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青山真治「チンピラ」

国立映画アーカイブで、青山真治「チンピラ」 脚本は金子正次。

ヤクザになりたい鑑別所出の若いチンピラ(大沢たかお)と、ヤクザになれないチンピラのまま35歳の半端者(ダンカン)が運命の出会い意気投合。二人の友情はダンカンが組長(石橋凌)の女(青山知可子)とデキて裏金持って逃げて一大事!大沢の心象風景を海や砂浜で描写がサイコーにカッコいいネオ任侠映画。

無鉄砲で怖いもの知らずの大沢たかおがチャリで疾走するBGMには鮎川誠のギンギンのギターサウンドが鳴り響き、中年になってもヤクザにもカタギにもなれないダンカンには哀愁が漂う。そんな二人が砂浜に捨て置かれたセスナ機の操縦席を奪い合う子供心溢れる喧嘩に号泣しかない。

今日は、国立映画アーカイブでディレカン特集番外編、青山真治「チンピラ」「シェイディー・グローヴ」の二本をフィルム上映で鑑賞。方や任侠アクション、方や恋愛ドラマで青山真治監督の本来のフィールドと軽く違和感を感じるも、だからこそ感じる個性。その部分を感想に書き留めたい。

青山真治の作風ってシネフィル御用達だとは思う。本来は娯楽の王道である映画、その中でもプログラムピクチャのような作品群の中で、凝った演出とか撮影とか劇伴、長回しや場面の瞬間移動など、ハッと驚かせるようなテクを駆使して、こっちに気を取られがちだけど、彼の良さって恐らくそこじゃない。

1996年の作品だが、それより遡ること12年、1984年に公開された川島透「チ・ン・ピ・ラ」の再映画化。金子正次が脚本で川島透が撮った傑作「竜二」は観たことがあるが「チ・ン・ピ・ラ」の方は私は未見で、それがいい方に出るか悪い方に出るか?比較をしない感想になる。

90年代の日本を覆い尽くした閉塞感を、具体的に表現できているのは圧倒的にピンク映画、なかでもピンク四天王の存在はやっぱり別格だと思うのだけど、青山真治の作風はピンク映画に通じるものがある。ピンク映画のヘビーユーザーである私にとって青山真治は発見ではない。日常の鑑賞の延長線上である。

ところで(笑)ダンカン、この野郎、バカヤロー!大沢は気心が通じ合ったチンピラ仲間のダンカンが、まさか組の裏金を持ち逃げするなんて考えてもみなかった。だって大沢はヤクザに憧れていて、面倒を見てくれた組長の石橋凌のことを裏切ることなんて出来なかった。ヤクザになれない半端者ダンカンとの違い。

本作における演出の白眉は死の匂い。ヒキで情景を美しく撮り上げ、その中で登場人物は目一杯ヒキで殺し合いをしているのにどこか長閑としたこの世のものでないようなのんびりした雰囲気。北野武作品を観たことがある人なら「あ、キタノブルーだ」思うに違いないが似て非なるもの。

キタノブルーは一旦、暴力を全肯定した上で、そこに人生の哀しみを積み上げている気がするが、本作は暴力を端から否定している、任侠映画にあるまじき、暴力を以てしても所詮何も解決しないのだという無常観を色濃く漂わせてる。ダンカンが出てるからキタノブルーと錯誤する。

とは言え(とは言え、じゃねーよw)ダンカンと大沢の男色めいたただならぬ男同士の友情に関してはやっぱりキタノブルーだね(結局はどっちなんだよw)青山監督がキタノブルーを意識して撮ったのか?そもそもダンカンをキャスティングした時点でそういう色気があったのか?

大沢は、福岡の鑑別所上がりで、歌舞伎町に出て来て職を探すが前科者のあぶれ者。公園で求人情報誌を眺めていると「よう職探しか?」ど派手なスーツ着たダンカンが近寄って来て「俺、クラブ系(^^)/」にこやかにクラブの黒服としてスカウトするのだが、バカにされたって思うんだよね。

大沢は四国愛媛は津和地島の出身の田舎者。これ、金子正次の経歴にピタッとヨセてます。組長の石橋凌は「お前どこ産だ?」大沢は「愛媛産です(^^)/」とか愛嬌見せればいい物をぶっきらぼうに「四国です」それで石橋もムキになって「バチカン市国か」と大沢をバカにしてしまう。

大沢の無軌道ぶりは最初からキレッキレなんだけど、タイトルインに関しては彼が海を眺めて体育座りしてる画を思いっきりヒキで写したかと思うと、今度は上空から俯瞰して「こ、この映画、ただもんじゃねえ」とガツンと観客に喰わらせ、ここからしばらくはフツーの任侠ドラマ。

大沢がクラブでヤクやってた不良客をシメて、店長の寺島進がこれにブチ切れて、でも組長の石橋はこの不良客の耳に割りばし突っ込む凄惨なリンチ。店員の大沢と店長の寺島のにらみ合いは、本作のメインプロット。石橋-ダンカン-大沢縦のラインに、寺島とその配下が反目する。

寺島と痴話喧嘩してボコられてる片岡礼子を大沢が助ける直前に風見鶏。大沢は寺島に腹部をナイフで刺され、看病した礼子とそのままイイ仲になる。そして、石橋組長の情婦・青山知可子も最初からフェロモンムンムンで大沢&ダンカンにアピールしてるのだが、知可子が飛び郷具!

大沢は寺島店長とすれ違ってもガン無視で目を付けられ、大喧嘩の末に「辞めた!辞めた!」クラブを抜けようとするが、そもそもまだヤクザになっていないwそんな大沢&ダンカンに石橋組長は競馬のノミ屋をやらせるが勝手に大勝負してヘタ打って、石橋組長も二人には呆れたw

大沢は粗忽な乱暴者なのに、何かと石橋組長から目をかけられ、反目する寺島も放っておけず、ダンカンはまるで兄弟のようにともに歩もうとする。寺島の元情婦の礼子までなびいて来て、これは大沢たかおを全面的にフィーチャーしたアイドル映画ですか!な前半はあまり高揚感なしw

映画が転んで圧倒的に面白くなるのは、セクシー知可子が石橋組長のいないスキを狙ってダンカンを誘惑してしまうから(笑)手を握ってスカートの中に入れさせ、ダンカンが知可子の肉感的な太もも触った時には期待度マックスだけど、濡れ場はコネ━━━━━(゚∀゚)━━━━!!

知可子の妊娠が発覚。タネ無し石橋の情婦あったから結婚や子育てに憧れ魔が差した。でも二人は真剣、駆け落ちしてしまい、それ、石橋組長許しちゃうの?なんだか訳ワカメな状況の中、寺島が血相変えて大沢の部屋に乗り込んで来て「ダンカンはどこだ!」大変なことが起きている。

ダンカンは石橋組の裏金持って知可子とトンズラしたというのだ!風見鶏、礼子と逆の方向いた。大沢はダンカンの実家に銚子電鉄で向かうんだけど、運転士がタブレット交換とかしていて田舎のユルい雰囲気がステキ!大沢はボストンバッグを抱えたダンカンが知可子と連れ立って汽車を降りる瞬間を目撃した。

知可子はその場からあっさり逃げてしまい(笑)海岸に向かって逃げるダンカンと、いつぞや石橋組長から預かった拳銃を胸にしまい追いかける大沢。でも、石橋組長はパチンコ中に、クラブで耳をそいだ迷惑客の仕返しで殺されてしまっていた。大沢の仁義は既にこの時終わっていた。

房総の砂浜で、ダンカンの前で拳銃ぶっぱなした大沢は「ダンカンも撃ってみろよ」次の瞬間、大沢に向かって拳銃を構えたダンカンに( ゚Д゚)マジ?一瞬ドキッとする大沢であったが、二人は義兄弟。ダンカンは35歳だけど俺、ヤクザにもカタギにもなれんかったと、大沢に愚痴を言った。

砂浜に墜落したまま捨て置かれているセスナ機の操縦席に「俺だ!」取り合うダンカンと大沢。ダンカンは席に着くと「もうどうしようもないのかなあ」大沢は「ダンカンだけじゃダメだ。俺も一緒に指詰めて、この金と一緒に返しに行けばいいじゃん!」包丁を買いに街へと戻った。

大沢がいなくなったスキに、寺島が配下を連れて現れた。思いっきりヒキで、寺島軍団がダンカンのボストンバッグを奪い、そして射殺。遠くからこの世の出来事で無いように呆然と眺めていた大沢、ダンカンが殺されたショックで、砂浜をゴロンゴロンと転がって下に落ちて行った。

砂浜で絶望感にぐったりした大沢の足元に、寺島の配下がお礼の品を置いた。そして復讐心がメラメラと沸き上がった大沢。拳銃を手に持つと、事務所に向かい、修羅の表情で寺島軍団を一人、また一人、拳銃で撃ち殺していく彼の表情はまさにヤクザ。相撃ちになり、彼は死んだ。

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