見出し画像

シン・九州 結 五~とある次元の物語~

結 前夜1

2024年1月24日(水) 20:53pm なんショッカー アジト
「二つの守護神だとぉぉ」
なんショッカー幹部 慈国 大志の報告に、モニターの中でジャバン首相 賀酢は身を乗り出した。
大志はうなづき「ひとつはジャッカル電撃隊、もうひとつはこん国の未来ば守っちょると」
賀酢はすぐさま「ジャッカルなんざぁどぉうでも良いってんだ、コンチクショウ。そうかい、未来を守ってるヤツがいんのかい、健軍基地にヨォ」
大志は「ツクシノシマに間違いなか」と凄んだ。
「まさかアンタの幼馴染が健軍基地にいるタァなぁ、こりゃツイてんなぁ。でぇ基地で何やってんだい、えぇ、その大栗ってぇのは? 下っ端かい?」「海軍から派遣されて、ドローン操縦の教官ばやりよっと」
「ほぉぉ、テェシタとこにいんじゃねぇか。んー、間違いなさそうだな、えぇおい、でかしたゼ」賀酢はニヤリと顎を突き出した。
大志は身を乗り出して「じゃあ、いつヤルと。来週ね?」
「まぁ待ちなよ。こういうのはな、潰し時ってのがあんだよ」
「潰し時?」
「あいつらが二度と立ち上がれなくなるタイミングってやつがよ」
「いつね、そいは?」
「スパイの情報じゃぁ、春頃に大統領選があるらしいからよ、大統領が決まる直前でその国の守護神を粉々にしてやろうじゃねぇか、えぇ」
「春..ね」と少し不満そうな大志。
「それまでによ、作戦を立ててくれ、健軍基地を改造人間たちで破壊し尽くす計画をヨォ」
「ン」と大志は目で答える。
「同時にヨォ、サイバー空間でも暴れてやろうゼェ。うちのサイバー軍にもKnetに種を蒔くように言っとくからヨォ」賀酢は続けて
「あっ、そうだそうだ。どうもよ、AIミチザネAIツクシノシマを創ったなぁ、九州大学工学部の趙研究室てぇとこらしい。
今のうちから九大に誰か潜り込ませとけ。
んでよ、健軍基地を叩くときぁよ、研究室もそのサイバー空間も同時に封鎖して潰しちまえ。
ホラいただろ、こっちとサイバー空間を行ったり来たりできるヤツがよ。
なんつったっけ、ほら、えーと あれだ ウェブ男
アイツならどっちも同時にヤレんだろ。任せたゼェ」
モニターの中で賀酢はニタァーと笑った。

2024年3月22日(金) 15:21pm 長崎府 西坂町KHK本店
アナウンス局 守下 恵梨奈が、5時から始まる「ゆうがた九州」の収録スタジオ前室で、ニュース原稿の読み合わせをしている。
「...つまり、現在、大統領選に立候補している1192人は、16歳以上九州連邦国民で、連邦選挙管理委員会が「この国の行き先」として公募した政見方針書『こがんとはドガンね』の合格者たちです。
皆さんも連邦ホームページで立候補者たちの政見を確認してください。
選挙はKnet上での電子選挙です。携帯電話KTTドコデンを持っている16歳以上に電子投票権があリます。大統領選の投票日は来月4月7日 日曜日です。皆さん忘れずに投票してください」
「選挙まであと残り2週間ほどですね」と報道局プロデューサー 室井 剛が恵梨奈にコーヒーを渡しながら声を掛ける。
恵梨奈は、ペコッと笑顔で「やっぱり皿うどんさんの強かごたですね」
室井「まぁ人気抜群だし、あの筑紫島へ時を戻そうってスローガンもウケてるみたいだしね」
「バッテン、なんか色々隠しとうみたいやケン、好かんタイ」…来た
「まぁまぁ、暫定でも大統領だからね」
「インタビューん時に感じた『こん国ば動かすAI』ば見つけて『こん国の闇の証拠タイ』っち突きつけてギャフンっち言わせたかバッテン、そがんAIはいっちょん見つからんタイ」…来た来た
室井は「ぉいぉい」と苦笑いしながら「考えすぎなんじゃ...」を
「いーやッ、おかしか」と遮って
「あがん小さか政府が、こがん上手に社会ば回せるはずんなか」
室井の「いやそれも言い過ぎ...」をピシャッと遮り
「いつでんどこでん、キメ細かく計画ば立てとぉナニモンかがおるとですよ、こん国には。人でんないナンかが」…もう黙っちゃう室井
「ナンがおるかわからんバッテン、こん国はまぁソコソコ上手くいっとっとやケン、真似する連中も出てくるかもしれんね」と別の取材から戻った局カメラマンの竹田 鉄雄が二人の話に入ってきた。
「あぁ、ドミノ理論ですか」と室井
「なんねそれ」と怪訝な恵梨奈に室井は
「ある国が共産化すると、その周りがドミノ倒しのように次々と共産化していくっていう理論だよ」恵梨奈は大きな瞳をさらに見開いて
「こん国は共産主義ね?」
「いや、まだその前の社会主義だよ。大国のような共産主義の段階じゃない」と首を振りながら室井が答える。
竹田が「大国っち言えば、水不足のヒドかねぇ。ぜんぜん治らんでドンドン広がっとおごたバイ。ほうぼうで争いの起きとっとって。ありゃみんな困っとおバイ」と話を変える。
室井「未だに原因がわからないようですね。内陸部では砂漠化が始まったとも聞いています。麦国も似たようなモンで、大陸の国々では深刻な問題になってますね。連邦政府にも国連を通じて水の支援要請が来てるようですが、なんか色々モタついてるみたいです」
恵梨奈「食べモンも水も、いっちょん困っとらんケン、実感なかねぇ。
よかとかねぇ、こがんノホホンっちしとって」
室井は「心配です。大国や麦国が支援要請にモタつくこの国を、指を咥えてただ黙って見ているでしょうか」と虚な瞳で呟いた。

2024年3月20日(水) 14:13pm 健軍小学校 1年2組
「はぁーい、ここまでが第一幕でぇーす。じゃあこのまま第二幕に入るよぉ。じゃぁ神武天皇の三田さんはここからお爺ちゃんなので髭をつけてねぇ。じゃぁ阿蘇大神の東さーん、三田さんの..神武天皇の前に来てぇ。東さんはまだこの時はタケイワタツノミコト(健磐龍命)だからね、間違えないでね。じゃぁ神武天皇から『九州を治めてこい』って命じられるとこからやってみようか。はい、スタートォ」

2月の終わりから2組みんなで毎日ケイコしてきた
新一年生歓迎のお芝居『健軍はじまりの日』
今日は本番のちゃんとした衣装で、ちゃんとお芝居にセリフをつけて、
最初から最後までやってみようって、通しでケイコしてるとこ
川中先生は、右手にメガホン、左手に台本で、あーだこーだ楽しそう
ボクはママが作ってくれた神様の衣装を着てドキドキしてる
ちょっとブカブカな袋みたいな服に、赤い帯にカタナをさして、
マガ玉のネックレスで、ヅラのロン毛を耳の横でダンゴに束ねて、
チョビひげとアゴひげ...ホントにこれで良いのかな

「はい、ここでクサカベの神たちの後ろからアソツヒメ(阿蘇都媛)の吉見さんが現れ..る..あら、吉見さん カワイイぃ じゃあぁ、健磐龍命の東さん 横に来てぇ 手をつないでぇ はい二人は結婚しましたぁ」
「ヒューヒュー」「チューたいチュー」「キャハハハ」
「静かにぃ ここから健磐龍命はアソツヒコ(阿蘇都彦)にアップデートしまぁーす。 はい、じゃあ阿蘇山のセットを出してねぇ」

大道具係がドタドタ ボクらの前に置かれた1メートルくらいのミニチュア ダンボールで作った高さ30cmほどの阿蘇山とカルデラ湖  エッ?
「小っちゃッ」みんなでツッコむ
クラス委員の阿蘇都媛が「先生ッ 阿蘇山は 1592メートルもあっとですよ。ウチらいったい..何メートルあると?」…ん 、ちょっと文句が入ってる?
「そうねぇ、ザッと6000メートルってとこかナ」 へっ?
「ハァァぁぁ」「デカすぎッ」「マジぃでぇぇ」

「はぁーい続けるよぉ、新婚の二人は新天地の阿蘇にやってきましたぁ。
まだこの頃カルデラの中は 介鳥湖 っていう大きな大ぉきな湖だったの。
その湖の真ん中に中岳や高岳がドーンと島になってて、ドンドコドンドコ噴火してたの。二人はぁ人間たちのためにぃ、ここを田んぼや畑に開拓しようって決めるの。それで、ココから水を抜かねばって、阿蘇都彦はカルデラの西の外輪山を『ウぉりゃァーぁ』と蹴飛ばしまぁーす。...ん?…ほら阿蘇都彦ッ 蹴飛ばして」
「あっ、ボクか」あたふたと山を蹴飛ばすフリをして「オリャア」
大道具係が糸を引くと、西の山が ペコッと倒れる
「ショぼッ」みんなでツッコむ
「すると吹き飛んだ山の間から、湖の水がゴウゴウと有明海へ流れ出し、
その濁流に足をすくわれた阿蘇都彦が尻餅をつきまぁす」
ボク「立てぬぅ 立てぬ 立てのぉ 立の 立野ぉ」 ハズ…うなだれる
川中先生は山の間を指差して「それからここは立野と呼ばれるようになりましたぁ」「ホントぉ?」「マジぃでぇぇ」
「そういう言い伝えなの。そして阿蘇都彦は立ち上がると阿蘇大神にアップデートしまぁーす。はぁい、二人の初めての共同作業で阿蘇は豊かな土地になりましたとサ。ここまでが第二幕でぇーす。じゃあちょっと休憩してから第三幕の健軍神社をやるねぇ」
阿蘇都プンプン媛が「先生ッ なんで阿蘇都媛はアップデートせんと?」
先生「ナンでだろねぇ、姫はずーっと姫だよねぇ」
媛「おかしかッ だいたい姫ヒメって..」ボクが割り込む 
「先生 6000メートルの巨大な神様が、健軍神社に子供で現れるの? どういうこと?」ずっとおかしいって思ってた 横でガン見するプンプン媛
川中先生はサラリと「いいのよッ、神様なんだから。大っきくなったり小っちゃくなったり、ナンでもありなのッ」なん..ですと...

2023年9月6日(水) 10:21am T棟 制御室 西 俊
「おはよう、遅れてゴメン ちょっと西都病院に寄ってきたケン」
松元 帆香が笑顔の白衣で入ってくる。
「お おはよう ご苦労様です」と声だけ返すと、帆香は首を傾げて
「さっきサ、一ツ瀬川ん横の道ば通ってきたとバッテン、おかしかと」「ん?」と帆香さんに顔を向けて返す。
「ウチが天神神社んあたりば自転車で通ったらサ、セミがさ 蝉バイッ 蝉が ワァーンっち突然鳴き出したと。もう9月バイ、どがんなっとっとかね」
僕「そ そういえば、昨日のお昼 食堂棟で が 学生たちも話してたよ、セ 蝉がまだ鳴いてるって」
「いつまで鳴きよっと、遅そ過ぎんね今年ん蝉は。異常気象…」
ビィーッビィーッビィーッビィーッ
制御室正面右のサブモニターが、日向灘の癒しの映像から監視サーバー画面に切り替わり、緊急交換要請の文字が点滅している。
帆香「また、Tサーバー室373ラックのCPUボードたい。おととい交換したばっかバイ」と不安そうに僕を振り返る
僕「ひょ ひょっとするとCPUボードじゃなくて、で 電源周りかも。
373サーバーをひと通り診てくるね。あ あとを頼むね」
と、CPUボードと工具箱を抱えて制御室をあとにした。

10:43am 帆香
突然、制御室の自動ドアが開いた。
入ってきた見知らぬ黒スーツを、ギョッと見つめる帆香と3人の職員。
入ってくるなり黒スーツは、IDカードを右手に掲げて低い声で
サイバー軍セキュリティ本部の有田だ。責任者は?」と、目で見渡す。
帆香は「副局長の松元です。どがんしたとですか、突然連絡もなしで」
と警戒を緩めない。有田は帆香に目を移し冷静に
「すっかり遅くなったが、定期訪問だ。すぐにTサーバー室へ...」
帆香は毅然と遮り「待ってください。ココに入ってこらるっとで軍関係者とはわかるバッテン、連絡もなしでそがん簡単にTサーバー室に入れらるっわけなかバイ。今、本部に確認するケン、ちょっと待っとって下さい」
いつもと違うピリつく帆香に、固まる3人の職員。
帆香が電話している間、有田は眉ひとつ動かさない。
帆香「..はい、わかりました」と電話を切り、有田にペコッとお辞儀をして
「確認の取れましたケン、ご案内します」

10:52am 西
CPUボードを交換してリブートしたあと、373ラックの様子を見てたら
「あれ?」
CPU冷却ファンが時々居眠りをするように止まり、そのうち…気絶した。「ん?」とファンの配線を追っていくと、サイリスタのカソード端子のハンダにクラックが入っていて、端子が微妙に浮いている。
「これかぁ」373を再度シャットダウンして、ハンダゴテをあてようとしたその時、Tサーバー室へ帆香さんが入って..ん?もう一人..誰だ?

帆香「こちらです」
有田「君はさっきの部屋に戻れ。私は切替えが終わり次第、本部へ戻る」
帆香「切替え?ナンのですか?」
有田「いや、いい 戻れ」

帆香さんが何か言いたげにお辞儀をして部屋から出ると、見知らぬ黒スーツは、サーバーが並ぶ迷路を勝手知ったる早足で進む
とっさに身を隠す僕
二つ先の通路を足早に進む黒スーツ
それを目で追う僕
黒スーツが向かう先には、あの秘密の部屋 エッ?
姿勢を低く跡をつける僕
田柴大佐からT棟のレクチャーを受けた6月に、あの秘密の部屋から漏れ響いたカエルの大合唱が蘇る
黒スーツがIDカードを翳して、秘密の部屋の重いドアを開ける

ミーーンミンミンミン ジーッジーッジーッ ツクツクオーシツクツクオーシ ジジジジジーッジジジジジーッ
チーーーッチーーッ ジリジリジリジリジリジリ ミーンミンミンミン カナカナカナカナ ジーッジーッジーッ

黒スーツが中に入り、ガシャンとドアが閉まるとブーンと空調の音が戻った

セミ..えっ?..何で..蝉?..カエルは?...どういうこと?

しばしサーバーの影から秘密の部屋のドアを呆然と見つめていると ガシャ

リーンリーンリーーン リリリリッ チリチリッチリチリッ ルルルルル
リーリーリリッ ピュリュリュリュリュ チッチッチチチチ チッチッチッチッチッ リーンリーンリーーン ピュリュリュリュリュ

へっ? ムシ? 今度は虫の..音..

黒スーツがガシャンをドアを閉める またブーンと空調の音が戻る
黒スーツは、IDカードを翳してカシャッと秘密の部屋にロックして、足早に迷路を戻り、Tサーバー室から消えた

混乱している いま目の前で起きたことの意味が…理解できない

帆香さんの「天神神社んあたり 蝉が突然鳴き出したと もう9月バイ」
そして、蝉から虫へ... ふーむ
黒スーツの「私は切替えが終わり次第」
この部屋につながる赤いコード
ツクシノシマと大統領の密談が流れる赤いコード... うーん

と、田柴大佐の声が頭に蘇る
「この国の司令塔を祀った巨大サーバーを、隠した」
「この国のすべての情報が流れ込む」
「計画を出力する機械」
「機能は巧妙に隠されてる」

そう T棟はKnetと、メールのやり取りしかしていないように見える

蝉..虫... ん!?
西はTサーバー室を飛び出した。

11:51am 一ツ瀬川 西岸
専門校の校門から駆け出し、コメリの横道から畦道を抜けて、天神神社を右手に農道から土手を一気に駆け上がった。
「ハァハァハァ..」ぐるっと静かな河原を見渡す。
土手を降りて、あたりを伺いながら雑草の中を川辺に向かうと

リリリリッ チリチリッチリチリッチリチリッ リーンリーンリーーン リーリーリリッ ピュリュリュリュリュ チッチッチチチチ ルルルルル チチチッ リーンリーーン チッチッチッチッ ピュリュリュリュリュ

背後から無数の虫の音。
ギョッと振り返り、音の源を探す。なんか…土手のキワの…あたりから

ピタッと虫の音が止む。すると、また背後から

ピュリュリュリリリリッ チリチリッ リーンリーンリーーン ルルル

と短めの虫の音が。ギョッギョッと振り返る。
対岸の森から、まるで虫が返事をするように鳴いた。

そして、またこっちの土手から長めの虫の音が鳴り響く。
そして、対岸の森から短めの返事。
何回か繰り返したあと、虫の音のキャッチボールは止まった。

恐る恐る土手のキワに近づき、音のしたあたりを探ると、防水型のスピーカとマイクが埋まっている
右側を目で追うと3メートル先にも何かそれらしいモノが
50メートルほど距離に20個ほどのスピーカとマイクが埋まっていた
なるほどね、対岸の森の中にもスピーカとマイクが埋まってんだろう

やっとわかった

T棟の計画情報やツクシノシマと大統領の密談は、季節ごとに変わるセミの鳴き声やムシの音なんかに変調して、一ツ瀬川を越えるんだ
たしか、対岸の春日神社にはKnet接続サーバーがあるから、対岸のマイクで拾った季節の音は、接続サーバーで計画情報や密談に復調されて、それを暗号化したIPパケットに乗せて、無数のデータが行き交う接続サーバーの中へ紛れ込ませるんだ

たしかに、T棟の機能は巧妙に隠されてる
よくもまぁこんな手の込んだ仕組みを 変態だな、作ったヤツは

でも変調する仕組みを解かれたら、簡単にT棟に入られるゾ
まぁ覗かれでもしない限り大丈夫だろうけど たぶん...


2024年3月13日(水) 19:03pm 健軍1丁目X-Y 東 武
「よぉーしッ できた」3つのオブジェクトのビルドが終わった
ひとつは、Knetを流れるIPパケットを、サイバー空間を駆ける電車に変換する、初めて作ったアプリ スリーナイン
二つ目は、Knetにつながるコンピュータを建物に変換して、サイバー空間を街並みのように見せる シティ
そして、昨日の夜できたばかりのアバター タケル
これでKnetサイバー空間を自由に飛び回れる..はず

目を瞑り大きく深呼吸して、起動
Mac:~ takeshi$ kumaso

九州大学 工学部 知能研究室 小森先生に初めて会った2月6日の夜から、ほぼ毎日、先生のオンライン教室にログインしてる
ボク以外にも20人ぐらいいて、画面の隅っこにハンドルネームが並んでる
先生のコウギは、絵や動画をバンバン使って、メッチャわかりやすい
大事なコトは、くり返し画面の隅で点滅していて、ドンドン頭に入ってくる
コンピュータやソフトウェアやKnetの知識や技術だけじゃない
麦国と大国とジャバンの本当の関係、社会主義と資本主義、民主と君主と独裁、軍事力とは、エネルギーの価値、正しい生き方と哲学、正義と悪などなど 日替わりで、でもちゃんと話は繋がっていて、世界がグングン広がっていく 新しい知識が次から次へ 楽ぉしいぃィ♫♪

教室のみんなとグループチャットもやってる 小学生ってバレてないはず
@ミナミ:> 明日からアバターの作り方だって やったぁ!
@ホノカ:> どがんしてKnetん中ば移動でくっとか聞きたかぁ
@ムロイ:> オレは早くAIの作り方を教えて欲しいんだけど
@タケシ:> AI? 小森先生が?
@ホノカ:> 知らんと? 小森助教授はAIミチザネの設計者タイ
...ほぇぇぇぇぇ

アプリ クマソ を起動して、アクセスポイントのサーバーにヒョーイした
シティ は、このアクセスポイントから見渡せる空間で、Knetに繋がっているコンピュータたちを建物に変換していく
見上げるほどの巨大な、丸ぁるい筒型のサイバー空間に、
パソコンがひとつなら一軒家、たくさんならマンション、サーバーならオフィスビルが、並んでいく
マンションやビルの高さは、コンピュータの数が多ければ高くなる

ヒョーイしたサーバーから見ると、健軍1丁目あたりのサイバー空間は、
はるか上空からグルっと一周、ビッシリと一軒家が並んでいて、ポツンポツンと低めのビルやマンションが頭を出してる

その巨大な筒の中を、電車たちが駆け抜ける
スリーナイン が通信パケットを変換した電車たちが
オレンジの埼京線E233系7000番は「連邦政府のエネルギー情報」
黄色の東武東上本線10005型は「州政府の食料情報」
青い有楽町線10000系は「病院の国民情報」
紫の湘南新宿ラインE231系は「一般のメール」
電車たちはこの街のパソコンにも出たり入ったりしてる

んふ、スッゲェーの作っちゃった ここから眺めてるだけでも楽しい

小森先生はKnet開発チームのひとりなんだって
開発チームは、Knetに繋がる全てのコンピュータの守護者の証 神IDを持っていて、コンピュータたちの本能には神IDに友好的にふるまえ、とプログラムされてるらしい
たとえば、神IDで どがんねコール を街中に流すと、コールを受け取ったコンピュータたちは「今はコレコレこがんタイ」って近況を返信してくるんだ こんなスゴい神IDを、先生は「使って良いよ」って教室のみんなに教えてくれた 信じてるって…ことだよね

そうそう、ヒョーイ(憑依)っていうのは、教室のみんなが使ってる言葉で、お化けのことじゃないよ コンピュータたちの能力を借りることなんだ
神IDとコードの通信パケットをヒョーイしたいコンピュータに投げると、熱烈歓迎でコードを呑みこんでくれる 呑みこまれてヒョーイしたコードは、スリーナインやシティに必要なKnet情報をメタデータにして、ボクのパソコンへ送ってくるんだ つまり
ボクは、家にいながらKnetすべてのコンピュータを操れる ってこと
スゴいでしょッ コレ
鍵をこじ開けて、不法侵入して、こっそり能力を奪うハッキングとは大違い
熱烈歓迎と不法侵入 合法と非合法 正義と悪 悪の方が頑張ってる…かな

よぉし、じゃあ飛んでみるかぁ ちょっとドキドキする
キーボードのコントロールキーを押しながらJキー(前進)を押すと、
視点が..アクセスポイントを..離れた「やったぁぁぁ」
今まで眺めるだけだった景色が..うしろへ流れていく
JキーHキー(左へ)を一緒に押すと、ゆっくりと左に曲がる
「うおぉぉぉ」街に向かってゆっくり落ちていく

ボクのアバター タケルが 、Knetの中を 飛んでるぅぅぅ やっはぁー

スピードが出てきたのでJキーを離す
「えっ?」とキーボードを二度見
キーを離した 離したのに「あれ、と 止まらない」
ぐんぐんスピードをあげるタケル「うわぁぁぶつかるぅ」
とっさにKキー(右へ)を押すと、右に大きく旋回
「はぁはぁはぁ ふぅぅぅ、あっ!そうか」
Fキー(後進)を押すと、どんどんスピードが落ちていく
「そうだったそうだった エへへ」だんだん操縦に慣れてきた

電車たちの間をすり抜けながら、一緒に飛んでいくと、
視界の先に、巨大な丸い街並みがバンバン作られていく「スッゲェェェ」

アバターがサイバー空間を飛んでるように見えるのは、少し先のいくつかのコンピュータにも、先回りで同時に憑依しているから
タケルが通るのをみんなで待っているって仕組み
まさか一発目でこんなにうまく動くなんて
でも、街を作るのがちょっと遅いかナ 改良の余地は…たっぷりある

「あれ、あそこにも」
飛びながら眺めてる街の中に、ちらほらと黒いタマゴが転がってる
たまぁに赤いタマゴもある なんだろアレ

突然、黒い鳥がディスプレイの上から ドォーン とあらわれた
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

ドスーンとイスごとひっくり返る でも視線はディスプレイから離さない
ぶつからない 黒い鳥をすり抜ける
机のパソコンにかぶりついて ググッと急旋回でUターン
デカい鳥  ん、足が3本あるッ どっかで見たぞコイツ
デッカイ3本足の黒い鳥は、ボクなんかお構いなしに街に下りていって
黒いタマゴに..何か渡した..口から出てるのは..ん 電車? ってことは 情報?
いや..待て..その前に..あの鳥はいったい アバター? じゃあ教室の仲間かナ
「ねぇ、君は誰?」

振り返りざまにその鳥が撃ったノイズ攻撃に、タケルのヒョーイコードは砕け散った。

タケルからの通信が消えて、パソコンのディスプレイは真っ暗になり、
ボクの..目が点になった顔が映っている
なんなんだぁ あのカラス

コンコン「ちょっとうるさいわよ 武、あんたちゃんと勉強してんのぉ」

結 六「赤い山手線E235にまたがるおサルのタケル」につづく

#オリジナル #小説 #創作 #短編 #物語 #フィクション #人新世

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?