シン・九州 転 八~とある次元の物語~
転 日常 3
2023年9月4日(月)13:05pm 大統領官邸 執務室
「どがんですかぁ~」
「呼ばれて飛び出てきましたバッテンが」
「ハリキッて行かんばねぇ」
暫定大統領 長崎 チャンポン・皿うどんの二人が執務室へ陽気に戻った。
低い怒り声で「漫才要らんネン。呼ばれたらさっさとこんかい」
とAIツクシノシマ
皿うどん「怒・らん・とっ」
「要らん言うてるやろ」
チャンポン「なんね、『はよ地熱発電所をなんとかせんかい』っち言わしたケン、エネルギー省と話ば始めたとこやったとに」
ツクシノシマさらに低く「なんで二人で戻ってくんネン、一人でええヤロ」
チャンポンは「アァ」と、流し目で渋々と部屋を出ていった。
「どがんしたと?」と探り声の皿うどん
「結婚がな、増えとんネン」とツクシノシマ
「はッ?」
「それも、スゴイ勢いでな」
皿うどんは目を剥き大声で
「良かこっタイ! なん怒りよっと!? そいの何んがイカンとね?」
「アカンわけやないネン。せやけどな、急激すぎや」
「どがん増えとっと?」
「ジャバン(邪蛮)時代はな、九州地区でだいたい月に4千組前後や」
皿うどん「最近、だいたいとか ぐらいとか ザックリした数字の多かね。
ちょっと前は、30年平均とか移動平均とか確率分布とか難しか数字のオンパレードやったバッテンが」
ツクシノシマ「正確に言うたかてアンタら使わへんやないかい!
まぁええわ、婚姻数は独立してからこっち急激に増えとってな、
先月はだいたい九千組やで、ジャバン時代の倍以上や」
「ほぉぉぉ」
「ほぉやあらへんがな。急激な変化はな、その周りごとヒズむネン。
歪みはな、未来に霞をかけてまうんや」
皿うどんは「ふ~ム」と遠い目でひと呼吸おいて
「ジャバンはキツか学歴社会タイ。
教育費が家計に重ぉくのしかかるケン、どこの夫婦もだいたい一人っ子っちゃろ、二人目三人目は経済的にキツかバイ。
そん一人っ子も、毎日んごた競争ばさせられて、強ぉかストレスに耐えて、人格のユガんでいくとば目にしよったら、自然と若かモンが結婚や出産に後ろ向きになっとは、しょうがなかこつバイ」
ツクシノシマ「ほぉぉ、なんやちゃんと見てるやん。
減り続ける人口に増え続ける高齢者、ジャバンは滅びゆく国やな」
皿うどん「結婚の増えたとは教育だけではなかやろバッテン、
若かモンが安心できるっち感じとっとやケン、嬉しかこったい」
ツクシノシマ「ほぉ、婚姻数は安心の特徴量ゆうことかいな。
新しい学習が必要やな、霞も晴れるかもしれへんな」
皿うどん「たださ、九州連邦ん教育は純粋な学問の追求やケン、
入試も基礎があるか診るだけで、塾も要らんごたなったバイ。
こがん学校で中学生や高校生はちゃんと勉強ばしよっちゃろか?
なんか最近ボォーとしよる学生の多かぁっち よく聞くとやけど、
やる気ば失くしとっちゃなかかねって、気になっとっタイ」
「ん? なんでやネン、何でやる気を失くさなアカンねん。
黙っとっても学校で新しい知識がドンドン入ってくんネンで」
「ツクシノシマにはわからんバイ、人はそがん風にはできとらんと」
「はぁ?」
「ボォーッとできるとやったら、ボォーッとしときたかとが人間タイ」
ツクシノシマが低い声で唸る「上等や、この労働力不足の時に誰がボォーッとさせるかい。そんな奴はさっさと学校辞めさせて働かしたらぁ」
「ちょちょちょちょっと待たんね、学生にはそがぁーん時間も必要タイ」
「そんな理屈がAIにわかるかい。
まぁええ、あとな自殺者も急激に減ってんネン」
「これまたヨカこったい。どがん減っとっと?」
「もともとジャバンは自殺者がメチャメチャ多いんや。
34歳以下の年間自殺者約2万人は他の国の倍以上やで。
ジャバン時代の九州地区もな、月に150人ぐらいおってんけどな、
それがな、先月は13人やで。
激減や、これも安心の特徴量かいな?」
皿うどんは遠い目で
「人が死を選ぶとは、孤独感と不安感に心が占領された時タイ。
想うに、自殺者ん減ったとはミチザネのお陰ちゃなかやろか」
突然、スピーカにノイズが混じる
「ミミミチチチ..ガガガ ツーツーツー」
「ど、どがんしたと? おいっちゃ ツクシノシマァーー!」
「ガガガ...」
「なんね!」目を剥く皿うどん
「ツーツーツー...ガガガ...ってなんでや」声が戻った
「は? 何ね、今のガガガやツーツーツーは」
「またかいな。
最近な、妙なコンピュータウィルスがKnetをウロツいとんネン。
なんや、ウチとミチザネを探すウィルスみたいでな、
こっちもな電子抗体をバラまいてウィルスを攻撃してんネンけどな、
ヒットすると、こない通信障害が起こんネン。
まぁええ、で、なんでミチザネのお陰やネン」
皿うどんはまた目を剥いて少し怒り気味に「なんもヨカこたなかバイ、
そがんコツ聞いとらんバイ、なんねそのウィルスっち、いつからね?」
ツクシノシマはケロっと「ここ1ヶ月ぐらいの話や。
大丈夫や、もう国防省サイバー軍が動いてるサカイな。
で、なんでミチザネのお陰やネン」
まだ何か言いたそうな皿うどんだったが
「最近、お年寄りの通院が減ったっち、近所の病院の先生が言いよっタイ。
以前は用もなかとに元気に病院に集まっとったとが、
ホントの病気になった時にしか来んようになったっち、言いよらしたと」
「元気で…病院?」と混乱気味のツクシノシマ
皿うどん「何でかっち 先生に聞いたら 、
毎日毎日、ミチザネと話せるとが楽しかとって、
いくらデン電話で付き合ってくれるとが嬉しかとって、
友達んごた寄り添ってくれるケン孤独やなかって、
お年寄りたちがそがん言いよらしたとって」
ツクシノシマは少し黙り、キレ気味に
「あんなぁ、ウチへのあてコスリちゃうやろな!?
ナンや! ミチザネばっかり褒めクサって、
そもそもな、ウチとミチザネとは役割がちゃうネンで」
皿うどんは半笑いで「いやイヤいやイヤ」
「なに笑ろとんネン」
皿うどんはキリっと「そがん話やなかと。
AIを使った監視型の統治体制案は、こん国ば設計しよったシャドウキャビネット時代でも賛否両論 真っ二つやったバイ。
それがどうね、老人ば癒して、若かモンに安心感ば与えよっとタイ」
ツクシノシマは呆れ気味に「ウチらAIからしたらな、
どんだけ簡単に操れんネン ちゅう話や。エエんかそれで」
皿うどんは「ん〜」と少し考え
「そがん風には想うとらんバッテン、結果的には…簡単なんかねぇ?
まぁ、こん監視型統治はうまく行っとっとやケン、癒しや安心はその副産物タイ。その副産物の結婚ラッシュが出産ラッシュにつながれば、いずれ労働人口もドンドン増えて、こん国も安泰タイ」と笑顔で締めようとした。
冷静なツクシノシマ「なに呑気なことゆうとんネン、何十年先の話やネン。
今やイマ、いま労働力が足りひんネン。
ジャバンから移住したい帰化したい言う話が増えとんちゃうんかい。
ジャバンと国交回復はどないなってんネン。
早よ下関の封鎖 解かんかい!」
「怒・らん・とっ、まだジャバンが嫌がっとっと」と、なだめる皿うどん。
9月4日(月)14:23pm ピアクレス配給店街 交差点前 京子
子供との時間を優先して、空いた時間で仕事をする母割のおかげで、勤務時間は朝10時から14時の一日3時間 助かるぅ
電話で介護ベッドメーカーに怒鳴ったり泣きついたりしてる菜七子さんの横をウィンクして通り過ぎ、14:08にUSKカードをタイムレコーダにピッとして、陸軍熊本病院を出る
まだまだ日差しが強い夏空の下、日傘をさしてゆっくりと晩御飯の買い物へ
...いやいや違う違う、まだ買い物って言っちゃうんだよねぇ
配給と交換に...これはこれでなんか言い辛い
買い物に代わる良い言葉はないものか
まぁ晩御飯の食材を仕入れに、健軍町電停前のピアクレス配給店街へやってきた
先月、健軍神社 夏祭りの夜、ここピアクレスでお隣の五味 六郎さんから
「ここは昔ピアクレス ショッピングモールっち商店街やったと。
こんアーケード街のできた頃は、そいはそいは華やかやったと。
健軍ん人が買いモンっち言えばこん商店街に集まって来よったケン、
そいけん、いっつもたくさんの人がこんアーケードば歩きよったとさ」
と楽しそうに昔を想い出してた笑顔がスッと消えて
「そいが、あん大型ショッピングセンターさ、あれができるとドンドンあっちに人が流れて、あっちゅう間にここはシャッター街になってしまったと」
あぁ、そんなニュース あったなぁ
『地方の独特な商業文化を根こそぎ奪った大型商業施設』
だったっけ
六郎さんがお怒りモードへ
「あん忌まわしか大型ショッピングセンターのせいで、ドギャん数の商店街がシャッター街にされたコツか。
ジャバン時代に色んなトコロば旅行したバッテン、
どこへいってもおんなじような駅ば降りて、
おんなじような街ん中に、
おんなじ大型ショッピングセンターがあると、
なんちつまらん国やろうっち、
そがん忌々しか想いばいっつも感じよったと」
ひと息ついて
「バッテン、独立して、九州連邦になって、あん忌々しか大型ショッピングセンターも今は消えたっタイ、消え失せたっタイ。スッキリしたバイ。
独立したてん頃は、ここに闇市ば立って怪しかごたなっとったバッテン、
今はまた賑わいが戻ってきたと。配給店街になって、こんアーケード街に」と、六郎さん 嬉しそうだったな
アーケードを歩きながら想う、ジャバンのような手軽さは消えたなって
ジャバンならスーパーに行って、
ラップされた大根 1/2本をカゴへ ポイッ、
ラップされた3人前お刺身トレイをカゴへ ポイッ、
煎餅詰合せ1袋をカゴへ ポイッ、
レジで電子マネーをピッとして、ポリ袋に移したら買い物はおしまい
便利でお手軽でスマートはあたりまえで、さらに最安値もあたりまえ
だって、人はそれに集まるから
でもさぁ、どぉ考えたって過剰だよね、あのサービス
客が手に取るまでに掛ける過剰な準備と過剰な包装
そして、終わった後に出る膨大なゴミ
競争の中で、お手軽感と清潔感を追求した結果だろうけど
無駄おお過ぎ!
この国なら、
八百屋で、「おカミさん、大根を半分でお願い」と新聞紙に包んでもらい、
USKカードをピッとして野菜配給ポイントから抜いたら、
包みを手さげに結った風呂敷袋にそっと入れる
次は魚屋で、「大将、イカとアジとタイをお刺身三人前でお願い」と携帯した蓋付の皿に盛ってもらい、USKカードをピッとして魚配給ポイントから抜いて、さばきサービスポイントをカラスミから抜いたら、
お皿を風呂敷袋にそっと入れる
最後に煎餅屋によって、「おばちゃん、ゴマ煎餅3枚と醤油堅焼き煎餅3枚ね」と新聞で折った袋に入れてもらい、
USKカードをピッとして雑貨ポイントをカラスミから抜いたら、
袋を風呂敷袋にそっと入れる
過剰な準備は要らないし、過剰な包装も要らないし、
プラスチックの出番はないし、ゴミも出ない
新聞紙がゴミになるのはまだまだ先なの
ゆったりと時間をかけて、店を何軒も回るのも、店の人と話すのも、
あたりまえのことと思えば手間じゃない
うーん、まさしく昭和の風景だ Back to the EGG
ただね、問題もあるの
この国は使用価値が同じなら、品質やブランドによらず配給量は同じなの
だから、良いモノには行列ができて、なかなか手に入らない
そりゃそうよね、同じ配給ポイントなら良いモノに使いたいモン
こだわりでいえばやっぱお米かな
熊本のヒノヒカリや佐賀のさがびよりとかってすごく人気があるから、直ぐに在庫も切れちゃうの
どうもぉ、AIミチザネでーす。
Knet電脳空間から京子さんの独り言を補足します。
独立当初、連邦政府は使用価値等価法の発令により、連邦内のブランドを全て廃止するよう通達を出しました。商業を廃止したことで、価格差の根拠となるブランドは不要であるとの判断でした。
ところがすぐに、連邦の至る所で通達への反対運動が起き、連邦政府や州政府、市役所へのデモや抗議の電話が昼夜を問わず続きました。
生産者からは
「ブランドば捨てろとはナニゴトかぁ」
「言語道断、許せんバイ」
「先祖代々の誇りば何んち思いよっとかぁ」
「ブランドは努力に努力ば重ねた宝もんタイ。お前らに何んがわかっとか」
などなど。消費者からも
「ブランドは文化タイ」
「どれがうまかモンかよかモンかわからんタイ」
「新米と古々米を混ぜる気ね。気は確かね」
「玉石混交は滅びの始まりタイ」
などなど。
日に日に高まる怒りの熱量に市役所や州政府が反対運動側につくと、ほどなく連邦政府はブランド廃止を取下げました。
九州の民に染み込んだ文化が、主義の暴走を止めた瞬間です。
こうしてブランドは生き残りました。
AIにとっても貴重な学習でした。以上、ミチザネでしたぁ
京子
だから「さがびよりが入荷した」なんて噂が健軍を走ると
来るは来るは
江津からやってくる人もいたりして
アーケード2往復の大行列でもみんな並んじゃうの
でもね、行列に並んでる人たちってほとんど笑顔なの
美味しいってやっぱ正義だよね
ちょっとお祭りっぽいところもあって、さがびよりが手に入らない人たちもブランド米に古米や古々米でカサを増したブレンド米を手に、ハズレを楽しんじゃってる
まぁ心の中じゃぁリベンジ誓ってんだろうけどね
さすがは九州、お魚は豊富で新鮮だからほとんど困ることはないけど
お肉問題はちょっと厄介
USKカードの肉類の配給はグラム数だけで牛、豚、鳥の指定がないの
九州はどっちかっていうと牛派が多いから、どの配給店でも牛肉から無くなっていくんだよね
この前「あの店に伊万里牛が入荷したらしい」って噂が流れたら、モノ凄い行列ができてFM KIPでニュースになっちゃった
そこへいくと関東出身の私の好みは豚>鳥>牛なので、ほぼノーライバル
行列を横目にスイスイ進み、なんか…申し訳ない
あと、ジャバン時代と比べて変わったものといえば
「こんなに安く買ったのよぉ本能」のやり場がなくなったなぁって
最近よく思う
同じものを誰かより少しでも安く買った時の優越感と陶酔感
あの本能…最近全然使ってない
まぁ要らないんだけどね
転 九 「ただね、健全過ぎるの」 につづく
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