チョコ10

第6話 チョコレー途方

(小説 『チョコっと変わった世界』) 
 
 と、いうことで、気持ちを整理させたぼくはスイーツの並ぶ棚へと向かった。
 
 この、青を基調としたコンビニチェーンのスイーツは他より一段美味しい。以前は大手コンビニの中ではなんとなく暗い、さえない雰囲気だったのが、数年前に一新された。中でもスイーツの充実は目を見張るものがある。
 
 ゼリーやヨーグルトなどのカップ物が並ぶ側の、反対にまわる。そこにはシュークリームなどのスイーツ物が並んでいる。
 
 このコンビニのカスタードは美味しく、ずらりと並ぶシュークリームに惹かれるが、チョコ好きのぼくは同じカスタード系ならエクレアを選ぶ。そこで棚に目を走らせたが、残念ながらエクレアはなかった。
 
 売り切れならばしょうがないと、ぼくはシュークリームを自分と母親の分の2つ取って、そしてチョコのコーナーへ向かう。
 
 お菓子の並ぶ通路には現実世界で見慣れたポテトチッ……。いやいや、ここが現実世界なのだと、さっき心に決めたばかりじゃないか。見慣れた包装のポテチもせんべいもグミも、あって当然なのだ。
 
 ぼくはそこからチョコの小袋を取る。
 
 ……はずだったが、チョコが見当たらない。小袋だけでなく箱のものもない。
 
 ―― んなことある!?
 
 となりの陳列棚にまわるが、カップラーメンや日用品が並び、お菓子類は置いていない。
 
 ―― じゃあ、あっちか?
 
 と、ぐるっとまわるが、思ったとおりその棚はほとんどパンで埋められている。端っこはパンではないが、コーヒーやジャムなどでお菓子ではない。
 
 ―― 異世界?
 
 いや、ちがうだろと、心の中で否定する。単にこのコンビニにチョコがないからってだけで異世界だなんて。でも、不自然だ。ぼくはとにかくレジでシュークリームの会計を済まし、店を出た。
 
 そしてすぐそばの、会社黎明期の営業時間を店名とする最大手コンビニに入る。
 
 店員の慇懃だが機械的な「いらっしゃいませ」の声、立ち読みの客、カップコーヒーの芳しい香り。どこをどう見てもまったくありきたりな、コンビニの店内。そこでぼくは唖然とした表情で立ち尽くす。お菓子の棚に、チョコ類が一切見当たらないからだ。
 
 ―― こんなことが……。
 
 ぼくは険しい顔で、他の陳列棚も見る。パン類、ドリンク、スイーツ……。
 
 しかしそれらのどこにも、チョコのかけらも見えない。パンのコーナーにはチョコ味もコロネもないし、ジャムのコーナーにはチョコスプレッドもない。栄養補給バーにも、チョコ味がなかった。
 
「チョコなき世界……」
 
 ぼくは小さく呟いた。

 

つづく
 

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