第7話 チョコはいずこへ
(連載小説 『チョコっと変わった世界』)
もう一軒、今度はドラッグストアに入ったが、チョコレートは、チョコそのものもチョコ風味のものも見当たらなかった。
「なんなんだこれは!?」
ようやく見つけた現実世界との違いが、こんなにも些細なものだなんて。でも現実世界でチョコの姿がまったく見えないなんて考えられないので、これはやはり異世界なんだ!
家に着いて、母親にシュークリームを渡しながら、チョコがなかったと告げた。
「ん、なにがなかったの?」
「チョコ。チョコレートだよ」
「ふーん。じゃあ別の店に行ったら?」
「何軒かまわった。で、母さんチョコ知ってるの?」
「知らないわよ」
と、さして気にしていない。新しいお菓子のひとつとでも思っているようだ。
ぼくは部屋に戻る。どうも説明する気になれない。
ゴロンとベッドに倒れ込み、ぼんやりと天井を見つめた。
ぼくはやはり死んじゃったのか? ぼくのこめかみから耳に、涙が伝った。
―― 現実世界の母さん、悲しんでるだろうな。
悲しみがわき起こると同時に、ホントに異世界なのかという疑問も残る。なにしろチョコレートがないだけじゃ、あまりにちがいが小さすぎる。
そこでぼくは、ネットで検索してみる。
『チョコ』と打って検索するが、食べ物のチョコは出てこない。『チョコレート』でも同じだ。『チョコ味』、『チョコ風味』だと、さらに出てこない。
「ホントにないんだ……」
なんだか笑い出したくなるくらいに些細なこと。でも、ぼくは笑えなかった。
翌日ぼくは、大学に行く途中に数軒のコンビニに寄った。スーパーにも、ドラッグストアにも。いずれもチョコをさがすためだ。しかし、どこにも見当たらない。それは当然だ。ネット検索で出てこなかったんだから。
ぼくはパン屋とケーキ屋にも寄った。もちろんそこにもない。ぼくは気落ちしていたし、聞いて変人扱いされる恥ずかしいので、店の人に尋ねることなく店を去った。
大学では友人たちに尋ねようか悩んだが、結局口を噤んだままだった。結果は分かってる。何言ってんのと、不思議そうな顔をされておしまいだ。
たったチョコひとつのことだけど、それはとても大きな問題だった。ぼくは振りほどきようのない孤立感に包まれた。
つづく
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