親が倹約家だったくせにウナギとかアボガドとか贅沢な食事を買い込んでガツガツ食べてウっと病院に運ばれて亡くなる流れは誰にも迷惑かけない素敵な死に様。

父親が死んで信子と山崎はドラマ?の撮影中に訃報が入る。ここでカメラを回してる助監督の黒沢清(笑)駆け付けると信子の父親の遺体。まずは棺桶に入れないといけないんだけど、ここで大滝秀治が「三河ではそうせんぞ」ぶちぶち文句を言い始めて「お前は誰なんだよw」となる。

これ、偶然なんだけど、私の両親はどちらも三河の出身で、菅井きんが喋ってるの全然、三河弁じゃないよ!というのは凄く気になるところなのだが、三河地方の葬式ってどうだったかなあ。棺桶に入れるの、遺体を家に運んだ後だと思うんだけど、いや、三河じゃなくたってそうじゃんw

お葬式を信子の両親が暮らしていた別荘で執り行うことになり、ワッセワッセと棺桶を運ぶ姿にワロタwで、逆さ向きだとか北枕じゃないとかうるせーの、大滝(笑)やっと落ち着いて、マネージャーの財津を葬儀委員長に立てるんだけど、病院の医療費が安いとケタケタ笑ってやんのw

初めてのお葬式に戸惑う山崎&信子の目の前に、黒いセールスマンのような猫八が葬儀屋で現れてワロタwで、弔問客とのやり取りをビデオで学習する山崎も信子もさすが俳優・・・っておい、そんなビデオあるんかよ!2日目に入ってお葬式の準備が本格的に始まる中で招かれざる客がw

春奈だ!山崎の愛人、春奈が来たぞ!お葬式の手伝いと言いつつ自棄酒飲んでクダ巻く春奈の本心や如何に!山崎は春奈に「帰ってくれ」車に乗せようとするが喪服とエロ下着に劣情を抑えきれず一発ヤルお前は何やってんだよ。丸太のブランコで待つ信子は恐らく愛人だと気づいてた。

オトボケ住職の笠智衆がお経を上げた後、別荘のテーブルに凄くカッコいいフランス製の壁材が使われてるの見て、葬儀屋を手先に使ってちゃっかり余材を分けてもらう生臭坊主ぶりにワロタwで春奈も無事に帰り、夜の部には三河から親戚とか近所の人とか変人奇人が大挙押しかけて来る。

死んだ信子の父親の弟である大滝。実業家でお葬式に花輪とか香典とか目一杯つぎ込んでるのよね。いいとこあるじゃん!でも本業が金融屋で副業で不動産屋とか観光業とか怪しげな仕事で財産が何十億円もあるっている、俗物にまみれたような怪人で、清廉潔癖な信子の父親とは良い対比w

尾藤イサオと岸辺一徳の大滝バカ息子コンビとか愉快なゲートボール仲間のご近所さんとか宴会はたけなわで(おいおいw)ようやく帰ってもらえそうなところに自慢の日本酒を持って参上する空気が読めない山崎(笑)なんとかその場をお開きにした後、本当のお通夜が始まるんだよね。

信子のいとこなのかな?青年がきんに向かって「大滝のオヤジは犬猿の仲だったよな。だから三河に寄り付かなくなったもん」慰め、大好きだった島倉千代子の「東京だよおっかさん」を信子と踊る。それを見つめるきんの目に、夫が死んで初めて穏やかな笑顔が浮かんだのだと思った。

昼のドタバタお葬式から夜のガヤガヤお通夜まで、嵐のように駆け抜けて3日目。告別式の日がやって来て、棺桶に釘を打ち霊柩車に遺体を乗せ、弔問客の香典を置いたテーブルが、これは信子の亡き父の魂が降臨したんだろう、ビュービュー風が吹いてお札がええじゃないか状態のプチ祭り。

大滝の心にもないうわべの喪主に変わってご挨拶の後、親族のみで火葬場に向かい、ここでまさかの小林薫が登場だ!火葬人の役で(笑)彼はイイ人で遺体を焼くボイラーの中を家族に見せてくれる。しかも、ガスに点火する瞬間の恐ろしさとか火葬人あるあるで家族を和ませてくれたw

小林いわく、点火する時怖いのは、その瞬間、遺体が蘇るのではないかと思い、夢にまで出て来る。元気な人ほど良く燃えるから、赤ちゃんの時など骨まで燃えて何も残らなくなるから弱火でじっくり焼くとか、こええwでもね、きんを除く全員が怖い物見たさにボイラー前大集合だw

さて、火葬が終わり、親族15人が大集合して猫八特製のお弁当で会食。山崎が怖れていた喪主代理のスピーチのまさにその時、きんが「私が喋る」そして、亡き夫を看取れなかった後悔とか、腹の底から絞り出す愛情こもったスピーチに山崎は「これは練習するもんじゃない」悟ったはず。

これまで肝っ玉母さんのようにお葬式を裏で仕切っていた信子。きんの最後のスピーチに感じるところがあったのだろう。帰って行く親族たちを見送りながら横に立つ山崎の手をギュッと握りしめた。握り返す山崎。私たちは生きている。夫婦仲良く、この時間を大切にしなければならない。

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