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道頓堀の女王アリと仲間たち 1

こんな風に話してるように思えてしゃあない


日常

ここは大阪 道頓堀に面したテラスの前にはお洒落な花壇。
その地下には、ざっと5万匹の蟻たちが暮らす巨大コロニーイブ・シティが深く深く広がる。今日も今日とて、地下2階女王の間女王アリサイお世話係長マチが、いつもの朝のルーティーンをかましている。

陽気なマチ「おはようさんですぅ、サイ様ぁ。よう眠らはりましたぁ?」
その声で目を覚ましたサイ「ふぅあぁぁぁ おはようマチ。ゴッつ寝たわぁ もう永遠に目ぇ醒めへんか思たわぁ」
マチはご飯の支度をしながら「なんですかソレ。アホなこと言わんと、今日もバンバン産んどくなはれ。はい、朝ご飯ですぅ」
サイは目を輝かせて「何や、今日のご飯は?」
マチの「タカラ部屋甘露カンロマクド欠片カケラですぅ」に、サイは大きなお腹を震わせて「イヤッホォウゥ マクドやぁ!待ってたでぇ」とポテトの欠片にガッツキながら「タカラ部屋のカイガラムシさんは元気にしてはるか? ングッ」せたポテトを甘露で押し流す。
マチは嬉しそうに「みなさん元気にしてはりますぅ。冬の間は甘露の出がイマイチでしたけど、暖かぁなって菜の花の根がバンバン出てきたさかい、みなさんシャブリつかはって、そりゃもう甘露が川みたいに流れてますわ」
その甘露を美味しそうにグビグビと飲みながら「プハァァァ そうかぁ菜の花かいな。美味いわけや。 で、根っこはどこに出とんねん?」
マチ「ユリカゴの隣ですぅ。カイガラムシさんたちもサイ様と一緒で歩けへんさかい、地下5階のタカラ部屋から地下3階のユリカゴまでお世話係のみんなで担いでお連れしたんですぅ」

地下       入口
1階 [ゴミ捨て場] [入口駐屯室] [外勤待機室] [トイレ]
2階 [豪華トイレ] [女王の間] [女王食料庫] [女王駐屯地]
3階 [ゴミ捨て場] [ユリカゴ] [送風係] [外勤休憩室] [トイレ]
4階 [トイレ] [保育園] [保育食料庫] [保育駐屯地]
5階 [ゴミ捨て場] [マユ庫] [マユ駐屯地] [タカラ部屋]
6階 [トイレ] [働き学校] [兵隊学校] [外勤寝室] [ゴミ捨て場]
7階 [豪華トイレ] [秘密の部屋] [ゴミ捨て場]

サイは「これで暫く、みんなの甘露はタップリと確保できそうやな。カイガラムシをアリノタカラとは、よう言うたもんやで」
マチ「ホンマですねぇ。メッチャ重かったんですけど、これで甘露には困らへんよって。シティのみんなも言うてます、光と希望に溢れたイブって」
サイは目つきが変わり「怒りと脂肪にまみれたデブて、誰のことや💢」
とマチを睨んだ。マチはあんぐりとサイを見つめ、心の中で
『いきなりかい! なんちゅう聞きまつがいやねん…最近こんなん多なったなぁ 年かいな』とつぶやき、キッパリと「言うてません、そんなん。光と希望にあ・ふ・れ・た イブ ですぅぅぅッ」
サイは「あッそうかいな、スマンのぉ ホホホ」と照れ笑いして、ポポポンッとタマゴを産んでごまかした。『ホンマにもう…』
「おーぃ」とマチが呼ぶと、お世話係タマゴ班長ムラが「ハイハァーイ、今日はまた早いでんなぁ」と部下3匹を連れてやってきた。
サイが「ほな頼むで、ムラ」と声を掛けると、ムラは「はいな陛下」と産みたてホヤホヤのタマゴをクイッとアゴで挟み、部下の3匹もクイッと、ひとつ余ったタマゴをマチが拾って、5匹は並んで女王の間から出ていった。

マチたちは隣の女王食料庫の前を通り、女王警備の兵隊アリが駐在する女王駐屯地を過ぎて、その奥の昇降通路を地下3階へ降りながらマチがムラへ
「ココんとこサイ様が産むタマゴ、少ななってへんか?」と聞くと、
「せやなぁ、この前まで一日300個ぐらい産まはってたんが、最近100個切る日もあるさかいなぁ」と心配そうにムラが返す。
地下3階に降りて、送風係の羽アリたちの部屋を通り過ぎながらマチは
「せやろ、なんやマズイんちゃうん、コレ」と真面目な顔。
羽アリたちは懸命に羽ばたいて風を起こしている。ユリカゴへ送るその新鮮な風に押されながら、5匹は並んでユリカゴへ入っていく。

地下       入口
2階 [豪華トイレ] [女王の間] [女王食料庫] [女王駐屯地]
3階 [ゴミ捨て場] [ユリカゴ] [送風係] [外勤休憩室] [トイレ]

5000個ものタマゴがトコロ狭しと並ぶ巨大孵卵ホール ユリカゴ
女王の間から運ばれたタマゴたちは、2週間ほどをこのユリカゴで過ごす。
さっきの話が続いている…
マチ「最近な、耳も悪なったみたいで、なんやよう聞きまつがえんねん」
ユリカゴの一番奥にタマゴを運びながらムラは「そりゃ困ったモンやなぁ。あらあら、赤ん坊がたくさんかえってるで」と素っ気ない。
「おーぃ」とムラが呼ぶと、保育係お迎え班長シマが部下2匹と疲れた顔でやってきた。
マチが「なんや3匹だけかい。どないしたん、えらい疲れてんなぁ」と心配そうに覗き込むと、シマは「さっきまであの問題児 兵隊組クマの脱皮を手伝ってたんですけど、あのアホ暴れる暴れる。みんなド突き回されてもうヘトヘトですわぁ」と肩で息をしながら赤ん坊をアゴで優しく挟む。
ムラは「そりゃ大変やったなぁ。そしたら手伝ったるわ」とウネウネと可愛く動く赤ん坊をサッとアゴで抱えると、マチたちもクイッと赤ん坊を担いで、みんな一緒に送風係の逆風を浴びながらユリカゴを出ていった。

8匹は「お疲れさんですぅ」と必死に羽ばたく羽アリたちに声をかけて、その奥の昇降通路から地下4階の保育駐屯地の裏へと降り、保育食料庫の横を通って大きな大きな保育園へ、一列に並んで入っていく。

地下       入口
3階 [ゴミ捨て場] [ユリカゴ] [送風係] [外勤休憩室] [トイレ]
4階 [トイレ] [保育園] [保育食料庫] [保育駐屯地]

保育園に入ると、部屋いっぱいにウネウネと動き回るおよそ3000匹の幼虫 いや幼児を、これまたたくさんの保育係が、あやしたり,ご飯をあげたり,フンを片付けたり,脱皮を手伝ったりと、忙しく動き回っている。
幼児たちはマユになるまでの10日ほどをこの巨大な保育園で過ごす。

8匹は一列に並んで部屋をグルッと回って、一番端っこのくぼに運んできた赤ん坊をポポポンッと投げ入れた。
「この子らぁも、じきに幼児やな」と優しく見つめるマチ。

幼児たちは脱皮するたびに隣の凹みに投げ込まれ、4回脱皮して五つ目の凹みでマユになり、地下5階のマユ庫へと運ばれていく。
保育園にいる幼児のほとんどは働き組で、働き飯をもらう幼児たちはいづれ働きアリへと育っていく。保育係のお姉さんアリも全員働きアリ。お姉さんから口移しでもらうご飯に、十数匹の幼児がウネウネと群がっている。
お姉さんからすれば全員可愛い妹なのだが、その凄まじい食欲にたじろぎ、押し倒され、逃れようとするその口に可愛い妹たちがウネウネと群がる。
…ウップ  ご飯を「あげている」と言うより「吸い取られている」

マチは、あちこちで押し倒されるお姉さんアリを眺めながら「大変な仕事やでホンマ ん、なんや!? 向こうでドデカイなりかけのマユが暴れてるで。あそこは兵隊組やな。ひょっとしてあれが問題児のクマかいな!?」
シマがトホホの顔で「そうです。さっきようやく脱皮させて、放り込んだ凹みで大人しくマユになるかと思たら、あれですわ。 はぁぁぁ」
その横でムラが慌てて「マズイでアレ。周りのマユがクマに潰されるで!」
マチが「助けにいくで! シマッ!保育駐屯地に救助要請やッ!」と、ムラたちを引き連れて、部屋をグルッとマユの凹みへ駆け出した。

モノ凄い数の働き組の幼児の横で、数は少ないが倍ほど大きな体の兵隊アリへと育っていく兵隊組の幼児が、育てられている。
いづれこの巨大なコロニーを支える働き手守り手になる働き組兵隊組は、幼児の頃からいつも一緒に過ごすシキタリになっている。

「コラァッ クマぁぁ やめんかい!」と叫びながら、8匹の中で一番年上のマチが、自分の体の倍ほどもある荒れ狂うクマに、体ごとブチかます。
一瞬、暴れ回っていたクマが、クラクラッとフラつく。
その隙に、ムラたちがクマの下敷きになっているマユを救い出し、凹みの外へと放り投げる。
そこへ、助けを呼びに行ったシマが大きな兵隊アリシシを連れて猛ダッシュで戻ってきた。シマが「アレやッ」とクマをアゴで指すと、保育駐屯地から駆けつけたシシは「マチ ご苦労さんやったなッ。あとは任せときッ」とクマに飛びつき、軽々とねじ伏せた。
マチはゼェゼェと肩で息をしながら「おおきにシシ姉さん。助かったわ」
シシの下で、しょんぼりとマユ作りの続きを始めるクマ。
周りに転がるマユたちを見渡して「おーぃ」とシマが呼ぶが…誰もやってこない。もう一回「おーぃ」…返事がない。
ムラが「しゃーないな、ウチらで運ぼか。マチさんは休んどってください」
と、シマたちも一緒にマユを担ぐ。
「何ゆうてんねん、全然足りひんやんか。ウチもいくで」とマチもマユを担ぐと、8匹は並んで歩き出す。と、保育園の出口あたりでマチが目を剥いた
「あれ? あの綺麗な子…まさか…新女王アリやないかい! その横は…雄アリの幼児たちかいな! えっ、いつ生まれてん?」とシマを振り返る。
シマは「お迎えしたんが1週間ほど前やさかい、そろそろマユになる頃ちゃいますか。ウチらもあんまり詳しいことは聞いてへんのですぅ」
マチはその美人を暫く見つめ、シマに何か言おうして思いとどまり
「考えてもしゃあないな、ほな行こか」と、マユを抱え8匹は一列になって保育園を出ていった。
食料庫を過ぎて、保育駐屯地の奥の昇降通路から地下5階の今は空になっているタカラ部屋の裏へと降り、マユ駐屯地の横を通って、8匹は一列のままマユ庫へと入っていく。

地下       入口
4階 [トイレ] [保育園] [保育食料庫] [保育駐屯地]
5階 [ゴミ捨て場] [マユ庫] [マユ駐屯地] [タカラ部屋]
6階 [トイレ] [働き学校] [兵隊学校]

マユ庫一面に並ぶ、およそ6000個のマユたち。マユたちは6日ほどサナギになり、羽化するまでのおよそ20日間をここで過ごす。

ムラが、マユ庫の奥にいるサナギ係に「おーぃ、保育園からマユたち運んできたでぇ。まだ保育園に残ってるさかい、お迎えに行ってやぁ」
と声をかけると、助産班長のトメが「おおきにぃ ハァハァ そこに置いとってくださぁーい フゥフゥ」と肩で息をしながら応え、部下たちに
「そしたら、あんたらお迎え頼むな。悪いけど、すぐ戻ってきてや」
に、3匹が急いでマユ庫から出ていった。
やってきたトメにマチは「なんや今日は忙しそうやな。奥にたくさんおるんは、今日サナギから羽化した乙女たちやろ?」
トメはゼェゼェしながら「はい、そうですぅ ハァハァ なんや今日はゴッツゥ羽化しよるんですわぁ フゥフゥ 待ってるんもようけおるんですぅ」
マチ「ひとりではサナギから出られへんよって、助産班が手伝わなどうにもならんしな。出したら出したで、ひとりでは動かれへんし何んも食べられへんさかい、世話班がご飯もあげなあかんからなぁ。乙女の数が多いと難儀やでホンマ。ウチらも手伝おか?」
トメは嬉しそうに「ええんですか? 助かりますぅ。そしたら、助産と世話を半々でお願いしてよろしいですか?」
マチたち8匹は「よっしゃぁ」と半々に分かれて奥へ向かうその横を、今やっと歩けるようになった一匹の乙女が、ヨタヨタと通り過ぎていく。
マチが「これから6階の働き学校に行くんやろ? 一人で行けるか?」
とその子に優しく声を掛けると、弱々しく「はい、大丈夫ですぅ」と応えてヨタヨタとマユ庫を出て行った。
マチはムラと目を合わせると「大丈夫や、しっかりしてる。ほな、やるで」
と奥へ向かった。

手伝いが終わったマチたち8匹がマユ庫から出てくると、長老のトシがマチを後ろから呼び止めた「これマチ ちょっと、マチんしゃい」
マチは『ドン引き通り越してイタタタッや。ほいでも一年半のご長寿を迎えた長老に冷たい目は向けられへん』と心でつぶやいて、ニコッと振り返り
「あらトシさん。どないしはったんですぅ?」
ムラやシマたちはそそくさとトシの横をすり抜けていった。
トシ「どや、ワシのダジャレ。イケてるやろ」
向けた笑顔が引き攣るマチ。何度も何度も、触角が腐るほど聴かされてん…
「冗談はさておきやな、マチあんたももう半年や。そろそろ内勤から外勤になる歳やさかい、今のお世話係はキリのええとこで終わりにして、次は探索係にいってやぁ」
マチは少し考えて「わかりました。差配係のトシさんの話やさかい一生懸命やらしてもらいますぅ。ただ、サイ様のことで気掛かりがあるんですぅ」
マチは、タマゴが減ってること聞きまつがいが多くなったことをトシに相談した。
トシは遠くを見る目で「サイ様ももう15歳や。そろそろかもしれへんな」
マチは真顔で「そろそろって…それは、イブ・シティが終わる言うことですか?」
トシ「まだわからへんけどな」
マチ「新女王アリが生まれたんも、そのきざしゆうことですか?」
トシは目を閉じ上を仰ぐ。そしてマチを見つめると「かもしれへん。覚悟しとかんとな。ほら、サイ様に挨拶しといで」
そう言ってトシは地下6階への通路を降りていった。

マチが女王の間に戻ると、サイが1匹で何やらのたまっている。
「はぁぁぁ ようやっと出せたぁ。デッカい腹が重とうて動くんもナンギ
やさかい、ウ○コすんのもひと苦労や。出したら出したで、腹減ったわ」

女王の間は、サイが一歩お尻を出すと、隣の豪華なトイレで用を足せる仕組みになっている。ちなみに、サイがこの地に女王としてたった1匹で降臨した時に、最初に作ったのがこの女王の間と豪華なトイレなのである。

マチはサイの大きな独り言が終わるのを待って、
「ただいま戻りましたぁ サイ様、なにモノ凄い独白してますの」
サイは「誰が毒吐いてん💢 毒なんか吐くかい!ウ○コしてただけや」
キッとマチを睨んだ。
マチは目を逸らし『戻っていきなりかい! 加速してへんか』と心で叫び
「そんなん言うてません 独白ですッ ひとりで呟く ど・く・は・く
サイは「あッ、あははは さよかぁ…すまんのぉ」
マチは「ホンマにもう。まぁこんな風にバカが言えるって幸せですねぇ」
と笑うと、サイはまたまた目がすわり
こんなバカがいるって不幸せやとぉ💢 なんやそれぇぇマチィィィ!」
マチはうな垂れ『もう嫌や… もう潮時や…』と心でつぶやき、ゆっくりと
「バカがいるなんて言うてません バ・カ・が・言・え・る ですぅぅ」
サイは照れながら「なんや、またかいなぁ、すまんのぉ ホホホ。それはそうとマチ、朝ご飯はまだかいな」ブチッ
マチは目を吊り上げ、サイに向かって大声で「さっき食べたやんかぁぁぁ」とモノ凄い剣幕で迫ると、うしろからムラが「マチさん落ち着いて。サイ様にキレるて、マズイでしょ」とマチを羽交締めにした。
サイは「ホホホ せやったなぁ」ポポポンッとタマゴを産んでごまかした。


2  につづく

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