チョコ10

第22話  石見知子の不思議な行動

(小説  『チョコっと変わった世界』)
 
 
 大学に着いても授業には出なかった。なにしろ、教科書も筆記具も持っていないのだ。
 
 噴水前のベンチに座っていると、彼らが歩いてきた。
 
「あ~、また座ってるぅ~」
 
 石見知子が、また間延びした口調で言った。田名瀬が、睨みつけるような視線でじっと見ている。
 
「ちゃんと行ったからな、会社」
 
 先手を打って、田名瀬に行った。
 
「で、就職することに決めたのか?」
 
 ぼくは首を振った。会社に行くとは言ったが、就職するなどとは約束していない。
 
「どうすんだよ?」
 
「どうすんのよぉ~」
 
 田名瀬と石見知子が同時に言った。
 
「帰るよ」
 
 ぼくは立ち上がって、歩き出した。
 
 彼らは本当に、親身になって心配してくれているのかもしれない。でもぼくは、やはり就職なんてする気が起きなかった。そしてまた、就職する気が起きない理由を説明できないのもつらかった。彼らの心配を受け流してしまっているのだ。ぼくは気持ちがざわついてしまい、その場を離れることにした。
 
 しかし、彼らはそうは取らなかった。駅に近付いたときに、石見知子が走って追いついてきた。
 
「ねぇねぇごめん~。ウチら言いすぎたね~。謝るから、なんか軽く食べてこうよ~」
 
 ぼくは石見知子に、怒ってないこと、逆に自分の気持ちを持て余して、心配してくれる友達に申し訳なく思っていることを伝えた。
 
「ほんとにぃ?」
 
 それでも石見知子は半信半疑だ。
 
「じゃあいいよ。ホントに怒ってないから、軽く食べてこう」
 
「うんうん~。じゃあどこにするぅ?」
 
「そうだなぁ。あんまりお腹も減ってないから……」
 
 ぼくは駅前にある、大手のハンバーガーチェーンを言った。そこで石見知子が、驚いた顔をして言葉に詰まった。
 
「どうしたの? イヤなの?」
 
「えっ、いやぁ、いいよそこで」
 
 なにか歯切れの悪い対応で、それでもぼくたちは店に入っていった。
 
 石見知子が注文し、ぼくはそのあとに注文した。石見知子のときには快活に返答していたアルバイト定員が、ぼくのときにはどぎまぎした感じだった。なんだろうと思いながらトレーを受け取って硬い席に着く。
 
 コーラを一口飲んだぼくは、石見知子がじっと見ていることに気が付いた。
 
「どうしたの? 食べないの?」
 
 それには答えず、石見知子はぼくの顔を見続けている。そして、
 
「これは?」
 
 とハンバーガーを指さした。
 
「えっ、どうしたんだよ?」
 
「いいから、これはぁ?」
 
 なにか意外にも石見知子が真剣なので、ぼくはバカバカしくも、ハンバーガーと答える。すると次に石見知子はぼくの飲んでいるものを指さして聞く。ぼくはコーラと答える。さらにポテトを差して聞く。
 
「なんなんだよ。ポテトじゃんかよ。なに言わせたいんだよ!」
 
 しかし石見知子は、眉間にしわを寄せてぼくをじっと見ているだけだった。
 
 
つづく
 

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