見出し画像

シン・九州 転 五~とある次元の物語~

転 健軍へ
  2


2023年5月29日(月) お昼ごろ 九州連邦 某所

慈国 大志は、その地下室の扉をゆっくりと開くと、用心深く踏み込んだ。
仲間たちが大志に続く。
仄暗い地下室の奥には、サングラスに黒スーツの二人が真っ直ぐに立ち、二人の頭上にはジャバンの紋章である 羽を広げた八咫烏 を映した大きなモニターが浮かんでいる。
大志は近づきながら、その紋章から二人へ視線を落とし、低い声で
「オイたちば呼び出したとは、あんたらね」と睨む。
ガリガリ...ガガガッ...仲間たちは鉄パイプや金属バットをヒキズリながら大志の後ろに広がる。
大志の「いったいなんの...」を、モニターに映った初老の声が遮った。

「これはこれは なんショッカー の皆ミナさんじゃぁござんせんかぁ。
聞いたぜぇい、北九州 紺屋町のキャバクラでジャッカルに反逆の狼煙を挙げたんだってなぁ、やるじゃねぇかぁ えぇ」

「賀酢...首相ぉ?」
大志と仲間たちはモニターに釘付けになり動きを止めた。
大志「な なんね...いったい…」
賀酢「探してたのさ、あんたらみたいな反骨の仲間をよぉ」
大志「仲..間..?」
賀酢は真っ直ぐ大志を見つめて「どうでぇ、もっともっと暴れてぇだろぉ」
大志は俯き「暴れたかバッテン、オイたちは...ジャッカルにも逃げられるハンパもんタイ」
賀酢「悔しくねぇのかい?」
大志はキッと賀酢を睨み「悔しかぁ、悔しかバッテン、いまのオイたちはコソコソ闇討ちしかできんちゃ」と声を荒げる。
賀酢はニヤッと「オイラたちと組まねぇか? チカラァ貸すぜぃ」
大志「チカ..ラ?」
賀酢「マシンガンにバズーカ、爆薬に弾薬、ジープにバイクにドローン、そして戦術から科学技術まで。あんたらが欲しい全てをジャバンが用意しようじゃねぇか」
後ろでどよめく仲間たち
大志「オイたちに、なんば..しろと」

賀酢が叫ぶ「イーってなるんだろう、その国の建前に。だったらよぉ、ブッ潰そうぜぇ。その国の警察も、軍隊も、綺麗ゴトもよぉ」

「わぁぁぁぁ」「うぉぉぉぉ」仲間たちが雄叫びを挙げる。

賀酢「アジトはここを含めて九州に10ヵ所用意した。そのグラサンの二人はジャバンとの連絡係 兼 軍事教練係だ。どっちも自由に使ってくれ」
続けて「じゃぁ、まずはユニフォームだな。真っ黒な全身タイツなんか…どうでぃ?」

大志の「ふざくんなッ」 に、ドッカーンと笑いの渦が起きた。


2023年5月29日(月) 12時14分 熊本駅3番線
ゆっくりと発車する電車。その中で誰かと電話をしているサブロー爺さんに、私と武と丈は3人揃って大きく手を振って別れ、USKカードで3人ピッピッピッと熊本駅在来線の改札を出た。
広いコンコースを「白川口(東口)→」に沿って駅を出ると、
都会なのに広い空、綺麗な青空
私が「ううーん」と大きく背伸びをすると、武と丈もそろって「ううーん」

なぜだろう、初めての場所なのにぜんぜん不安じゃない。
なぜだろう、さっきから私 笑顔だ。

左手に広いバス乗り場。でもバスは1台も止まってない。
少し歩くと 目の前に路面電車? が止まってる。
初めて見る、ちょっと古そうな、1両で、電線の下に、パンタグラフ?
車体の色は白をベースに真ん中に緑のライン、行先表示が健軍町 だって

「これ...だよね?」と真ん中の扉でキョロついてたら
「足元にご注意ください。乗車の際はUSKカードをタッチしてください」
とアナウンス
「あっ、ここね」ピッピッピッと3人で路面電車に乗り込んだ。

とたん、「こんにちわぁ」と大きな声。
えっ、またぁ? まさかシローじゃないよね...名札は...シローだ!
嘘でしょ
その向こうに3人の同じ服と帽子のお爺さんがこっちを笑顔で見てる。
マジ?
シロー爺さんの「どこまで…」を
健軍校前まで行きます。はい、USKカード」とドヤ顔で遮ったけど、
シロー爺さんは淡々とドコデンを出しながら
「どこから来らしたと」 はぁぁぁ、何度目…
まぁいいか。じゃあ ときわ台のアパートへ隠れたところから。

12時31分 丈
へぇーすごい、ロメン電車って床が木でできてる。
お兄ちゃんとボクは、緑のロングシートに並んで座って、窓をのぞいた。
後ろで、止まらないママの話をシローおじいちゃんがウンウンと笑顔で聞いてる。わぁ、いつのまにか満員だぁ。

「ドアが閉まりますご注意ください。」ピーッ,プシュー
12:34 シュッパァーツ

「毎度市電をご利用頂きましてありがとうございます。この電車は辛島町 熊本城 市役所前 水前寺公園 動植物園入口経由 健軍町行きでございます。
次は祇園橋 祇園橋でございます。」

ガタンガタンガタンと線路の音、クゥーーーンとモーターの音
チーン ? って...降りるボタンの音?!
ん? 信号で...止まった...バスじゃん!
クネクネと曲がってギオンバシ 道の真ん中に細ぉーい屋根の細ぉーい駅
みんな一列で待ってる ツマサキ立ち…かナ?

うわぁ 直角に曲がった 左へ 右へ、あれ? バスも走ってる
ゴフクマチ 屋根がない...ホームだけ

「...へお越しの方は辛島町電停でお降りください。」
デンテイっていうんだ、駅じゃないんだ...ふぅーん

電車の前が横断歩道 線路の中を 人がたくさん歩いてる フシギ
たくさん降りてたくさん乗ってきた

「次は花畑町 花畑町」

あれ?まただんだんビルが高くなってく
あっ 銀座通り って書いてある えっ ギンザぁ?

「次は熊本城市役所前ぇ熊本城市役所前ぇ」

シローおじいちゃんが反対の窓を指差して
「あれが熊本城タイ、こん国一のお城タイ」とトクイ顔
うん、さっきサブちゃんに聞いた

「...USKカードに献血メッセージが入ったら、市役所そばのココネビル5階 献血ルームで今月中に献血を済ませてください。次は水道町」

ママが話を止めて「えっ、献血って強制なんですか?」
シローちゃん「国民の義務やケンね」
「へぇ、良いのか悪いのか」と、下関のあたりからまた話し始めた。

スイドウチョウを過ぎるとビルの高さがまただんだんと低くなる。

「次は味噌天神前」

おばぁちゃんが乗るのを電車のみんながゆっくり待ってる。いいなコレ
「USKカードばピッとせんやったろ、ここにピッとせんば」
車掌さんたち おばあちゃんにやさしい
でもおんなじ景色になんか あきちゃった

「次は水前寺公園」とくに緑もなく 公園っぽくもなく

でも、なんか 水がついた名前が多いネ
ずっとずっと真っ直ぐな道 フゥァー おおアクビ
あっ、商業高校前デンテイの 商業 が ❌ で消されてる
真っ直ぐな道にポツンポツンとイチョウが並んでる

「次は健軍校前ぇ 健軍校前ぇ」

ママが「次で降りるよ」
お兄ちゃんと「はぁーい」で チーン
13:18 とうちゃーく

13時20分 健軍校前 電停 京子
動き出した電車のシロー爺さんに3人揃って大きく手を振って別れ、大きなリュックを背負い直して周りを見廻す。ウン 目印...なし。

「さてと」と地図をグルグル回しながら周りと見比べて、「うーん」とまた地図をグルグルしていたら、横から武がチラッと地図を見るなり
「こっち」と歩き出した。

「えっ、なんでソッチって...」
「線路と電車の向きでわかるでしょ」

ぜんぜんわかんないわよ
丈に手を引かれて武のあとを追う。横断歩道を渡って歯医者さんの横の細い道をどんどん入っていく。

「本当にソッチで良いの?」
とキョロつきながら意味なく地図に目を落とし、またキョロつきながら武のあとを追う、丈に手を引かれて。
「明るい時間で良かったね。暗かったら迷ったかも」と武

いや、あたしゃまだ迷ってますけど
と、右手に公園が見えた。
「あっ公園、ここだここ」と地図をトントンと指で叩くと
武が「うん、もう少し行くと神社があるはず」

へ? いつ見たのよ そんなの
と、地図を見返すと横から丈が笑顔で「お兄ちゃんってすごいよね」

なによ
ズンズン進む武にヒィヒィとついていく、肩にくいこむリュックに耐えながら、汗だくで。
「ねぇ、もうちょっと、ゆっくり...あれ?」
と、目の前に小学校が現れた。校門に 健軍小学校 の文字

「武ぃ〜 この小学校だよぉ〜 二人が通うのぉ〜」
トントンと武が戻ってきて「へぇ、木がたくさん。運動場も広いし、東京の小学校とは全然違うね。『正しく強くおおらかに』だって」

笑顔で振り返った武に、私も丈もいつの間にか笑顔になってる。
咳が止まってよかったぁ

本当に緑が多くて広ぉい小学校 良いところに来たかも
ハッと武を探すと、小学校の周りの細い道をドンドン先を歩いてる。

ぉいぉい ハァァァ
広い道路に出てしばらくヒィヒィと登っていくと

「あったぁ、ここだよぉ」
と、30mほど先で武が笑顔で指差す右側に、ゆっくりと大きな健軍神社が現れた。

「わぉ、立っ派な神社ねぇ」フゥゥと一息
ん? 鳥居が...低っ なんで?

鳥居の前で二人に「じゃぁ2回お辞儀して、そうそう、2回手を叩いて、うん じゃ神様にね、これからお世話になります、よろしくお願いしまぁーす
って、はい じゃぁ最後にもう一回お辞儀して、うんオッケー」

で、右側の案内板には何が...
「なになにぃ」
丈「なんて書いてあるの」
「ふむふむ」
丈「ママ読めるの?」
「なんとなくね」
武「御祭神って何? 13人いるけど」
「人じゃくて、柱よ、神様はね 柱って数えるの」
武「13柱?」
私の「なるほど」に、丈が真剣な顔で袖を引っ張って「なになにぃ」

「なんかね、その昔フジワラのノリマサって偉い人がね、今みたいな気候危機でお米とかが育たなくて困ってね、冬に阿蘇神社へお供え物を持ってお参りに行こうとしたら、大雪が降ってここで動けなくなったんで、阿蘇大神(アソオオカミ)に祈ったんだって」
丈「オオカミィ?」

「いや、大っきな神様ね。そしたらね、そこの石の上に小ちゃい子供が現れて言ったんだって

『こんな寒い中、ようここまで来はったな。
 あんたの大神への信心はようわかったで。
 せやけどな、阿蘇神社は東を守らなあかんサカイな、
 ここに大神を祀った健軍神社を作って西を守らんかい
 全部あんたに任せるで。
 ウチは阿蘇大神や』...だって」

武「なんで関西弁なの?」
「いや、東京弁だとなんか違うし、九州弁はまだ喋れんし」
丈「お米はどうなったの?」
「んー、書いてないけど、なんとかしたんじゃない」
丈「すごい、天気をやっつけちゃったんだ、オオカミさん」

「神様が言った西を守れって、何んのことかナ?」と武
「さぁ何だろねぇ。 よし、じゃぁココの神様にも挨拶したし、行こうか」

振り返って、神社から石の灯篭が続く長くまっすぐな参道を3人で歩く。
地図をグルグル回しながら健軍1丁目X-Yを探していると、武が少し先の脇道から出てきて
「あったよ、こっちこっち」

あんたすごいね、ほんとに初めて来たの ココ?
門があるその綺麗な二階建ての家には『東』の表札がかかってる。

けど、
「イヤイヤいやいや、違うでしょ、こんな立派な家がタダな訳ないじゃん」
とあとずさると、うしろから

「東 京子さんかね?」
ヒィ っと目を剥き振り返ると、品の良いお爺さん。

「はい…東…ですが」
「ここにUSKカードばピッとしてくれんね」とドコデンを出しながら
「隣の五味 六郎っちいいます。初めまして。帰化亡命局から東さんのことば聞いちょったケン、掃除ばしといたと。はい、こいが鍵タイ」

目を見開き「ほんとに、私ですか? 間違って、ませんか?」
六郎さんはドコデンをチラッと見ると笑顔満開で「なぁんも間違っとらんバイ。ほんなごつ、ほんなごつ、よぅ来んしゃった。もう安心してよかよ」

「わぁーい」武が私から鍵を取って丈と門を開けて入っていった。
六郎さんは笑顔で「元気んよかねぇ、そいじゃぁ」
その背中に深ぁくお辞儀をして顔を上げると、六郎さんは誰かと電話をしながら隣の家に入って行った。

7月28日(金) 12:05pm 長崎府 大統領官邸
大統領官邸オンラインルームで並んで座る仲邑外務大臣崎山国防大臣
二人の前には、連邦各州の邪狩(ジャッカル)支局長9人が、どの画面も不機嫌な顔で、大きなオンラインモニターを9分割にして映し出されている。

仲邑が静かに始めた。
「みなさんの活躍で、連邦内の忌まわしい通貨『円』は、今まさに絶滅の時を迎えようとしています。4月の終わりに、外務省金融局の外郭団体として発足したジャッカルが、邪蛮(ジャバン)の通貨である円を連邦内から駆逐し続けたおかげで、時には『お金狩りの邪狩』などと蔑む声もありましたが、たった3ヶ月で連邦内から『闇市』が消え去ろうとしています。
この成果に心からの感謝の意を表します、ありがとう」

と笑顔で話し終えた仲邑に、押し黙る怪訝なモニターの9人。

奄美州支局長が口火を切った
「ハゲー、ワンキャ オハライバコ ニナラリォン」
「へっ?」と目を剥き固まる仲邑に、
「そげん話じゃナカ」と崎山が割って入る。
「ハゲー、サツマンチハ ワジワジ スッチャンチー」
崎山は、目が泳ぎっぱなしの仲邑に奄美島口の意を伝え、
「黙って聞きやんせ」
とモニターを睨んだ。

笑顔に戻った仲邑が「みなさんをお払い箱にするなど、とんでもない。これほど優秀な人材を無駄になどできません」
モニター画面がザワつき「バッテン、もう役目はほとんど終わっとぉんじゃろ」と睨む佐賀州支局長に、
仲邑は「はい、なので今日はみなさんに提案があります」
「そりゃ、どげん提案ね」と福岡州支局長が凄む。

仲邑はひと呼吸おき、
「連邦国防省の陸海空各軍の基地には、連邦防衛の要となる軍艦や戦闘機、ミサイルといった重要な兵器が配備され、この国を守っています。
また軍事とは別に、国防省エネルギー研究所では未来のために『核融合』『宇宙エレベータ』『反重力エンジン』『雷水素変換』などの研究が各基地に分かれて進んでいます」

「話ん長かぁ、そいがうちらにドギャン関係があるとか」と熊本州支局長が急かす。

仲邑が続ける「これはこれは熊本の。連邦内の基地の中で『連邦の守護神』ともいえる兵器が侵略国に睨みを利かし、そしてエネルギー研究所も兼ね備えた非常に重要な基地が熊本州にあります。陸軍 健軍基地です」

「...」押し黙るモニターの9人。

「非常に重要な基地ですが、いまは人手がなく守りが手薄です。
加えて、みなさんの活動を邪魔するなんショッカーという愚連隊が、最近 ジャバンから物資やバイオ技術の提供を受けてテロ組織に変貌し、健軍基地を狙っているという情報も掴んでいます」

ザワつくモニター画面

仲邑は力強く「みなさん!ジャッカルを国防省へ移して、健軍基地を守って頂けないでしょうか」

ひとしきりザワついたあと、モニターの各画面から
「やらせてたもんせ」
「やりたかです」
「やらせんね」
「アリギャッサマ」

「バッテン、おいたちは兵士じゃなかバイ」
に仲邑は「もちろん、みなさんにはここにいる崎山国防相のもと、護衛部隊の兵士として訓練を受けていただきます」
「おぉー」「おぉぉ」「うぉぉー」と各画面が雄叫びを上げている。

「そいでは、健軍で会いもんそ」と崎山が会議を締めた。

転 六 「この国では、モノを大事にする。ハンパなく大事にする。だから、壊れたらまず直す。もうダメだろ からが本番らしい」 につづく

#オリジナル #小説 #創作 #短編 #物語 #フィクション #人新世


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?