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城定秀夫「恋のいばら」

Kinocinemaみなとみらいで、城定秀夫「恋のいばら」 脚本は澤井香織との共同。

カメラマンの元カレ(渡邊圭祐)によるリベンジポルノを阻止すべく、ダンサー志望の今カノ(玉城ティナ)に接近する図書館司書の元カノ(松本穂香)の真意は、愛読する童話「眠り姫」の親愛なるヒロインをいばらの城から解放してあげることであった。丹念に種を撒き回収する、恋愛サスペンス映画の佳品。

これネタバレは絶対にアカンでしょ!観客の誰もが「フンフン、こういうストーリー展開なのよね」と納得し始めた頃にアッと驚く真相をぶっ込んで、しかも二の矢、三の矢をビュンビュン飛ばす。それでも頑強に物語世界が崩れないのは序盤から丹念に種を撒き続けたことによる成果。

モチーフは色々と無数にあるけど、最大は童話「眠り姫」(=眠れる森の美女)城の中で眠ったままの美しい王女がいると聞いた他国の王子が城を囲むいばらをものともせず勇敢に城に近づき、呪いが解けて王女と王子が結ばれるというラブストーリーなんだけど、別段意識しなくても大丈夫だと思うね。

メジャーに進出した後の城定作品の中で、これまでになくVシネテイストの香りが漂っていて、懐かしい手触りがある。城定監督がVシネで一番キレキレだった2010年頃の作品って、一体どんだけ種蒔きしたんだろう、数えきれないよ、って位にせっせと種蒔きをしたことを思い出す。

ボツボツ皆さんの感想でも出始めてるけど、恋人同士で観ても全然問題ありません(笑)でもそれって最後まで観たから言える訳で、「恋人同士では観ないでください」ってキャッチコピー自体が秀逸な種蒔きの一つなんだよね。当然、「サスペリア」を意識してるんだなって思ったw

映画の舞台として、私が今日鑑賞したKinocinemaみなとみらいと並ぶ現時点で観やすい映画館ツートップの一つ、渋谷シネクイントが使われている。合い鍵を受け渡すための緊張感溢れる現場。観ているゾンビ映画の来場者プレゼントのビーフジャーキー(笑)この場面はホントにワロタw

ダブルヒロインの一人、松本穂香は最初から最後までほぼ眼鏡っ子の冴えない女子で通す。城定さんの大好物じゃん、こういう萌えっ娘キャラが登場して城定作品が面白くない訳がないw図書館司書で本を借りたイケメンに誘われて恋に落ちた・・・なんてシンプルな話では当然、無いw

ダブルヒロインのもう一人、玉城ティナはショートカットで目がクリクリっとしたいつも不機嫌な表情の女の子。ポールダンスやってるような怪しげなバーでバイトするダンサー志望の24歳で穂香を同い年。この「24歳」という微妙なお年頃の設定が、男女関係にしみじみと効いて来る。

城定さんの本作で壮大な種蒔きの一つが白川和子の存在で、穂香とティナと三角関係になりカメラマン渡邊圭祐の母親役。なんだけどwもうボケてて昼間は路上でガラクタを拾い集めて夜は必ず10時に寝る。最初は穂香とティナが渡邊宅に忍び込むハードルなんだけど実はそうじゃない。

白川和子が自室でせっせとガラクタ集めて作り上げたのがシンデレラ城のような乙女の夢いっぱい詰まったステキなオブジェで穂香もティナもうっとりするんだけど、この時点でまだ種撒きなんだよね。本来なら蒔いた種回収の終盤に入ってもまだ種撒いてるホントに丁寧な仕事に感心。

中島歩の存在感が相変わらず素晴らしい。イケてない青春送ってる穂香が学生時代に初めて付き合った男が大学講師の中島なんだけど、誕生パーティのケーキを会計時にウェイターに「このケーキはタダだろ?」確認するデリカシーの無さに、ホント、この人のクズ男演技は天下一品w

三角関係って言ってもイケメンのカメラマン渡邊はあまりフィーチャーされない。途中で「何で穂香とティナの二人きりの物語進行なの?」って疑問が湧いて来るんだけど、ジワリと種明かしに向かってるんだよね。渡邊が下着カメラマンでリベンジポルノを疑われるような職業なのもw

冒頭、司書のくせに図書館で童話「眠り姫」に見入って音読まで始めてしまう根暗眼鏡っ子の穂香たん、テラあぶなすw一方のティナ、バイト先のVIPルームで彼氏のカメラマン渡邊にサプライズ演出で誕生日を祝われる、どこから見ても最強のwリア充女子。そんな両極端な二人がどうして知り合った?

ティナがルンルン気分でバスに乗ってたらいきなり隣に座って来た女子が「ティナさんですよね?」声かけて来て、実はカレの付き合ってた元カノと名乗られて、リベンジポルノの可能性があるから合鍵を使って部屋に侵入して証拠の写真を消したいの!とまくしたてられたらドーデス!怪しさマックスじゃんw

最初は「何言ってんの?この女」怪しい穂香のことなど相手にしないティナであったが、心優しい渡邊が撮影中に下着モデル(北向珠夕)にクライアント(吉岡睦雄)が「肩ひも外せ!」無理強いを助け仲良くなることで不穏な感じに(笑)結局はティナは穂香に協力するつもりになり、今でも穂香が持ってるという合鍵で渡邊宅に侵入しようとするが鍵は変わっていたw

渡邊宅は彼と祖母白川和子の二人暮らし。合い鍵を新たに作るぞ!シネクイントで渡邊とデートしたティナはゾンビ映画を観てる最中に渡邊のキーホルダーを床に落として穂香が回収。受付で「ゾンビの気分になって食べてください」渡されたビーフジャーキーもそこそこに、合い鍵屋にダッシュ!この時の心ときめく穂香の左から右へ全力疾走のドライブ感が素晴らしい!

渡邊に気づかれぬように鍵を猛ダッシュでシネクイントに返しに行き、首尾よく受付に届けた直後にティナが渡邊を連れて受け取り。でも慌ててその場を立ち去ろうとする穂香は段取り最悪でw二人とエレベーターで乗り合わせてしまい、ここで渡邊の本心を知る「俺、フッちゃった女の子がいてさあ、彼女ってなんで自分がフラれるのか、その理由に自分自身、全然気づいてないんだよね」

傷心の穂香にティナが優しく声かける。私たちの、渡邊に出会う前からしてイケてなかった恋愛。穂香はナルシスト大学講師(中島歩)に幻滅し、ティナはデブのメルヘン既婚者(吉田ウーロン太)に幻滅した。齢も同じ24歳と知って急速に距離が近くなる二人。

ティナは母親(片岡礼子)が再婚し、連れ子の弟の気乗りしない誕生会に穂香に同伴してもらう。プレゼントも一緒におもちゃ屋で選んだ。ダンサーになりたいティナの夢は風前の灯。見かけだけ仲良し四人家族を装うティナたちが、今度は穂香の方が可哀想になった。

で、落ち込むことばかりじゃないよ!気を取り直して、ジャーン!出来ました合鍵!ところが鍵を開けようとすると中から白川和子がチェーン掛けてたwww仕方が無いので、渡邊が不在の夜を狙って穂香が「ニャーオ」猫の鳴きまねして和子をおびき出してそのスキに2階の渡邊の部屋に侵入。

彼が撮り溜めた下着モデルの写真はリベンジポルノでもなんでもないのだが(笑)穂香とティナは「一体何人の女と浮気してんのよ!」部屋に置いてある写真集「WOMAN’s SADNESS」穂香はティナを唇を奪った。( ゚Д゚)え、そういうことだったの!驚くティナに穂香は打ち明ける「リベンジポルノとか最初からどうでも良かったの」「そもそも私、彼と付き合ってないし」

ここに、予定外に渡邊が忘れ物を取りに帰宅。勢いでごまかそうと決意したティナはセクシー下着姿になると「サプライズよ!」渡邊に抱き着き、そして抱かれた。それは彼女にとってあまりにも酷い仕打ちであった。クローゼットに隠れ、涙を流す穂香。未開封のビーフジャーキーを取り出すとリアルゾンビになったつもりでパクついた。

職場に戻る渡邊を見送り、穂香とティナは再び身の上を話し始める。穂香が図書館司書として客の渡邊と仲良くなったのは確かだった。でも勝手に合い鍵を作ったことでドン引きされ破局を迎えた。「俺たち、付き合ってたっけ?」渡邊曰く「俺はお前に付き合いたい、なんて言ってない」

でも、ティナは「私、あなたにもっと前から会ったことあるよ」ティナは渡邊の部屋で床にかがんで隠れ、合鍵を作った勢いで渡邊に抱き着きそのまま抱かれる穂香を見ていた。穂香とティナは和子がガラクタで作り上げたいばらの城を見せてもらう。そのてっぺん、見渡しの良い展望台は渡邊がティナに贈ったアクセサリーで出来ていた。

穂香とティナは劇伴chilldspot「ネオンを消して」の流れる中で、渡邊の布団をズタズタに切り裂き、天使の羽根のように天井からひらひらと散らした。帰宅した渡邊は、メチャメチャに壊された部屋と「ばいばい」と書かれた渡邊のびっくりヘタレ顔写真を見てティナに電話「一体、何のつもりなんだ!」

でもティナは「何のこと?私、あなたと付き合ったつもりなんてなかったよ」渡邊は仕事に熱中し、以前に助けた珠夕が米国の富豪とセレブ婚したことすら知らなかった。穂香は図書館で児童に童話「眠り姫」を読み聞かせしている。

深い眠りに落ちた王女を見てみたいと鉄条網のようないばらの城へ侵入を試みる王子。呪いが解けていばらが無くなり、王子は城に入って結ばれました。穂香の記憶に蘇るあの日の出来事。ティナがゴミ捨て場に置いた写真集「WOMAN’s SADNESS」の中に栞のように挿してあった、ティナのぐっすりと眠り込んだ寝顔・・・

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