昔寄稿したオススメの本×2(300字ずつ)

『スロータハウス5』カート・ヴォネガット

本を読むのが嫌な人はヴォネガットを読むといいと思います。ヴォネガットならたぶん読めるから。
「スローターハウス5」は彼の一番有名な作品ですが、注目して欲しいのはその大変に悲劇的で喜劇的な内容ではなく、その語り口、文体にあります。この無神論者のSF作家は1ページに必ず1つはギャグを入れます。戦争中、彼は捕虜として世界一美しい都市にいて、味方によって爆撃を受けました。15万人が死にました。都市は無くなりました。彼はそういうのをみんなギャグにしました。たくさんのギャグで、人がいっぱい死にます。笑えます。演劇学科の皆さんにいうなら、若き日の松尾スズキが、ひたすらに、ひたすら真似をした作家です。
(294文字)


『子供のための哲学対話』永井均
1.
哲学のことはよくわからないのですが、哲学と言えば、真顔で何を聞いても引かれないのではないか。そんな空間を作ってしまえる、作ってしまった哲学はエラいと思います。本当に持っている疑問を、聞いても引かれない空間を作って聞くこと、引かない人間になること。その辺は何ごとでもそうですよね。

2.
この本は新しい遊びを教えてくれます。遊びの名前は哲学です。知識ってうざいけど、うざいのは知識じゃなくて多分語り口です。
この本には知識はほとんど出てこない。出てくるのは子供が寝る前、親に聞く質問レベルのやりとり。
Q.「人間はなんのために生きているの?」
A.「遊ぶため」
ペネトレという半目の(ドラえもんのパクリみたいな)猫の口を借りて、哲学者永井均はとことん情を廃して答えます。言い切ります。「友だちはいらない」「くじらは魚だ」ペネトレのたれ目もあいまって、人によっては反論したい心がムクムク湧いてくるでしょう。「でも結局は自分で考えるんだよ?」だから寝る前に読むといいですね。考えるふりしてよく寝られます。子供の頃みたいに。

3.
当たり前のことしか書いていない本です。
Q.「人間はなんのために生きているの?」
A.「遊ぶため」
Q.「いやなことをやるためにはどうすればいいの?」
A.「初めにまず、なぜそれをやらなきゃいけないかを考える。やるべき訳を自分に言い聞かせる。つぎに、やりとげようとするんじゃなくて、ただ、やり始めればいいと考える。で、始められるまで、力を抜いて、だらだらしながら待ち、なんだか出来そうだなって気分になったとき、ふと、やる。」
こんなのが哲学なら余裕じゃない? でも、質問自体はすごく大きくない? 上に書いた一例は、理にかなっていてなかなか気に入っているけど、異論があれば自分で改造しましょう。文庫が出てます。
421円。
(296文字)

※句読点など自由に直していただいて構いません。


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