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シン・九州 序 ~とある次元の物語~


とある次元の日本風な国 『ジャバン』

かつてこの国は、大いなる和の国 ヤマトと呼ばれ、平和で平等な優しい人々が暮らす島国でした。豊かな海、豊かな大地そして豊かな水、四季折々の自然の恵みを、皆で分かち合い、そして生きた証の全てを自然に還す、豊かな循環がこの国にはありました。信じ合い、喜び合い、助け合う人々。人々も街もモノも、なにもかもがゆっくりとゆっくりと成長する美しい国でした。
今から156年前、突然ヤマトは終わりを迎えます。この美しい国をそして文化を滅ぼしたのは、東の帝国 麦国と西の帝国 大国でした。
東の海から突如として現れた麦国の巨大な商船が沖を埋め尽くし、船から湧いて出た麦国の商人たちは、ヤマトの人々に美味しい料理や酒、柔らかく美しい服、良く効く薬、花の香の石鹸などを、次々と気前よく笑顔で振る舞いました。初めて口にする、目にする、肌に触れる新しい文化に、ヤマトの人々は初めは恐る恐ると、やがて狂ったように飛びつきました。あっと言う間に麦国の文化は 麦モノとして人々に染みわたり、麦モノなしでは暮らせなくなったある日、突然、笑顔が消えた商人たちが口をそろえて言い出します「欲しければ金を払え」と。
お金を知らないヤマトの人々は、麦国に言われるまま、身近にある自然の恵みの魚を肉を米を水を 商品に変えて商人たちに僅かなお金で売りました。最初は麦モノを手に入れるために、そして必要なモノを揃えるために、人々はお金を使うようになりました。やがて欲しいモノすべてを手に入れるために、誰もがもっともっとお金を欲しいと増やしたいと儲けたいと思うようになりました。
自分だけが儲けるために、この海は俺のもの、この土地は私のもの、この泉はワシのもの、とヤマト各地で独り占めが始まり、独り占めした自然の恵みを休むことなく奪い続け商品に変えていきました。金持ちの誕生です。そして金持ちたちは、その海をその土地をその泉を追われた人たちを、どこにも帰るところがない真面目で素直な人たちを、工場に集め、長時間、安い給料で使い続け、大量の商品を作り続け、いつしかこの国は商品で溢れていきました。人々は、それが幸せだ と金持ちたちに刷り込まれながら。
そんな頃、西の海に現れた大国の巨大な艦隊から湧いて出た軍人たちは、ある金持ちたちに耳打ちしました「あそこを奪っちゃえよ、もっと儲かるぞ」と、武器を見せながら。最初は戸惑っていた金持ちたちも、凄まじい爆発で吹き飛ぶ敵の土地や、慌てて逃げ出す敵のうしろ姿、そして奪った土地の広さを目の当たりするともう震えも笑いも止まりません。大枚をはたいて次々と武器を買い、傭兵を雇ってにすると、あっと言う間に土地は10倍にも100倍にも広がっていきました。
ところが、標的になった金持ちたちに麦国の商人が耳打ちをします「この武器ならアイツらを返り討ちにして、あの広大な土地を独り占めできるよ」と。こうして始まった内戦の炎はやがてヤマト全土を覆いつくし、借金に次ぐ借金で大国と麦国から武器を買い続け、戦い続け、いつのまにか 疑い合い、睨み合い、奪い合い、憎み合う人々に変わり果てていました。
そして国が亡ぼうとしていたその時、麦国と大国は疲れ果てた金持ちたちに笑顔で「もうやめましょう、新しい時代の夜明けです。」と停戦を持ち掛け、新しい国と主義と操り人形の政府を勝手に作りあげました。巨大な借金と利息をたっぷりと返してもらうために。
帝国の資本主義に飲み込まれた、金持ちの金持ちによる金持ちのための新しい国 邪蛮『ジャバン』。

起の序

2023年4月1日(土) 午前11:58 長崎のローカル番組 よかとこTV のアナウンサー守下 恵梨奈は、番組が始まるお昼の時報をカメラの前で待っていた。アナウンサーになって3年、初めて任された知事会のインタビューを、可愛いだけの局アナから脱却する良い機会だと企んでこの日を迎えた。後ろには、恒例の 九州地方知事会で長崎市に集まった9県の知事が並んで座っている、なにか違和感を感じる硬い表情で。
ピッピッピッポーン「ながさきぃ~よかとこぉ~テレビィ~♫」とオープニングが流れる「さぁ始まりました よかとこTV、今日は長崎市にありますホテル ネオ長崎にお邪魔してまぁ~す。今日この会場では恒例の九州地方知事会が開かれておりまして、九州 9県の知事が一堂に会しているんですよぉ~。では、今回の主宰 長崎県の仲邑知事にお話をお聞きしたいと思いまぁ~す。」順調なすべり出し、向かって左の仲邑知事の前まで下がると、カメラは恵梨奈と仲邑をアップで映す「知事、今日はどのようなお話をされていたのでしょうか?」と笑顔満開でマイクを仲邑に向けた。仲邑は目を瞑り動かない。笑顔を変えず恵梨奈は「知事?」他の知事も目を伏せている。嫌な予感、笑顔が強張り「知...事?」10秒ほどの沈黙の後、仲邑はゆっくりと目を開け、向けられたマイクをゆっくりと奪った。そして、太く通る声で「本日正午をもって、九州はジャバンから独立し、九州連邦社会主義共和国となったことを、ここに宣言いたします。」


起 「もう、こん国にお金はありもはん」につづく


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