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シン・九州 転 四~とある次元の物語~

転 健軍へ
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5月28日(日) 8:13am 亡命難民保護施設

FMラジオ KIPDJサトミの番組が施設中に流れている。
「...なので、5番のお風呂は掃除が終わる10時までは使えません、ご注意くださぁーい。
では、続いてのコーナーは『亡命ガイドブックひとくちメモォー』
はい、じゃぁこの時間はUSKカードの カラスミ についてお話ししますネ。
ガイドブックの13ページです。モノやサービスなどが欲しい時に、ジャバンでは商店でお金を払って買っていましたよね。でも昨日お話しした建国理念

「自然の恵みも社会の恵みも全部みんなのもんたい」
「生くっとにお金は必要なかばい」
「成長はできるときにすればよか」
「みーんな正規の公務員たい」
「安心して暮らしてよかと」

にもあったように、ここ九州連邦にはお金がありません。
なので、買えないんです。
じゃあどうするかっていうと、カラスミっていう電子交換符を使って、欲しいモノと交換するんです。ムズイよね、もう少し詳しくお話ししますネ。
昨日お話ししたUSKカードには、年齢や役割などに応じて国民誰にでも毎月初めにカラスミが支給されます。
1カラスミを1K(ケー)って言いますが、わかりやすく言うと1Kジャバンの5000円ぐらいの価値があります。
その下にアゴっていう単位もあって、1カラスミ 100アゴ なんです。
「なぁーんだお金と一緒じゃないか」って思いますよネ、ところがカラスミって月の最後にゼロになっちゃうんです、いくら余ってても。
そう、カラスミは貯められないんです。
貧富がなく、平等に、恵みを分けあう ためにです。
いま、カラスミがどんだけあるかはUSKカードをスマホにかざすだけで直ぐにわかりますよ。USKカードを受け取ったらやってみてネ。
USKカードには他にも配給される食材なんかも入ってるんだけど、このお話はお昼のひとくちメモでお伝えしますね。
それじゃぁ情報コーナーはここまでにして、私の番組 ハートビートスマイルに戻りましょう。最初の曲は...」

東 京子
スッゴクわかりやすい!
あの馬ヅラがくれた小ッちゃい字のガイドブックよりサトミさんの説明の方が100倍アタマに入るワ。
なんかぁ、ガイドブックを読んでるとあのハゲちゃびんがチラついて進まないのよねぇ、ったく、どぉーして...
「整理番号4649をお持ちの方は受け取り窓口までお越しください。整理番号46...」 あっ、私だ

9:32am 受け取り窓口
ビクビクしながら武と丈と3人で受け取り窓口に腰掛け、担当の色白美人に名前と生年月日を伝えると
「こがん窮屈か場所に二日間も閉じ込めてしまって、ほんなごて申し訳なかです」と、深々と頭を下げた。
えっ? あの馬ヅラの塩対応とのギャップに、しばしその色白の美しい顔を、まばたきを忘れて見つめた。だよねぇ、だよねぇ、そぅだよねぇ
「どがんしたとですか?」に「あっ、いえ」を笑顔で返す。
「まず、こいが皆さんの帰化証明書USKカードです。大切に保管ばしてください」
これがUSKカードかぁ、綺麗な紫
「こいが携帯電話です。USKカードの中も見えますケン」と置かれたスマホにはKTTドコデンの文字。
そういえば私のスマホは圏外だったナ。コクコクッとうなづき受け取る。
スッと紙が2枚差し出され「まず借家は、ちょこっと遠ぉかバッテン、この築30年の一軒家ば用意しました。住所は熊本州熊本市東区健軍1丁目X-Yです」
一軒家っ!?「あの...お家賃は」に大きな目で驚いてから微笑み
「全部、タダですケン」「あっ」
「それと勤め先は、九州連邦国防省 陸軍熊本病院の経理ば用意しました。京子さんは母割やケン、一日3時間ぐらいの労役ですネ」
「母割?」に、優しい顔で
「ガイドブックにも書かれとっとバッテン、こん国ではお母さんは立派な仕事やケン、子供との時間ば優先して、空いた時間に仕事すっとを母割っち言うとです」
だよねぇ だよねぇ、教えてくれるよねぇ。聞いたかハゲちゃびん
「熊本にはどうやって行けば?」
「バスと電車がありますバッテン、電車がよかですかねぇ」
「あぁ、じゃぁ九州新幹線ですね」に、ちょっと目を伏せ微笑むと
九州鉄道 KRには各駅停車の電車しかなかとです。みんな平等やケン、ジャバンのようにお金で時間を買うようなことはできんとです。建前は」「ん?」美人が京子の耳元で小さく
「本音は、家庭や病院の電気ば優先しよっケン、電気の足りんと」
「なるほどぉ」
「バッテン、連邦政府はエネルギー自給率 100%ば目指して色んな研究ばしちょっケン、きっと良くなっタイ」と誇らしそうに微笑んだ。


5月29日(月) 朝6:03 丈
「しっかし重い、よくこんなの背負って歩いてたわよね、何が悲しくて...」とかなんとか言って、ママはデッかいリュックをしょってフラフラッと立ち上がって、まわりのみんなにアイサツをしてヨタヨタッと歩き出した。
お兄ちゃんもボクも、おっきなリュックをしょってママについてく。
隣のケンちゃんにバイバーイってして。
シセツの外はまっ青な空。キモチ良いぃ。
「はい、並んで」と3人並んでシセツを向くと、ママが「 お世話になりましたぁ」ボクもお兄ちゃんも「なりましたぁ」とオジギをして元気よくシュッパァーツ。なんか、たのしぃー

京子
亡命難民保護施設を出て、空中を真っ直ぐ駅へ伸びる小倉駅北ペデストリアンデッキを3人並んで歩く。両脇の動く歩道は...動いてない、省エネかぁ。
キョロキョロと大都会 小倉の街を眺めつつ、あっと言う間にKR小倉駅に着いた。
動いていない短いエスカレータを上がると、あちこちで銀河鉄道999のイラストやフィギュアがお出迎え。武が「わぁ~」と駆け出した先には、あの黄色い目玉の車掌さん、なんと等身大。
コンコースを小倉城口→へ進み、暗く封鎖された新幹線の改札口を過ぎて2階に上がると、広いコンコースに人はまばらでガランとしてる、月曜の朝なのにね。
大きな円形のKR九州線の入口を進み、自動改札を3人それぞれ自分のUSKカードでピッ ピッ ピッと通った。丈はなんだか得意顔。
でも、まだなんかお金が要らない違和感が、タダより怖いモノはない呪縛があるけど...まぁ良いかぁ。
4番線の7:01発 鹿児島本線 鳥栖行 全2両に3人笑顔で乗り込むと、
「おはようさん」と大きな声が飛んできた。
お爺さん?...胸に手書きでジロウの名札。ガラガラかと思った車両に、10人ほどのお爺さんが散らばってコッチを見てる。
丈が負けずに「おはようございまぁーす」と返すと、
「元気んヨカねぇ」と全員が笑顔を..同じ制服で同じ帽子の..お爺さんたちが..返した。"ん?"とキョロついていると
「わしらみんな車掌ですらい カッカッカッ」
10人も?車掌が?..なんで? と眉間に皺を寄せていると、
ジロウ爺さんが「まずはUSKカードばピッとせんね」と取り出したKTTドコデンのスマホに、3人自分のUSKカードをピッ ピッ ピッとした。
私の眉間を見ながらジロウ爺さんは「ワシら年寄りもこん国では正規の公務員タイ。みんなに安心して電車に乗ってもらいたかバッテン、なんか事件の起きた時は年寄りひとりではどがんもならんバイ。そいけん年寄りがこがんたくさんおると、10人もいれば何とかなっタイ」
なるほどぉ~ と眉間の皺が消えると
「カッカッカッ ホイじゃぁ出発タイ」と窓に出した手を大きく振ると、
ブゥゥゥゥ の発車ブザーで鳥栖行は走り始めた。
「ええぇーっ、手で合図ぅ?」


お兄ちゃんとボクが窓のそばで、ボクのとなりにママ、お兄ちゃんのとなりに3つのリュックとシセツでもらったお昼のお弁当。窓の風が気持ちいぃ。
「どこまで行かすと?」ニッコリとママの横に立ったジロウおじいちゃん。
ママは、シセツに着いてから熊本に行くことになるまでを話してる。
ウンウンとマジメにうなずくジロウちゃんに、下関のできごとまで話しちゃってる。
ママの話がやっと終わって、電車がスペースワールド駅を出ると、今度はジロウちゃんが窓の外をジッと見て話しだした。
「ちょっと前までここらへんには、たくさんの鉄ばこしらえる街んごた大ぉきか製鉄所のあったと。
バッテン、こん国は農業や林業や漁業ば残して、製鉄や造船ば捨てたと
生きるための産業を優先して、遠ぉか国から資源やエネルギー奪い続ける産業ばヤメたと。気候危機のために。お金のために。
ほうぼうで衝突や暴動のあったバッテン、鉄や船で生きてきたモンのほとんどは、こん国ば捨てたと」
ジロウちゃんの悲しそうな目が、ムズかしくてぜんぜんわかんない顔のボクを見ると、ニコッと変わり
「バッテン、今ここにはこん国イチ大きか木材製材所と、陸軍の核融合研究所ば作りよっけん、いずれこん国の柱んごた場所になるっちゃ。」
へぇ、なんかカッコいい

うわぁ、ヤハタ駅のホームには木が生えてる、なんか南の国っぽい。
オンガ川の橋をガオンガオンと渡って、真っ青な空の下、緑の坂道を大きく曲がりながらゆっくりと登ってく。
アカマ、コガ 大きな街を過ぎてカシイ駅に止まると、ジロウちゃんが
「こん香椎駅のあっちの線路は、前は西鉄っち私鉄の貝塚線やったとバッテン、今はKRに吸収されたと」
「あっちに行く線路は香椎線っち、昔 石炭ば運びよったバッテン、今は乗る人の少なくなったケン、人が集まらんとあがんして発車ば止めて次の出発時刻まで待っとっと。なんもかんもエコエコエコたい」
へぇ、エコって...ナニ?

タタラ川を渡るとドンドン都会になってく。
ヨシヅカ駅を過ぎると、たくさんの赤いバスがサビついて溜まってる。
「あん赤かバスはレッドライナーっち観光バスたい。今はこん国に観光客はおらんようになってしまったケン、あがんふうに捨てられとっと」
なんか…かわいそう
「次は博多ぁ、博多...」
…人はいないしゴミは多いし色々こわれてるし
「こん博多は商都やったと。何十万人もの人が商売ばしよった街タイ。九州一の大都会やったバッテン、商売がなくなった今は人がおらんようになって街の半分が廃墟タイ」
電車がハカタ駅に入ると、暗いホームがたくさんある。
ちょっと...コワい

次のタケシタ駅には電車がたくさん止まってる、特急とかSEVEN STARSとか書いてある電車は、全部サビついて...こわれてる。
カスガ駅を過ぎてミズキ駅に止まると
水城っちゃ、その昔 大陸から大宰府に攻めてきた敵を食い止めた壁のこつタイ」反対の窓を指さして「あっちには大宰府天満宮のあっと。あの菅原道真公のサ」
うーん、チンプンカンプン

フツカイチ駅を過ぎるとだんだん緑が多くなってきた。
山を越えると、9時36分 トス駅に到着ぅ。
「あそこに止まっとっとが『或る列車』っち、豪華なスイーツば食べらっる綺麗か観光列車だったバッテン、今はもう使われとらんタイ」
やっぱりサビついてて窓もこわれて...もうボロボロ
「そいギンこの鳥栖駅が終点やケン、反対のホームの電車に乗り換えんばね。じゃあここでお別れっちゃ」
えっ、もう?
うしろを見ると、ジロウちゃんと車掌さんたちがスタスタ歩いてく。
えぇぇぇ、そんなぁ

となりのホームの2両の電車にママとお兄ちゃんと大きなリュックで乗ると
「こんにちわぁ」と大きな声。
今度はサブロー...おじいちゃん...またまた10人のおじいちゃんがコッチを見てる。
よーし、「こんにちわぁー」と大声であいさつ
「元気んヨカねぇ」とまたまた全員が笑顔。
ママが「ひょっとして、全員車掌さんで、USKカードをピッですか?」
「察っしん良かねぇ」とサブちゃんは笑顔でKTTドコデンを見せた。
ママもお兄ちゃんもおんなじ顔であやしいぃって困ってる。
なんか...おもしろぉー
「ひょっとして、全部このシステムですか?」とママがUSKカードをピッとしながら言うと
「なんがね? 車掌たちんこつね? どこ行ってんタイガイこがん感じたい ワッハッハッ で、どこまで行かすと?」
ムムム、またか
あれ? ママが…話し出した えっ東京の話からぁ?
お兄ちゃんとボクはママをほっといてロングシートの大きな窓に並ぶ。
あれ?さっきのジロウちゃんたちがホームのアチコチで電話してる。
みんな誰と話してんだろう?

ママの長ぁい話をウンウンと聞いてたサブちゃんが
「時間タイ、10時31分発 鹿児島本線八代行 出発タイ」
ブゥゥゥゥ っと発車ブザーで走り出した。

トス駅を出るとすぐ、サブちゃんが
「横ば走っとぉ、あん高架は九州新幹線タイ。もう使われんようになって朽ち果てとぉとバッテン」
電車は田んぼや畑の緑の中を走ってく、窓は開かないけど気持ちいぃ~。
でも、チクゴ川を渡ってクルメ駅を出ると、まっすぐまっすぐ おんなじおんなじ 田舎のケシキを 見あきて おおアクビ トローン...ストン

「...こん荒尾駅が熊本州の最初の駅タイ」のサブちゃんの声で起きた
「よう寝よったね、長か旅で疲れたっちゃろ」ううん、ぜんぜん
走り出してすぐ、ちょっとだけ見えた、海みたい、サブちゃんをパッと見る
「いま一瞬見えたとが有明海タイ、大きか海バイ。そん向こうはこん国の首都長崎府タイ。あそこに見える山は有名な雲仙岳タイ」
へぇ、サブちゃんなんだがトクイ顔
「あれはジャバン・マリンユナイテッドっち大ぉきか造船所やったとこタイ。今はもうやっとらんバッテン」と悲しそう…いそがしいナ
ナガス駅に着くとデッカイ金魚の像、その上に 金魚すくい選手権!
いいなぁ楽しそう、とママをパッと見る
「うん、じゃぁちょっと早いけどお昼にしようか」
ううん、そうじゃない

シセツで仲良くなった食堂のおばちゃんに作ってもらったお弁当
おにぎりとタマゴ焼き おいしいぃぃ
みかんの絵がいっぱいのタマナ駅を過ぎると緑いっぱいの山を走る。
コノハ駅 うんコノハだらけだ 電車はゆっくりと登ってるみたい。
「次ん田原坂駅に向かって緩やかに登りよっと。田原坂はあん戦争でたくさんの血が流れた古戦場の跡やケン、九州新幹線の高架もアガンして緑が巻きついて、こん山に飲み込まれよっと」
ん? コワイ場所って…こと?
ポツンポツンと畑がある山の中を走って「そうじょうだいがくまえ」駅を過ぎるとだんだん街が大きくなる。あっ、いまお城が見えた
「あれがこん国一の城 熊本城タイ。さぁ着いたバイ、次が熊本駅タイ」
12時11分 熊本駅3番線着 3人そろって笑顔で「着いたぁ~」


転 五 「ここに大神を祀った健軍神社を作って西の大陸から守らんかい」 につづく

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