チョコ10

第11話  中毒になってるよ

(小説  『チョコっと変わった世界』)
 
 
 ―― あぁ、チョコ食べたい。
 
 ぼくはそればかり考えるようになってしまった。
 
 もはや中毒と言っていい。実在しない食べ物に中毒になるなんて、ぼくぐらいじゃないのか!?
 
 子どもの頃、チョコは中毒性があるから食べすぎるなと、父親に怒られたことがある。あぁ、まったく懐かしい。つまりは中毒になるくらいにチョコがあったわけだ。今のぼくは悲しいことに、中毒になることもできない。
 
 異世界がこんなだなんて、チョコがないなんて、想像すらしていなかった。なんて最悪の世界なんだ! もっとも、虫だらけの世界とか灼熱地獄なんかに比べればよっぽどいいわけだけど。でもやっぱり、チョコを欲する気持ちが耐え難いほどに強くなっているので、この世界こそが最悪だと思ってしまう。
 
 さっきから、ゴロンとベッドに寝っぱなし。何も手に付かない。ここ数日大学にも行ってない。
 
「そうだ!」
 
 チョコがないとなると、チョコの原料を輸出してる国はどうなってるんだろう。ぼくはそのことに思いつき、ガバッと起き上がるとパソコンに向かった。
 
 立ち上げて検索画面を起こす。数日前、チョコの有名な会社は検索した。当然ながらそれらはなにも出てこなかった。ゴディバもモロゾフもロイズも。
 
 まずは『ガーナ』と打った。やはりチョコと言って日本人が思いつく国は、なんといってもガーナだろう。この国で、チョコの原料となっているカカオマスが輸出してないとしたら、経済は大丈夫なのだろうか? おそらく相当のパーセンテージを占めているはずだったのに。
 
 『ガーナ』と打って、ぼくはその経済状況を調べるつもりだった。しかし……。
 
「そんなことって……」
 
 ガーナという国は、検索しても出てこなかった。
 
 ないのだ……。
 
 ぼくは次に、『コートジボワール』と打ってみる。日本ではガーナがカカオ生産国として知られているが、コートジボワールはガーナの倍近い生産量だ。
 
 でも、コートジボワールも出てこなかった。
 
 ぼくは、チョコと言って連想できそうな国を片っ端から検索していった。カカオ豆は赤道に近いところでしか生産できない。だからアフリカ、東南アジア、南米大陸の上の方に限られる。ヨーロッパもアメリカもオーストラリアも東アジアも入らない。しかしアフリカの国はことごとく出てこず、南米や東南アジアはさすがに実在したけれど、その国の内情を検索してもカカオ豆の輸出はなかった。
 
「国がないなんて……。やっぱりここは、現実世界とちがうところなんだ」
 
 今度は、アフリカ大陸をネットで見てみた。ガーナやコートジボワールがないとしたら、その辺りはどうなっているのだ。空洞にでもなっているのか?
 
 じっと、画面に映し出された地図を見つめる。ぼくははっきりとは、ガーナやコートジボワールの場所を知らなかった。でも赤道付近であることは間違いがない。
 
「なんだぁ……」
 
 間延びした声が、思わず出た。なんだか聞いたことのない国名が並んでいたからだ。
 
 もちろん、現実世界でのぼくは、国マニアではなかった。だからアフリカの小国を知っていたわけではない。でも、やっぱりある程度は耳に残っていた。セネガルやカメルーンはサッカーで知っていたし、ナイジェリアやスーダンはニュースで聞いていた。でも、赤道付近の地図には、まったく耳にしたことのない国名が乱立していた。そしてまた、こんなにも細かく国が分かれていることにも、違和感を持った。
 
 アフリカの国がこの世界に存在しないことに愕然としたぼくは、再びベッドに倒れ込んだ。こんどはうつ伏せに……。
 
 
つづく

 

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