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シン・九州 転 六~とある次元の物語~

転 日常
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2023年9月4日(月) 8:38am 京子 自宅
を笑顔で健軍小学校へ送り出して、昨日修理してもらった型古の洗濯機を回して、型古古の液晶テレビで KHKの おはよう九州 を見ながら朝ごはんの片づけが終わり、食器乾燥機のスイッチを入れたら、
…動かない バンッバンッ ガチャガチャ
叩いてもゆすってもダメ ハァァァ
なんか直すと、なんか壊れる...モグラ叩きか!
また修理かぁ、いつ来てくれるんだろ
もう見た目 乾燥機っていうより、工具箱なんだよなぁ

この前、FMラジオ KIPDJサトミが話してたっけ…

「この国はね、九州連邦は、この国を設計するときに 大量生産 と 分業 を捨てたの
ジャバンの っていうか 資本主義の 利益を増やすための効率化 ってさ、色んなトコロで人に 非人間性 を要求してくるでしょ。
そのひとつが 分業 
ジャバンの工場じゃ、"何をどう作るか" 考える人と、"より速く上手に" 作る人を分けて、誰にでもできる作業に分けていくでしょ。
考えるな手を動かせって、まるでロボットみたいに。
安い工賃の人たちを使って、単純作業で効率を上げて、短時間に、大量に作る。雇い主が最大の利益を得るために。

でもね、この国は、この非人間性を 否定 するの。

人が人らしく働くために、効率なんゾは 二の次 三の次。
分業なんかクソくらえ ってね。
何を作るか どう直すか を考えるところから、できあがるまで 直るまで、時間が掛かっても、一から十まで全部ひとりでできることが要求されるの。
だからぁ 超ぉ非効率! そこが良い。
でもやっぱり人間だから 得手不得手があるよね、でもさソコこそ 分け合う 補い合う とこでしょ。
大量消費や大量廃棄なんかしなくても、利益なんか出さなくても、成長なんかしなくても、この国はこの社会は ちゃんと回って暮らしていけるの。
何ひとつ無駄にしない。
この国はみんなで、非効率を楽しみ、生きることを楽しむの」

だから、
この国はモノを大事にする。ハンパなく大事にする
だから、壊れたらまず直す、何度も何度も原型をトドメないところまで、
もうダメだろ からが本番らしい
でもねぇ〜

プゥーーピィーーボォーー おかしなチャイム なんて音...
洗濯が終わったんなら、もうちょっとさぁ、声高らからにさぁ、終わったよぉ って、歌えない?

でもまぁ、そんなことは熊本の澄んだ青空とそよ風の庭先で、洗濯モノをゆっくりと干していると、どうでもよくなる
この朝の幸せな時間はタマラン
ゆったりとしたこの朝は、母割のおかげ
子供との時間を優先して、空いた時間で仕事をする
あはっ、母はリッパな仕事なり
熊本州労働局から指示された労働時間は一日3時間
うふっ、この国は人が人らしく生きられる
シングルマザーでも月60時間働けば親子3人で一軒家で暮らしていける

それにひきかえ ジャバンは、
休んでいようが
弱っていようが
子育てしていようが
お構いなしに、金かねカネと、もっと稼げともっと借りろと、つきつける
あぁぁぁ 腹が立ってきた
自分のせいじゃなくても、仕事をなくせば、金がなくなり、生きていけない
利益を生むシクミの中で働けない者に、生きる価値はない
だから、
だからどんな仕事でも、しがみつく、生きるために、どんなにすさんでも

あの東京の 6畳1Kの、お金に追われるすさんだ暮らしが、
頭痛に顔を歪めながら寝癖爆髪のまま狭い台所で子供たちのヒドイお昼を
ひとつまみのキャベツの焼きソバを 炒める私が、脳裏に映った。

もうあそこへは、絶対に戻らない

と、居間で携帯が鳴っている。
顔を振って鬼の形相を直し、携帯を見ると、
あっミチザネ君だ

「おはよう! はいはい、元気ですよぉ。うん、特に変わったことはないね。子供たちも今日から二学期で元気に登校したよ。あっそうだ、食器乾燥機が壊れたので修理をお願いしまぁーす」

最初は熊本州労働局の人からの電話だと思ってた
亡命したての私たちを気にかけてくれて、毎日毎日マメだなぁって、
そう思ってた
だから、こっちで働き始めた頃、病院の事務室で同じ部署の菜七子さんに「九州の人はマメだね」ってその話をしたら、横からイケメンの福山先生
「あれはAIたい。ミチザネっちコンピュータ ったい」
とツッコまれても、信じられなかった。いや、信じなかった
だって、人の声だもん
「またまたぁ」と笑う私に福山先生は真顔で続ける
「3年前んクルナウィルス事変で、ジャバンから独立ば計画した連邦政府は、こん国んグランドデザインば設計しよった時点で、AIが連邦を支援する仕組み ば考えよったと。そいが こん国の今を集める AIミチザネたい」
目をパチパチとして落ち着いたあと、なかば睨んで返した
「東京でもそんな話は聞いたことがございません」
先生はやれやれの顔で「知らんと? ジャバンの営業電話の8割は AIバイ。ほんなごて東京から来たとね?」
ブチッと切れて「なんですって...」と、初めての口げんかになった。

次の朝、思い切ってミチザネ君に聞いてみた
「ねぇ、あなたはコンピュータなの?」少し間が空き
「はい、そうですが。何か気に障りましたか?」
「ううん、ずっとね労働局の人だと思ってたのあなたを。だって...人のような気遣いだし、人のように話せるから、それも標準語で」
「褒められてるんですよね? ありがとうございます。私の言葉遣いも気遣いも、私を設計した九州大学 趙研究室 小森博士人格なんです」
「ホントに? だってぜんぜんコンピュータっぽくないじゃん」
「はぁ、まぁ」
「じゃぁさ、この国の人口は?」
「さっき一人亡くなったので 千百三十九万九千九百七十六人です」
即答...でも、適当でも言えるよね
「じゃあ、円周率は?」
「3.1415926535897932384626433832...」
「あぁぁ、わかったわかった、私の知ってる桁、もう超えてるし」
ミチザネ君が「こんなこともできますよ」
と、おはよう九州の守下 恵梨奈アナの声で
「そろそろ支度をしないと、いつもの市電に乗り遅れちゃうゾ」
ゾッとした 時計に目をやりゾゾッとした
「マズイ、遅れちゃう! じゃまたね」
と、電話を切って化粧もソコソコに家を飛び出した
けど、その日初めて遅刻した

そのあと何度も何度も困った時にはミチザネ君に相談してきたけど、嫌な声ひとつ立てずにつき合ってくれる、素敵なパートナーの顔をイケメンで妄想しながら、今日はゆったりと家を出た。

9:41am 健軍校前 電停
「お待たせいたしました。この電車は健軍町行きです。足元にご注意ください。乗車の際はUSKカードをタッチしてください」
USKカードをピッと市電に乗り込むと早速
「おはようさん」と笑顔のシロー爺さん。
「おはようございまぁす」と返すと
「今日も京子さんなぁ美人で元気んよかねぇ」あらまぁ
うしろの車掌さんたち3人もいつもの笑顔。
「ドアが閉まりますご注意ください」ピーッ,プシュー,ピンポン
「次は動植物園入口です。動植物園は世界の動物や植物を展示、また大型遊戯施設を完備して皆様をお待ちしております。次とまります」

気のいい車掌さんたちだと、思ってた
5月に小倉から熊本に来る電車でジロウ爺さんから聞いた
「ワシら年寄りもこん国では正規の公務員タイ。みんなに安心して電車に乗ってもらいたかバッテン、なんか事件の起きた時は年寄りひとりではどがんもならんバイ。そいけん年寄りがこがんたくさんおると」
を信じてた
だから病院の事務室の雑談で
「ほんとに人を大事にするよねぇ、この国は。だってあんなにたくさんの車掌さんで見守ってくれるんだもん」
と能天気に語っていたら
菜七子さんが「うぅーん」と困った顔。
と、また横からイケメン福山先生が
監視しよっタイ、あがん人数で」
「ん? 監視?」とイケメンをガン見する
福山先生は短く息を吐くと
「人ば大事にすっとは、人がおらんとこん国が困るからタイ。そいケン、たくさん人ん動く電車やバスっち公共交通には、あがんたくさん車掌ばおいて人ん動きば監視しよっと。逃げんごと
「そんな風には...だって笑顔で」と眉を寄せる
「あん爺さんたちもミチザネに『見守って、様子ば教えて』っち指示されとったい。バッテンそん本質は、車掌たちが見守ったそん人となりを電話で集めて、人々の動きば監視しトットさ、ミチザネが
「…」
「よくできた仕組みバイ。見た目、感情、言葉遣い、匂い、雰囲気 マジメな爺さんたちの感じたままがミチザネに伝わっとバイ。映像と音だけの監視カメラば遥かに凌ぐ生体監視センサーたい」
「嘘よ、ミチザネ君がそんな」
「バッテン、みんな一日一回はミチザネに身の回りのコトば報告しよっとやケン、そがん気はなくても国民全員が知らんうちにミチザネを通じて監視しあっとおっちゃなかかね」(監視しあってんじゃねぇの)

思い当たることはあった、別れ際に電話していたお爺さんたち
だから、福山先生の話を聞いてから
モヤモヤを抱えたまま、笑顔で車掌さんたちと接している
いつも通りを装って

「ご乗車ありがとうございました。動植物園入口です」
ハッ と顔を上げると心配そうなシロー爺さんと目があった
ニコッ …気をつけなきゃ

動植物園か...
7月半ばの夏休み前に、武と丈が通う健軍小学校からのお誘いで参加した社会科見学会を思い出した
武のクラス 3年2組に同行することになって、
武に「どこ行くのよ?」と聞いても「内緒」と相手にされず、
まだママ友もいない身の上で、ほとんどミステリーツアーばりに連れていかれたのが 健軍水源地
入道雲が沸き立つ青い夏空の下、動植物園入口の電停から集合場所の庄口公園を通ってゆっくり10分ほど、汗を拭き拭き日傘で歩くと、動植物園の隣、銘板に健軍水源地と刻まれた立派な門に辿り着く
父兄あわせて60人ほどの見学ツアーを相手に、案内役のおじさま水道局員がゆっくり歩きながら、暑い中熱く熱く語っていたけど、ママ友づくりにキョロついていた私の耳には片言しか残ってない

阿蘇の噴火のおかげ
阿蘇から20年掛けて地下を流れてくる
熊本州は地下水に浮く水の国
水道はすべて天然のミネラルウォーター
この国で一番の輸出品 とかなんとか

でもそのあと、5号井 を覗いてからの話はちゃんと覚えてる
「こん湧き水ん井戸は、水前寺江津湖湧水群ん中で、いや こん国ん中で最大の ごごうせい っち井戸タイ」
と、おじさま局員が得意顔で開けた大きな蓋の中は、
洗濯機のように渦を巻いて、水が噴き出していた
私の知ってる湧き水って、
山の岩肌からコンコンと染み出すような、
河の砂底を柔らかくポコポコと持ち上げるような、
そんな やさしい とか のどか な光景だけど ...なによコレ
「これが 井戸なんですか?」と見上げると、おじさまは
「自噴(じふん)っち、みずから噴き出す井戸んコトばそがん言わすと。
こがん井戸は世界でもそがんちゃなかタイ。
バッテン、ここ健軍水源地にゃ 11本ん井戸んうち7本が自噴しとっと。
こん5号井の水で6万人が暮らしていくるっタイ」
目を輝かせて続ける
「阿蘇州、熊本州一帯には1000を超える湧水池100を超える自噴井戸んあっとバッテン、こん自然の恵みが、誇らしか恵みが、こん国のみーんなば潤わしよっタイ」

DJサトミの声で頭に流れた
「自然の恵みも社会の恵みも、全部みんなのもんたい」

でもさぁ、こんな激しい水がこのあたりの地下で渦巻いて流れてんだよね
…大丈夫なの?

「次は健軍町ぃ健軍町ぃ、終点です」
ハッ と顔を上げると、またシロー爺さんと目があった ニコッ

そういえば今朝、おはよう九州で『世界各地で同時多発的に起きている地下水の枯渇』がニュースになってたけど、健軍水源地は大丈夫なのかなぁ

モヤモヤしながら健軍町電停でUSKカードをピッとして電車を降り、
ピアクレス配給店街の交差点を渡って10分ほど歩くと、
10時チョイ前に勤め先の九州連邦国防省 陸軍熊本病院に到着した。

9月4日(月) 午前 大分州  なんショッカー アジト
「AI ツクシノシマ ?」
慈国 大志
はモニター越しにジャバン首相 賀酢の話を遮った。
「あっ、あぁ一般にゃぁ知られてねぇみてぇだな。ふぅぅむ」
賀酢は少し考えて まぁいいか と続けた。
「やっこさんたち、その国の青写真に AIに統治を支援させよう てぇ俄か仕込みを入れやがったんだ。
まぁ歴史上、社会主義国てぇなぁ、そりゃ建国した時にゃよ 優秀な連中が作った体制と計画で華やかに社会が動き出すんだよ。
でもよぉ、そのうちホコロビが出んだよ。
上に立つモンが変わるとよぉ、優秀なヤツばかりじゃねぇからよ、
堕落すんだよ、人ってなぁ。
そんな無能たちが政府にハビコルとよぉ、
社会の流れは、淀み、腐り、壊れんだよ
で、不満にまみれて反抗する国民を武力で蹂躙したり、
空腹で操ったり ってぇのがお決まりのパターンなわけよ。
だからよぉ、やっこさんたちゃ社会が腐らねぇように、人ではなくAIに計画を任せたってわけさ。
あんたらも良く知っているAIミチザネがその国の今を集めてよ、それを基にその国の未来を計画するのがAIツクシノシマってぇわけよ」

大志は目を見開いて「じゃぁ、こん国はAIが動かしとっとね?」
賀酢は「建前じゃ政府の大臣たちがその計画を決定しているって話だが、おそらく誰も文句を言えねぇんじゃねぇか」つづけて
「だってヨォ、その国の全国民の事情と、食糧、医薬品、日用品をどんだけ欲しいか と、どんだけ作れるか どんだけ輸入できるか てぇのを全部集めてよ それで全国民への最適な供給量とその方法を計画するなんて芸当、
AIに勝てるわきゃねぇし、任せときゃ良いって話だろぉ」さらに
「たとえばヨォ、ある港の漁獲高をこんだけにして、水揚げの何十トンをこの街に貨物列車で、何トンをあの町に軽トラで送って、この配給店にこんだけ卸す とか、この薬をA国から何万錠輸入して、この病院に何千、あの病院に何百卸す とか、誰々にカラスミをどんだけ支給するとか、
そんな計画がズラズラッと出てきてもよぉ、誰もできねぇだろ ダメ出しなんてよぉ」
「なんね、そしたら政府はなんばしよっとね」と大志
「描いてんだとよ、その国の未来を」と賀酢
「なんでそがんこつば知っトット?」と怪しむ大志
賀酢はニヤつきながら「ジャバン政府の仲間はよぉ、居るんだよ、その国の中枢にもよぉ」
「...」
「だからよ、話を戻すぜぇ。
その国を潰すのは簡単なんだよ、ツクシノシマを壊すだけで勝手に潰れんだよ、その国は。
サイバー部隊もいま攻撃を続けちゃいるが、どうもミチザネとツクシノシマを守るAIがいるらしくってよぉ。
まぁそっちはそっちで続けるが、なんショッカーにはそのコンピュータそのモノを破壊して欲しいってわけよ」
「どこにあっと、そんコンピュータは?」
賀酢はフッと笑い「まだ確証があるわけじゃねぇんだがよ、ある基地によ、あんたらを目の敵にしてたジャッカルの連中が、それも相当な数が集まって軍事教練を受けてんだってよ、臭わねぇか?」
「どこん基地ね?」
「まぁそれは追々な。ところで改造人間の実験はどうでぇ、うまくいってんのかい?」
「あんバッタ男、てこずったバッテンようやくバイオ兵器としての自覚ん目覚めよったごたっタイ」
「で、どうなんでぇ」
「すごかバイ、あん太かバッタんごたウシロ脚でジャンプばすっと、15mのビルん屋上へひとッ飛びタイ」
「ほぇぇぇ、そりゃ5階建てビルの高さだゾ」
「そっから落ちてキックばすっと、乗用車んペシャンコたい」
「ははぁ、そのキック力は22トンだろぉ」
と賀酢がおどけると、科学スタッフがスッと大志の前に立ち
「トンは重さです。力を重さで表すなど言語道断、前々から私はその風習に疑問を...」
「あーわかったわかった、はいはい、良いじゃねぇかよそういう昭和な感じもよぉ」
何か言いたげな科学スタッフに向かって
「じゃぁよ、計画通り次のクモ男ハチ女も早速はじめようぜぃ」
に科学スタッフはニコッとうなずきモニタから外れた。
大志は科学スタッフを目で追いながら「うちん科学スタッフの凄かぁ」
「どうしたい」
「あんバッタ男が、ここんとこ『人間に戻りたかぁ』っち黄昏よったと」「バッタが...黄昏んのか」賀酢は左上に目をやったが...想像できない
「だが、そりゃちょっとできねぇ相談だなぁ」
「オイ達もそがん想いよったバッテン、科学スタッフが言いよったと
『風の力で人型と虫型を行き来できるかもしれない』っち」
「ほんとかよ」と賀酢は目を見張る
「バッタ男ん喜びようったらなかバイ、30mぐらい飛び上がって喜びよったケンね」
「...」ダメだ、全く想像できない
「そいぎん、いまそのナントカっち風をうけるタービンのベルトば科学スタッフの作りよっタイ。あと、人型と虫型をスイッチする言葉もいるらしかバッテン」
「まぁ虫だけによ、ヘーンタイ だろうな」
「ぜんぜんうまくなか。バッタ男に蹴り殺さるっバイ」
と真顔で答えた大志の周りから失笑が漏れていた。

転 七 「この病院を見ていて医療とは本来こうあるべきだなって感心する」 につづく

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